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トライアングルレッスン the First 〜初めての相合傘〜

作者: こぐま
掲載日:2026/09/17

「今日も雨かぁ……本当、雨きらい」


小さい溜め息をついて、ゆいこは玄関にあるピンクの傘を手に取る。これで21日間連続雨。今朝見た天気予報では、今後も1週間ほど雨が続くようだ。


「ゆいこ、忘れずにたくみくんの傘持っていってあげてね」


暖簾のように干された洗濯物の間から母が顔を覗かせて言った。「たくみ」というのはお隣さんに住むゆいこと同じ高校に通う男の子のこと。


「えー、またー?私、今日荷物多いんだけど」


「だって雨の中走って帰ってくるの可哀想じゃない。いつもずぶ濡れだし」


「それは、たくみが傘持っていかないから悪いんでしょ。昨日も渡したけど結局「めんどくさいからいらね」って返されたんだよ」


ゆいこは、傘立てにある紺色の傘に目をやる。たくみは昔から、傘が嫌いだった。よほどの大雨でもない限り、傘はささないし、雨のなかを走っていた。折り畳み傘すら持ち歩かないたくみのために、たくみの母から「ゆいこちゃん、学校でたくみに渡してもらえる?」と、この傘を預かっていたのだ。


「でも、今日は夕方、雨が強くなるみたいよ。可哀想じゃない」


「私が見た天気予報は、夕方には雨上がるって言ってたもん。今日、荷物いっぱいだから無理。じゃ、いってきまーす」


ゆいこは玄関のドアを開け、ピンクの傘を広げると足早に学校へと向かった。




ゆいこが教室に入ると、窓の外で降り続く雨の音の中、タオルで濡れた髪の毛を拭いているたくみと目が合った。


「また傘持ってきてないの?たくみが持っていかないから、うちのお母さん毎日私にたくみの分の傘も持っていけってうるさいんだけど」


「あはは。これくらいの雨なら全然平気」


「よく風邪ひかないよね。まぁ、なんとかは風邪ひかないっていうし、丈夫さだけがたくみの取り柄だもんね」


ゆいこは呆れたように溜め息をつくと、自分の席に座る。


「溜め息つくと幸せが逃げるし、老けるぞ」


ケラケラと笑いながらたくみは、ゆいこの机にポン、とパンをひとつ置いた。


「あ!チョコづくしパン!!」


教室にゆいこの声が響いた。


「今朝、コンビニ寄ったら見かけたから買った。ゆいこ、前に探してたからさ」


「よく買えたね!これ、今、チョコ増量中でなかなか手に入らないんだよ」


「入荷時間ピッタリだった。それ食って機嫌直せよ」


「ありがとう。まぁ、今日は夕方には雨止むみたいだし、よかったね」


ゆいこはそう言いながら、チョコパンを大事にカバンへとしまった。



放課後。教室の窓から外を見ると、朝よりも激しい雨が降っていた。遠くでは雷の音も聞こえる。


「……雨、止んでねぇじゃん。むしろ強くなってるし。誰?『夕方には雨止むからよかったね』って言ったの」


「…だって朝見た天気予報ではそう言ってたもん」


「俺の傘は?」


「ないよ。だって昨日も「いらね」って私に返したでしょ。今日荷物多かったし、たくみの分の傘まで持ってきてないよ」


ゆいこにそう言われ、たくみは返す言葉もない。すると、何かを思いついたように、教室にあったゴミ袋をハサミでちょきちょき、と切りはじめた。


「できた」


そう言うとたくみは、ゴミ袋を頭からすっぽり被った。頭を出す穴と、両腕を出す穴を開けて、即席ポンチョを作ったらしい。


「ふふ。これで完璧」


「………ねぇ、本当バカなの?」


ゆいこは呆れ顔でたくみを見る。小学生の頃からなにも変わっていない。この大雨の中を、そんなゴミ袋一枚の即席ポンチョで帰れると思っているのだろうか。


「……一緒に入る?」


ゆいこは自分のピンクの傘を手に取ると、たくみに聞く。


「マジで?へへ、サンキュー」


「チョコづくし貰っちゃったからね、そのお礼」


ゆいこは昇降口で自分の傘を広げると、たくみと並んで歩き出す。ピンクの傘に当たる雨が、ダダダダ、と音を奏でる。



「うわ、冷てぇ!雨入ってきた」


案の定、ゴミ袋ポンチョの隙間から雨粒が容赦なく浸透してたくみの肌を濡らす。ゆいこは「だから言ったじゃん」と呆れながら、たくみが濡れないように傘をそっと傾ける。


「……ゆいこ、傘、俺が持つ」


「え?あ、はい」


たくみはゆいこから傘を受けとると、自分とは反対側に傘を傾ける。たくみのポンチョの左半分に雨粒が激しく当たり、音を立てる。


「ねぇ、傘、私の方に傾けすぎじゃない?たくみ、濡れてるよ」


「……ゆいこが風邪ひいたら嫌だから」


「え?」


たくみが呟いた言葉は激しい雨音にかき消されてしまい、ゆいこには聞こえなかったようだ。


「……俺もバカだけど、お前も相当鈍感だよな。俺の気持ちずっと気づいてくれねぇんだもん」


「はぁ?」


「なんでもねぇ。ほら、もっとこっち寄らないと濡れるぞ」


「っ…!」


たくみに肩を引き寄せられ、ゆいこは思わず息を呑んだ。


近い。


さっきまで普通に隣を歩いていただけなのに、肩が触れそうなほど近くなったたくみを、急に意識してしまう。


小学生の頃とは違う、大きな手。広い肩幅。


いつの間に、こんなに大きくなったんだろう。


ピンクの傘の下で、ゆいこはなんとなくたくみから目を逸らした。


その感情がなにからきているものかは、ゆいこにはまだわからなかった。しかし、いつも嫌いだった雨が、今日は少しだけ好きだった。


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― 新着の感想 ―
キュンキュンありがとうございます。 鈍感な感じいいですね(*´ω`*)
こぐまさん 勝手にトライアングルレッスンに参加してくださりありがとうございます♪ いいですねぇ、キュンキュン 青春、ですね このお話の中では2人は同級生設定なんですね それもよきでした
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