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「それではそろそろ時間ですので、今日はこの辺までにしておきます。 次回からはビバップを扱います」
教授のその一言で講義室全体がざわつき始める。
そそくさと退室する学生や、まず携帯電話を開く学生。
そしてごく少数の学生が教授に質問しようと席を立っていた。
タイミングよくチャイムが鳴り、祐が目を覚ます。
「お、終わったか」
「今終わったところだよ。 来週はビバップだって」
祐が目をこすりながら興味なさそうに問う。
「何だよ、ビバップって」
「分からないよ。 まだやってないんだもん」
「何だよ」
祐は大きく腕を上げて欠伸をし、目に涙を貯めながら雅人に向かって手を出した。
雅人は全く動じることなくカバンからランチパックを取り出す。
何も言わずに受け取った祐は、パッケージを見て眉を顰めた。
「ダブルクリーム?」
不機嫌そうな顔で睨みつけてくる祐に、雅人は萎縮するしかない。
「ごめん、それしか売ってなかったんだ」
「メンチカツは?」
「売り切れ」
祐の表情がさらに険しくなる。
「何で?」
「知らないよ」
「どこで探してきたんだよ」
「下の売店だよ。 いつも買ってるところ」
「駅前のコンビニは?」
「え、見てないけど……」
すると祐は雅人の頭を軽く叩いた。
「バカ野郎。 なんとしてでもメンチカツ買っておけって言っただろ」
「売ってなかったんだって!! そんなに嫌ならぼくが食べるからちょうだいよ」
「いいよ。 俺が食べるから。 お前にやるもんなんか無いんだよ」
フンッ、と鼻を鳴らしてパッケージを空ける祐。
ドラえもんを実写化するならジャイアンは間違いなく祐だ。
雅人は、理不尽だとは思いながらも、それ以上何も言わず、荷物をまとめて席を立つ。
これ以上やると祐の機嫌を本当に損ねることになる。
他人の気分を害するということは、同じだけの恨みと害を自分が背負うということだ。
人と争う、ということが、雅人が一番避けたいこと。
外国語学部という特性上、討論やディベートの授業はきわめて多いのだが、雅人はあまり得意じゃない。
相手の意見に反論するということがあまり得意じゃない。
無駄な争いは避けるのが賢明な判断だ。
部活用の荷物しかもっていない祐もカバンを持つと、歩き出した雅人についてきた。
「甘いぞ、これ」
「いいじゃない。 糖分摂取は大事だよ」
「糖尿病になるよ」
「甘いもの好きなくせに」
「うるせぇよ……。 あっ!!」
しばらく歩いたところで突然祐が立ち止る。
「どうした?」
「携帯、充電したまま置いてきた」
「取ってきなよ」




