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ボクたちの非日常 1ー1

「ジャズに最も大きな影響を与えた人物の一人は、デューク・エリントンであり、彼の代表作はTake the 'A' Trainなど、誰もが一度は耳にしたことのあるナンバーが多いと思います。


ジャズは徐々に大衆音楽として全米に広まり、スウィング・ジャズとして人気を集めていきました」



木曜日の昼下がり。



冬が近づいてきて学内の木もだんだんと色を変えてくるころ。

外は風が強いのか、窓やドアが音をたてて揺れている。

昼食の直後の授業はいつも眠い。

それも音楽の授業ならなおさらだ。


教授のジャズの話を聞きながら、松伏雅人は窓の外を眺めていた。

珍しく若干の興味をもって履修した音楽史の授業。

広い講義室のため、教室の後ろの方に座ってしまうとホワイトボードに何が書いてあるのか全く分からない。

始めは真面目に板書していたが、いつの日か諦めてしまった。

取り敢えず教授の話で重要そうなところのメモだけは取り、ボードの文字も可能な限り書き留めて、あとは予想をして理解したつもりになっている。


趣味は映画鑑賞と読書。

部活には所属していた経験がなく、中学高校時代は帰宅部を通した。

大学に入り、英語関連のサークルに加入しはしたが、仲間と会うのが目的。

自分から誇れる志を持って加入したわけではないからそれほど熱心にサークル活動に打ち込んでいるわけでもない。


目立たなければ何も起こらない。

トラブルはなるべく避けるべきである。


偉大なる先人たちが歴史の授業を通して教えてくれたのはこの二つであり、雅人はこの二つをいつも心掛けている。

単位を落としてはまずいので、落第にならない程度に勉学に励み、毎日の食費に困らない程度の金銭を飲食店でのバイトで稼ぐ。

外国語学部だけあって留学に行く学生が半数以上なのだが、そんな金もなければ志もなかった。


雅人の隣では、親友である熊谷祐が、堂々といびきをかいて寝ている。

雅人のノートを当てにしているため、彼は授業の半数以上を寝て過ごしている。

祐は二年生にしてラグビー部の主将を務めるスポーツマン。

茶髪で体格がよく、肌は黒く日焼けしていた。

基本的にインドア派で、もし辞書に「もやしっ子」の項目があれば写真に採用されそうな雅人とは正反対の見てくれである。


なぜ祐と雅人が一緒に行動するようになったのかは、雅人にも分からない。

恐らく、おとなしい性格の雅人が、パシリに最も適していると判断されたのだろうぐらいに思っている。

雅人も、祐の傍にいれば人が集まって来るし、引っ込み思案な自分でも人脈が勝手に広がっていくため祐の傍にいるのは嫌いじゃなかった。


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