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白黒出版・白版~本が売れない時代だから出版を考える~  作者: 伊阪証


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『東京シンデレラストーリー』のレビュー

https://kakuyomu.jp/works/2912051595786159205


『東京シンデレラストーリー』は、主人公マリコの傷を恋愛の飾りとして置くのではなく、現在の判断、身体反応、相手との距離感にまで残している点が強みである。過去の男タクヤによって「自分は都合よく扱われる存在である」と刷り込まれたマリコが、東京で淳と出会い、相手の顔色をうかがう癖や、男の部屋に行けば体を求められるという思い込みを抱えたまま関係を進めていく。このため、恋愛の進展が単なる甘さではなく、マリコ自身の傷が露出する過程として機能している。

文章としては、マリコの不安を説明で済ませず、手の冷え、震え、胃の痛み、汗、視界や音の遠さに変換している点が良い。これは読者に「怖がっている」と教える文章ではなく、マリコの体が先に反応してしまう状態を渡す文章である。特に、淳のスマホを動かそうとする場面や、遅刻で怒鳴られるのではないかと怯える場面は、過去の支配が現在の些細な出来事に割り込んでくる構造になっている。場面そのものは日常であるにもかかわらず、マリコの中では過去の記憶が先に立ち上がるため、読者は彼女の緊張を追いやすい。

台詞と地の文の役割も比較的分かれている。マリコは会話の上では明るく振る舞おうとするが、地の文では相手の反応を探し、正解を選ぼうとし、失敗を恐れている。この差によって、表面上の恋愛会話と内面の損傷が同時に見える。淳の言葉が優しいだけではなく、マリコの地の文側に変化を起こしているため、関係の進展が読者に伝わる。

作品としては、「優しい彼氏に救われる話」より、「自分を差し出すことでしか関係を保てないと思っていた主人公が、自分で選ぶ力を取り戻す話」と見た方が通りが良い。淳の部屋でマリコが無理に体を重ねようとする場面は、過去の価値観が現在の恋愛を壊しかける場面である。そこで淳が止めることで、マリコは初めて「求められないこと」を拒絶ではなく尊重として受け取る余地を得る。この場面があるからこそ、後の告白やディズニーの場面が単なる甘いイベントではなく、関係を結び直す段階になる。

淳の造形は、完璧な王子様ではなく、不器用な誠実さを持つ青年として置かれている点が良い。ディズニーランドでのエスコートも、全部が綺麗に決まるわけではない。むしろ準備したのに上手くいかない、格好つけようとして綻びが出る。その格好悪さが、マリコにとっては支配や演技ではない人間らしさとして作用する。タイトルに「シンデレラ」とあるが、本作の救済は魔法でも階級上昇でもなく、失敗しながら向き合う相手によって起きる。ここは作品の差別化になり得る。

スバル視点は、本編の重さを一度外から照らす役割を持つ。マリコ視点では淳は頼れる相手に見えるが、スバル視点ではディズニーに不慣れな男が必死に準備している姿が見える。これにより、淳の誠実さが「最初から完成された優しさ」ではなく、「好きな相手を喜ばせるために格好悪く努力した結果」として読者に伝わる。重い主題の中で息抜きになるだけでなく、淳の裏側を補強している点は評価できる。

ただし、突出した加点としてはまだ弱い。トラウマを抱えた主人公が誠実な相手に救われる構造は、現代ライト文芸や恋愛作品では比較的よくある。マリコの傷、淳の誠実さ、スバル視点の裏努力はいずれも良い材料だが、読後に「この作品でしか見られない」と残るほどの鋭さにはまだ届ききっていない。現状の強みは、破綻の少ない丁寧な回復譚である。大きく外していないぶん読みやすいが、強烈な記憶として残すには、マリコの変化か淳の失敗か、どちらかにもう一段踏み込む必要がある。


という訳で熱が入ってきたのでここから更に踏み込むと、正直シンデレラは報われた、という一方で美貌で解決した、という側面が強い、元々がこんな話である以上シンデレラを超えることは容易であると言い切れる。

先ず、一番の問題は虐待が前日譚として片付いてしまっているということだ。構造としてみれば『男が呪い男が解呪する』というものだがこれでは弱い。自分が向き合っていないのだ。誰がこんなプリンセスの下位互換に惹かれるのだ、となる訳だ。これが最大の欠点になる。コメント欄で『これどういう意味?』って聞く連中と大差ないのだ。

一旦その問題は置いておき、簡単に症状を並べていくと、『相手の持ち物に触れようとすると手が震える』『些細なミスで過剰なパニックと身体的苦痛を起こす』『「男の部屋に行く=体を差し出す」という歪んだ義務感』『理不尽な扱いに対して反抗できずフリーズする』というPTSD寄りの虐待で、これのパターンになる場合身近な人からの虐待パターンと多少の虐待+別で暴力を受けたパターンになり、前者の場合気付いた瞬間親ぶっ殺すモードになったりする人がいる。被虐系男子こと私はどちらかといえば前者で、折る切る燃やすで逆に図太くなった。彼女の場合どちらかと言えば短期的に監禁された傾向というものが顕著に書かれており、そこは現実的であると感じる一方でシンデレラ比で弱くなる。

私ならディズニープリンセスの思考を取り入れ、王子の手を借りながらも前の男を諦めさせる。或いは打ち倒す必要性があると感じている。というのも虐待するやつは大体同じく弱者、パニックになってとりあえず虐待、という悲しいけど同情は出来ないタイプの悪役なのである。特に性的な行為を含むタイプは猶更この辺のコンプレックスが敏感になっている。

公式の十三人のプリンセス、アナやエルサ、アリス、エスメラルダ、メガラ、ジゼル。あとアーシャじゃなくてマグニフィコ王。この辺を上手いこと足し合わせ、呪いを打ち払った後にその男をなんらかの形で屈服路させるべき、という風に感じている。

私が一番に問題に思っているのは先にも触れた『歪んだ義務感』であり、これは一般的に自己犠牲とは言わない、諦観と破滅願望、即ち生贄である。そもそもこんなメンタリティの奴を冠婚葬祭系の会社は採用しない。

ブライダルの夢を叶えると同時に自分がディズニープリンセスから託されたものを次に託す、そういう物語であるべきではないか。

この物語に大事なのは、魔法使いになれない王子様、そして出来損ないの御姫様、そんな二人が呪いを超えることである。

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