『肆ノ巻』予告
「おまえ――……」
高彬が鋭い声で言った。
「おまえ、琵琶の湖にいた、あの女だな?」
幸せになるのは、私が許さない。
「おい、もう一回だ、もう一回勝負しろ!」
ああ、その声を、あたしは何度も聞いたことがある。
「ここは…どこ…ですか?」
苦しい息の下、あたしはそう聞いた。
とにかく、ここはどこかを確かめなければ。
「武田だ」
稔真と名乗る方が答えてくれた。あたしの手を握ってる方の人。
武田かぁ…。
けっこう、大きいわよね、うん。家が。
武田、かぁ…。
…。
ん?
ちょっと今、なにか引っかかったぞ。武田、武田、武田…。
うーん、タケダ…武田!?
あたしはげっと声をあげそうになった。
武田家って、今、佐々家と戦ってるんじゃなかったっけ!?
やばい。敵だ敵。
「ふむ。惜しい。女にしておくのは何とも惜しい。流石に前田の姫じゃ」
「え…?」
あたしはどきりとした。
前田の姫…って、それは…。
「前田の、瑠螺蔚姫であろう、おぬし」
「…」
「安心しておれ。おぬしをどうこうと言う気はないわ」
「輝夜っ!くそっ、何考えてんだあの女は!?」
「稔真、追えっ!下手に体動かしたらあやつ、死ぬぞ!」
「稔真、那夜を連れてこいっ!」
声は遠ざかり、やがて聞こえなくなってゆく…。
「高彬が好きか?」
「はぁ?」
ふいに馨慈郎はそんなことを言った。
あたしが口ごもっているのをみて、馨慈郎は更に笑った。
「いいなぁ、おまえは」
「え?」
「いや、なんでもない」
「…なによ…」
「気にするな」
「…気にするわよ…」
「もう、眠れ」
「いや、言い方を変えよう。どちらかが生き残れるのなら、どちらに生き残って欲しい」
「選べないわ」
あたしは即答した。
「選べ」
「嫌。二人とも大切よ。どちらか片方なんて、選べない」
「それが願えぬこの世なのだとしたらー…?」
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