1.あくびをすれば、異世界
それは夏も近づく6月末の、とある金曜日のことだった。
週末+授業フルコマのコンボですっかり疲れ果てた大学からの帰り道。
行きつけのコンビニで買った惣菜パンとおにぎりの入った袋を手に、私は家路へとついていた。
帰ったら一昨日買ってきたゲームしよう。
発売後2週間にして、すでにネットで神ゲーと評判のアクションゲームだ。
明日はバイトもないので徹夜も辞さない姿勢である。
そんな自堕落極まりない予定を立てつつ、女子にあるまじき盛大なあくびをした拍子につむってしまった目を開けると―――― そこはすでに、森の中だった。
森である。
一人暮らしのアパートへと向かう歩きなれた住宅街ではなく、鬱蒼と木々が生い茂る緑の森であった。
足元を見れば、一瞬前までコンクリートだったはずのそこは枯葉の積もった山道へと変貌を遂げている。
なぜ森なのか。
いや、もしかしたら林なのかもしれないが、そんなことはこの驚き桃の木サンショの木な現状においてはあまりに些細な問題である。
そういえば森と林の区別って具体的にどこで設けられてるんだろう。
驚きすぎて声をあげるタイミングを逃して7秒。
とりあえずその場でぐるっと360度一回転してみても目に映る景色に変わり映えはなかった。
見渡す限りの木々と、地面を覆う雑草と枯葉。
見上げた空は鉛色で今にも一雨きそうな感じ。
つまり。
…………つまり?
「………迷子、かな?」
だいたい合ってない、という自覚はある。