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『伍ノ巻』予告
「おまえは、あのおんなのことを―…」
「瑠螺蔚に手は出すな」
男はぴしりと言った。
「体は全然良いわよ。きっと今日明日にでも治るわ。高彬、肩の傷はどう?深いの?」
「いや、浅かった。あいつ―…速穂児が助けてくれたから」
高彬の声が沈んだのに、あたしは全く気がつかなかった。
「馨慈郎、行けると―…間に合うと思う!?」
「ああ。だが瑠螺蔚、行ってどうするんだ?」
「行ってから考えるっ!」
馨慈郎は吹き出した。
「おまえらしい」
「!おまえ…」
ふと、高彬の声がした。何で高彬が!?
「まさか、これを書いたのもおまえか?」
「来るのがはやすぎるぞ。高彬」
「何故、僕の名を…」
「知っているさ。佐々高彬。十六歳になったばかり…だろ?」
「…」
「俺は覚えているのにおまえは忘れている。皮肉なもんだな」
「本当に、行くの?行ってしまうの?ここに残れないの?」
「聞くな、瑠螺蔚。それと、泣くなよ。行けなくなるから」
あたしはうふふと笑った。
母親になった気分だ。
いいなぁ、母親って、こんな感じなのかなぁ。
こんな日が、ずっと続いたら良いのに。