■其の二「狼と少女」
■其の二「狼と少女」
(…花がざわめいている…)
不意にゆっくりと覚醒する。
少女が目を覚ますのはいつも日が沈んだ後だった。
起こす者など誰もいない、けれど毎日の習慣と共に慣らされた身体は規則正しい生活を送っていた。
だから余計にいつもより早い目覚めに首をかしげ、花のざわめきと共に妙な胸騒ぎを覚える。
(なんだろう…これ。)
(そと、かな?)
少女は薄暗い部屋の中を慣れた足取りで歩くと、閉めっぱなしだったカーテンを少しだけめくり庭に目をやる。
すると
そこに見たのは友達の狼と、まさに襲われたともいえる
「人間?!」
少女はバン!と勢いよく窓を開け放ち、口元に手をやると、親指と人差し指を丸めるように口にあて、一気に吹いた。
ピィ――――――――――――!!
かん高い音が響いたと思うと、狼は驚いたのか咥えていたモノを離し、せわしなく辺りを伺う。
しばらくしてばたばたと足音が聞こえ、玄関が開かれた。
屋敷の中から出てき少女は、息をきらせながらも恐れることなく狼の側に寄ると、そのまま言い聞かせるように狼に向って叫んだ。
「だめだよラン。変なもの食べちゃ!!」
狼が銜えていたモノ―それは若い男だ。それも
「人間、だ…」
少女はうつぶせに倒れている男に目を向けると、ぎゅっと一度目を瞑り、そして
「酷い怪我だ。……とりあえず手当てしないと…」
倒れている人間をラン―黒狼―の背に乗せ部屋へと運び込んだ少女は、傷だらけの男の手当をしながら、詳しい事情を狼に聞く事にした。
「え?なに?ランがしたんじゃないの?」
「門の前に立ってたから、脅かすつもりで姿を見せたんだ」
(な…んだ?)
「だめだろー。人間は狼はこわいんだからね」
(人の声?)
聞いた音のない声、だ。
「え?でも、殴られたの?人間に?お前それでも狼かよー」
「ごめんごめん、拗ねるなって。信じるからさ。ごめんなラン。」
それに誰と話しているんだろう
やわらかく、優しく
いつまでも聞いていたいとおもわせる、ような
「あ、気がついた?」
「!!!」
覗き込む気配を感じて、隼人はびっくりして飛び起きる。
「だいじょうぶ?痛いところはない?」
「あ?、ああ…」
なんだ?
なんだこれ、一体!
急に起きあがったせいかぐるぐると目が回る。でも頭の中は高速に情報を集めるべく動き出す。
確か俺は魔物を退治しに森へ入ってそれで…狼にあって……ここが柔らかいベッドの上で。
(…俺は誰かに助けられたのか?)
そう思い、先ほど声がした方へ目を向けると、そこには少女と先ほど自分を襲おうとした黒狼が座っていて。
「動くな!!」
「え?何?何?」
目の前にいた少女を左手で引き寄せると、隼人は懐から筒状のものを取り出し
「爆ぜろ!」
告げた瞬間に閃光が部屋を満たした。