四章(三ターン目〜五ターン目前)
二ターン → 三ターン
東 10 9
西 4 3
南 3 8
北 3 0
このターンで俺は東へ三つのライフを贈り、東は何もしなかった。その点だけで考えると結果は「東13南3西4北0」になるはずである。ということは予想より「東-4南+5西-1北0」の変動があったということになる。つまり南と西が合計四つのライフを奪い、さらに西から南へのライフの譲与があって……。
十分ほど考えていただろうか。どうも結果にしっくりこない俺は、ふと思いたってテレビ画面を再確認した。学校の問題で答えが合わないとき、計算ミスよりも問題のミスをつい探してしまったりはしないだろうか?
例えそれが無駄だと分かっていても、衝動的に問題分を読み直すのだ。無意識かつ無意味な確認。しかしこの些細な行動により、俺が三ターン目の結果に対して抱いていたイメージが音を立てて崩れることになる。
(なん……だと?)
すでに四方位中二つの方角が点滅していた。その一つは南の秀。そしてもう一つが、東の美紅。それはいい。別にその二人が行動を終えていることはなんら問題ではない。懸念すべきは西のヒヨ。彼女がノートへの記載を完了していないことが不自然なのだ。もし彼女が東との契約に縛られているなら、ここで留まる意味は一つしかない。
俺の動きを待っているのだ。黒ノートの優先順位は決定順に左右される。黒ノートを四番目に使いたいと思うなら、全員の決定を待つのは自然だ。
だがその意味は?
北のライフがゼロであり、俺の動きが分からないこの状況で、後手に回る意味がどこにある……?
思考が一時停止した。不可解な西の躊躇について必死に考えている最中、さらに驚くべき事態が発生したのだ。
(西が、点滅した!?)
予測外の出来事が仮定の根底を覆す。俺を待っていたわけでないなら、何故この遅れは生じたのか。これでは無意味に時間をかけたとしか言いようがない。決定が遅れる理由、それは俺のようにライフの推移について熟考しているか、もしくは――
――動揺。
何かに戸惑い、パニックに陥っている時だ。その場合落ち着きを取り戻すために時間が必要。ここまできて彼女が前者とは考えないでおこう。これまでややこしいことをしてきたのは明らかに秀の方だ。今から彼女が黒幕と考え直すのは無理がある。
となると、彼女は何らかの出来事に動揺しているとみて間違いないだろう。ではライフの変動以外知り得ない状況で、彼女の平常心を揺るがした出来事とは何か。
間違いなく、裏切りだろう。
つまり秀は彼女を裏切ったのだ。どういう契約でどういう裏切り方をしたのかは分からないが、その裏切りには必ず次の段階があるはず。なぜならこの結果から秀が優位に立ったとは思えないからだ。そもそもただの裏切りならばこんな早くに決行する必要は無い。
スパイが悪の組織に潜入した瞬間正体を明かしても、談笑を止めることすら出来ないだろう。その行動には別の意図が隠されているはずだ。基地に爆弾をしかけるとかボスを暗殺するとか。
となると、秀の別の目的とは?
秀がヒヨと組んだのは俺と美紅を組ませるため、俺はそう目論んでいた。しかし秀はその共同戦線から離脱。普通に考えれば俺達の輪に転がり込んでくるよな? 三国同盟を裏切ったイタリアが連合国に割り込んだみたいに。でもそんなことをすれば俺達の勝ちは決まってしまう。いじめのようなもんだ。
これは俺の想像にすぎないが、秀はそういうつまらないことを必死でやるやつじゃない気がする。ていうか、だとすれば用意周到すぎて気持ち悪い。いじめられっこに浴びせるためだけに山の中で虫を捕まえるようなもんだ。そんな泥臭いことをあんなキザな野郎がするか?
いや、しない……で欲しい。まあ俺の理想像はどうでもいいとしても、やはり秀には何か別の思惑があると考えるべきだろう。
本当の目的。それがあったからこそ、彼はインターバルの時間にあんなややこしいことをしたのだろう。考えてみれば随分と危なっかしい真似をしたものだ。
まず彼は突飛な登場をして俺らに油断をさせ、その上で小細工を仕掛けた。体育館内は薄暗く、多少闇に紛れられるとはいえ、よく部屋から出て来るのを気付かれなかったもの……だ……?
よく、気付かれなかったものだ……?
待て、どうしてそんな曖昧な理解で納得しているんだ、俺は?
俺はどんなゲームであれ、相手の無駄な一手でさえ重大な意味があると思ってしまうタイプだ。だからこそ今回のライフ変動についても限界まで考え尽くしているのさ。
にもかかわらず秀の行動に対し、『よく気付かれなかった』などと曖昧な、偶然な、確率的な理解に落ち着いている。ゲームではなく、現実の行動だからか?
現実だからうまくいくこともいかないこともあると?
俺らしくねぇ!
一挙一動一音一句まで意味を紡ぐ、それが俺のモットーだ。秀の奇怪な行動は偶然でなく、必然にして成り立ったと考えるべきだろう。彼が取った不可解な行動……。
一、二ターンでの決定の遅れ。
インターバルでの登場の遅れ。
奇抜な登場。
二枚もの密書。
二対二の構想。
無意味な裏切り。
一見これらの点は繋いでも歪んだ線にしかならないようにも見える。だが、しかし、それでも。これらが別の結果に繋がるとしたら、全てが綺麗に繋がる理想線があるとしたら……。
頭の中で全てのピースが躍る。くっついては離れ、くっついては離れる幾層もの過程の後、ようやくそれらは確かな結果へと繋がった。
「……なるほど。気付けば、馬鹿みたいに簡単な話じゃねぇか――」
三ターン → 四ターン
東 9 9
西 3 3
南 8 6
北 0 2
四ターン目が終わった瞬間、俺は部屋を飛び出していた。急ぎ気味で足を進め、ある人物の部屋の前に到着する。しかしドアを叩くなど無粋な真似はせず、静かにその扉が開くのを待った。
そしてそれほど時間もたたず、扉は軽快に開かれる。登場した人物は俺を見てやや表情を変えたものの、すぐに繕って作り笑顔を向けてきた。
「あれ、キヨくん? いきなりどうし――」
「――猫っ被りは止めたらどうだ?」
セリフを早々にくじく。あまりこういう無駄な言動は好きじゃない。
「そう……か。へぇ……」
一瞬で美紅の薄ら笑いが消え、姿勢が正される。そして目元が暗く、目つきが鋭くなり、冷酷な目で俺を見返してきた。
「豹変、とはこういう時に使うのだろうな。よくもそこまで態度を変えられるものだ」
「言い『忘れて』いたけど、僕は演劇部所属。しかも腕は高い方でね、自分を殺すのが得意なのさ。とは言ってもここまで完璧に演技をこなすことが出来るのは、このゲームに参加し続けているためだけど。理由は言うまでもないよね。生半可な演技じゃ通用しないもんで、苦労したよ。あ、君はどうやら僕の体を観察していたようだけど、肌が黒いのは水泳もしているから。趣味の範囲に過ぎないけど」
凝った肩をほぐすように手で肩を揉みながら、美紅は冷たい口調で次々と言葉を発する。しかしまあ、演技を終えた途端ペラペラ余計なことを話し出す野郎だ。演技してようがしてまいが、話好きには変わりないらしい。
「お前の演技の話はどうでもいい。完璧だった、とでも褒めれば満足か?」
「そう言わずにもうちょっと話させて欲しいな。このゲームでこんな気軽に話すなんて初めてに近いんだからさ。毎度毎度次のゲームも仮定しているし、私生活でもキャラを崩さないんだ。出来ればこのまま君とずっと話していたいくらいさ」
美紅が俺にウインクをかましてきた。だがお前の苦労も解放感も俺の知ったことではない。
……とも思ったが、今の発言は少々気になる。
「お前はこのゲームで目的を果たせるのか?」
美紅が少しだけ目を見開いた。
「……へぇ、理解が早いね。そうだよ。僕はこのゲームに勝利すれば願いを叶えることが出来る。随分と苦労したよ。僕なんかよりももっと重い事情を抱えた者たちを蹴落とし、裏切りと嘘を積み重ねて。このために僕は、良心を殺して、自分を殺して、神経をすり減らして、頭脳を鍛えてきたんだ」
目の前の女はこぶしを軽く握り締め、語尾を強めに吐き出した。平常心を鍛えているはずなのに目に見えるほど取り乱すなんて、一体このゲームにはどれほどの……。
「ついでに聞くが、お前の参加費と賞品はなんだ?」
「さぁね、それに答える義理は無いよ。というか結構無神経なんだね」
「無神経?」
「参加費と賞品を相手に聞くのはタブーとされている。知らなかったのかな?」
「……なるほど、考えてみれば当たり前だな。多くの者はコンプレックスを解消しようとして、このゲームに参加している。参加費と賞品を聞くってことは、コンプレックスを聞く行為に等しいのか」
「うん、そう。君の理解速度には舌を巻くよ……じゃあそろそろ雑談を終えようか」
分かりやすく話を変えようとする。触れて欲しくない話題だったのだろう。俺としてもあまり気分のいい流れでは無かったし、そろそろゲームの話を進めたいとも思っていたからちょうどいい。
「じゃあ本題に移るぞ。まずはこれまでのお前と秀、そしてヒヨの思惑と行動についての俺の予想を聞いてもらう」
どうぞ、と言うかわりに 彼女は腕を組み、閉じた扉にもたれかかった。
「まずお前の行動だ。お前は一、二ターン目に自分のライフを他三人に配った。この行動の意味は二つ。一つは誰かと組みやすくなるため。そしてもう一つは優秀なプレイヤーに錯覚させるためだ」
「その通りだよ。ゲーム未経験者で最初から動き出す人はいない。つまり僕がゲーム経験者と相手に伝えることが出来る。しかも賢いプレイヤーはあれを見たらその意味を考えざるを得ない。その時注目されるのは僕でないプレイヤー。つまりその視点を違う人物に向けることが出来るわけだね。あと賢いプレイヤーとそうでないプレイヤーとの区別も出来るし」
インターバルで秀の方を重視していた俺を見て、美紅は内心でしてやったり顔だったに違いない。というか言われるまで気付かなかったが、こいつはプレイヤーの選別もしていたらしい。経験者ならではの知恵と言った所か。
「お前のその後の行動は置いとこうか、次は秀の行動だ。あいつは一、二ターン目行動決定をわざと遅らした。それはあいつが契約書やらなんやら書いていただけに過ぎない。しかしそれはおかしな話だ。だってあいつはインターバルに出て来るのも遅かっただろう。その前に契約書やなんやら書き終えていたとすると、インターバルに遅れて出てくる意味は無い。そう考えた時、俺はある仮定に辿り着いた。もしや秀は遅れて出てきたのではなく、先に出ていてどこかに隠れていたのではないか、と」
俺たちが秀の姿を発見したのは二階の通路ではなく舞台の上。気付かないうちに二階から降りてきたと考えるよりは、誰よりも先に部屋を出てどこかに隠れていたと考える方が妥当だろう。彼が二階から降りてきたと思ってしまったのはただの思い込みだ。
「そしてその目的は各人の性格、性質の確認だ。あいつは自分の作戦に使う人材を選んでいたわけさ」
実際この行動はいまだ予想の範疇を超えない。なぜならあいつの作戦に必須というわけではないから。俺があいつの作戦を考えていた時、ふと思い付いただけなのだ。しかしこの奇行を思い立った瞬間、俺は全てを悟った。
「じゃあ具体的なあいつの作戦を暴こう。といっても、お前がそんな態度を取っている時点で説明する必要性もないけどな」
「ははっ、確かに。でも一応聞かせてくれよ、程度が知りたい」
「こういう無駄な行為は嫌いなんだが……俺を秤にかけているつもりなら、お前に従おうじゃないか」
俺の台詞を聞き、美紅は顎に手を当てふっと微笑んだ。
「……ふ~ん、なるほど。やっぱそういう目的か」
「お前が頭の回るやつで良かったよ。じゃあ解説に戻るぞ」
お互い必要最低限の発言を繰り返しつつ、円滑に話が進む。うん、俺の好む展開だ。
「結論から述べるが、インターバルでの秀の最終目的はお前と組むこと、そして俺とヒヨを欺くことだった。あいつが俺らに白紙を渡した時、お前とヒヨにプラス一枚紙を渡していた。ヒヨには偽の契約書。お前には作戦の概要と協力要請の両方を記した紙を」
内容的には「部屋に戻って五分後に体育館に戻り、北の人の部屋を訪ねて下さい。おそらく彼はあなたに協力を要請してくるでしょうから、それを受け入れて下さい。その上で僕の部屋に来て下さい。以上」とでも書いてあったのだろう。それだけ書けば賢いこいつには理解出来るだろうからな。
「これで秀とお前がタッグを組み、俺とヒヨがそれぞれ盛大に勘違いをするという構成が出来たわけだ。ではお前らがどう動いたか……それはお前らが俺の行動を知っている、ということを考慮すると容易に予想できる」
ちなみに言えば偽の契約書で縛っているため、ヒヨの行動も相手に筒抜けだ。そして二回目のインターバルまでに彼らの協力がばれるのは明らか。ということは三、四ターン目で彼らの勝利に大きく前進するような作戦を立てなければならない。
でないと二回目のインターバルに入った時、美紅が秀を裏切る可能性が浮上するからだ。秀は俺とヒヨを騙したという前科があるため、美紅に亡命されれば打つ手が無くなる。
「二ターン終了時点でのスコアは「東10南3西4北3」。そして三ターン終了時のスコアは「東9南8西3北0」。俺が東に三つライフを贈った時点で、そのスコアは「東13南3西4北0」になる。ここで西であるヒヨにダメージを与えたと考えるのは困難だ。西の所持ライフが変わってないからライフ的ダメージは与えていないし、スコア的に黒ノートを消費させたと考えることも出来ない」
無駄な黒ノート消費をさせることは今回のゲームの肝だ。しかしこのターンに西が無駄な黒ノート使用をするには、俺か秀のライフを奪いグリードオーバーさせるしかない。しかし彼女は俺の行動が決まる前に行動決定をしたのだから、初っ端から俺か秀に対して、黒ノートを三回分使わせることは難しいだろう。
俺はライフを三つしか持っていなかった。ゆえに俺が白ノートを使った瞬間グリードオーバーが襲う。彼女はそんなリスクを犯してこないはずだ。それよりも秀は『ヒヨとの契約書が成り立っている可能性を残す』ことの方を優先してくるはず。例え秀がヒヨに伝えた計画と多少のずれが生じたとしても、そのずれが俺と美紅の行動で説明出来るなら、ヒヨは契約書に従うしかないというわけだ。
秀は契約違反=即敗北というルールを利用し、偽の契約書でヒヨの行動を縛ったわけだ。
「つまり三ターン目の秀の目的はヒヨとの契約が成り立っている可能性を残しつつ、四ターン目で圧倒的有利に立つための礎を築くこと。そのために俺の行動を見て全体の帳尻を合わせたわけだな。だからここのノート消費は置いとこう」
「グリードオーバーが起こっていないなら、ノートの消費云々は大きな意味を為さないからね」
「あぁ、というわけで四ターン目の解明に移ろうか。四ターン目、俺らのライフは「東9南8北0西3」から「東9南6北2西3」になった。先に言っておくが、俺の行動と秀からお前への契約終了時のライフ譲与を除けば「東8南9北3西0」」
秀と美紅の契約が美紅の契約書で行われたとは考えにくい。それに行動決定をしたのは俺が最後であり、結果から俺の行動とライフ譲与を引けば、おのずと前の状態が分かる。
「そこでヒヨが大損を被ったなら、考えうる各人の行動は一つに絞られる。まずヒヨが偽の契約書を信じているため、彼女の行動は秀の自由。ま、普通に考えて黒ノート三回分の消費だな。そしてその使い道はどうかというと、三つ全てが秀からの奪取だ」
「契約相手である秀のライフを奪うのなら、グリードオーバーする心配は無いからね。僕のライフはグリードオーバーでゼロになる可能性があるけど」
もしあの状況でヒヨが俺のライフを奪おうとした場合、グリードオーバーによりヒヨのライフはゼロになる。そんな相手からライフを奪わそうとするほど、秀は愚かじゃないだろう。
「さてヒヨのライフがゼロになったということは、秀のライフはゼロだったはず。グリードオーバー無しで秀のライフをゼロに出来ない以上、俺のライフを奪ったと考えるしかない。そして俺のライフが三になったことを考えると、ライフが交換される時秀のライフは三。ということは、お前と秀でライフを五つ分ヒヨに移したというわけだ」
北行動前ライフ推移
北 2→0→3
西 3→(A)→0(西が黒ノートで南から三つ奪った→南のCは0だった)
南 8→(B)→(C)→9(北とライフ交換→北は3になった→南のBは3だった)
東 9→8(南が9になった→西のAは9だった)
ライフ推移より
東:二つ南から取り、三つ西に贈る
南:黒ノート一回分で北とライフ交換、三つ西に贈る
西:黒ノート三回分で南とライフ交換、白ノート使用せず
「つまり四ターン目の動きは、まず秀がヒヨにライフを三つ与える。そしてお前が秀から二つライフを奪いヒヨに三つ贈る。次に秀が俺からライフを一つ奪い、ライフ交換された所で、ヒヨが秀から三つのライフを奪ったわけだ」
一旦秀&美紅のライフをヒヨに預け、俺を使って秀のライフをゼロにし、ヒヨと秀のライフを交換させる。こうすることでヒヨのライフをゼロにし、秀のライフを
「ちなみに俺はヒヨからライフを一つ奪い、そのあとで秀から二つライフを奪った」
「なるほど、道理で四ターン後の結果がああなったわけだね。合点がいったよ」
ちなみに、彼らのややこしいライフ推移の目的はヒヨの黒ノートを減らし、尚且つ白ノートを封じることにある。ヒヨのライフがゼロになった場合、その時点でヒヨは白ノート消費義務を果たせなくなるのだ。
俺が彼女のライフを三まで底上げした理由の一つはそこにある。もし俺が彼女のライフをゼロのままにしていたら、彼女はそれだけで敗北してしまっただろう。もっともそれを狙ってくると分かったからこそ、秀の作戦を暴いて対抗策を立てることが出来たのだが。
(……にしても、秀の作戦は完璧すぎる。だからこそ読みやすいというのもあるが、しかし)
この作戦を一回目のインターバル前に思いついたのか?
インターバルの行動から四ターン目の行動まで、全ての歯車が少しでもずれていたら彼の作戦は全く意味を為さないものになっていた。人の心理を読み取り、チリ程しかない失敗の可能性を拭き取っていかなければ、早々に俺が潰していたに違いない。
それほどの精密さを持ったからくりを、一瞬のためらいもなく堂々と動かす度胸。そしてそれを思いつく頭脳。どれもが俺を凌駕している。結果的に俺もあいつの作戦を見抜いたわけだが、俺はただ秀の繰り出す攻撃のラッシュを必死で受け止め、受け流しているに過ぎない。土俵際から前に出なければ、いずれ土俵の外に追い出されてしまうだろう。
(受け身な姿勢でいるのにも、限界がある……か)
俺は手の震えを握り殺し、美紅をまっすぐ見据え直した。
「というわけで、ここからが本題だ。回りくどい言い方は嫌いだから単刀直入に言わせてもらう」
積極的に、攻撃的に……攻めていこう。
「秀を裏切れーー」