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翌日。
外来受付ロビーと言うのは、どうしてこう落ち着かないのだろうか。
雅人は、診断書を持ってこない限りは無断欠席で落第にすると教授からメールで告げられ、再び病院に戻ってきていた。
診断書は事務手続きで済んでしまう。
雅人が言う前から悠里が申請をしてくれていたことが発覚し、今日は受け取るだけでよくなった。
診断書のことを悠里に話した時に心底呆れられてしまったが、本来ならこんなことでいちいち落ち込んでいたら生きていけない。
しかし、雅人が発症した「感情アレルギー」のせいで、悠里がどれほど不快に思っているのかを心で感じてしまった。
いくらアレルギーであっても、症状は変わらない。
人の心が流れ込んでくるというのは結構つらい。
それを悠里に言ったところ、さらに呆れられてしまった。
「それさ、なんで昨日気づかなかったの?」
「え、なんで?」
「いいから早く行け」
半ば追い出されるようにして家を出てくることになった。
一度はアレルギーということで納得した問題だったが、やはりどうにかする必要があるかもしれない。
知らなくてもいいことが、この世にはあふれている。
診断書を受け取るついでに、越谷に話して精神科を紹介してもらうつもりだ。
平日でも病院は混雑している。
八割が年配の人で、越谷と話すにはかなり時間がかかりそうだ。
悠里は大学の授業が無いらしく、今日は一日家にいると言っていた。
帰って来る時に連絡しろと言っていたが、遅くなるのも連絡しないとまずい。
出直すこともできるが、きっといつ来ても同じ状態なのだろう。
一回座っていたカウチから立ち上がり、エントランスまで行ってから悠里に電話をかける。
家には固定電話を置いていない。
だから悠里の携帯にかけるのだが、これが彼女は恐ろしいほど早く出る。
毎回留守電行きになってしまう雅人からすれば尊敬に値する。
「何?」
いつものようにぶっきらぼうな返答が返って来る。
この雑な電話対応も毎度のことだ。
「悠里、もう少し丁寧に電話に出るようにしたら……?」
「用が無いならかけてこないで」
雅人は丁寧に言ったつもりだったのだが、悠里は気分を害したらしい。
軽く舌打ちした音がした気がする。
「違うんだ、切らないで!!」
「だから、何?」
「今受け付けしたんだけどさ、なかなか進みそうにないんだ」
「あっそう。 切るよ」
「え?」
あまりにも冷たいので雅人が悠里を引き留める。
「お昼間に合わないかもしれないんだ」
「別に、私昼ごはん作るなんて言ってないし」
気を使った自分が馬鹿だったのかもしれない。
「じゃあ、どうして帰って来る時に電話しろって言ったの?」
「帰りに買い物があるかもしれないからに決まってるでしょ」
はやり彼女に優しさは備わっていなかったようだ。
期待した自分が悪かったのだろう。
「お忙しいところ申し訳ありませんでした」
雅人は皮肉を込めて言ったつもりだったのだが、悠里には伝わらなかったらしい。
ほんとだよ、と言い残してさっさと電話を切られてしまった。