表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追憶の霧、眠りの淵への道   作者: Rurusia Lulihime
32/35

第32章:幻影の終焉前の食事 ― 真実の胎動

試験二日目の昼休み。高校の雰囲気は昨日のような活気は微塵もなかった。ほとんどの生徒が「歩く死体」のような有様で試験室から這い出し、ある者はベランダで呆然と「消えた問1」について呟き、またある者は鏡の幻影による精神的圧迫に耐えかね、トイレで嘔吐していた。


エンマのグループは、いつもの鳳凰木のしたの長いベンチに集まった。しかし、今回は誰も箸を動かそうとしない。全員が、たった今血みどろの戦場を潜り抜けてきたかのような面持ちで向かい合っていた。


「私の部屋は……問51から75までだったわ」サエルがかすれた声で切り出した。「解答欄は100マスもあるのに。繋がりを見つけようとしたけれど、試験監督のプレッシャーで身動きすら取れなかった。解読するだけで精一杯よ」


「僕の第1室は問26から50だ」エンマがテーブルの上で指を組んだ。「ルリヒメの第3室が問76から100……。推測するに、カナタの第4室が問1から25。そしてソフィアとケレンの第5室は、補足データセットか、あるいは僕ら全員の答えを統合しなければ解けない自由記述式のはずだ」


「その通りよ……」ソフィアがこめかみを揉みながら頷く。「私の第5室には文字の問題なんて一つもなかった。ただ4つの空のグラフがあるだけ。そこにあんたたちが導き出した数値を入力する仕組みのようね。どこか一箇所でも間違えればグラフは崩壊し、グループ全員が不合格になる」


「あの『円』の暗号はどうなんだ?」カナタが周囲を警戒しながら尋ねる。「監督たちが一斉に足を止めた時、床に反射したあの光を見たか? あれがパスワードの鍵だろう」


「見たわよ!」ルリヒメが机を叩き、今日4本目のイチゴミルクが跳ねた。「あれは円よ! 知恵熱で脳が爆発しそうだったけど、昨日話した『ストロベリー聖典』を思い出したらピンときたわ……あの円はゼロじゃない。一口かじられたイチゴの形、つまり完璧な円に近い形状を意味してるのよ! それは即ちストロベリー神を指し、答えはただ一つ……『存在しない』よ!」


全員が絶句した。ルリヒメはこぼれたミルクを指でなぞりながら図を描く。「……まあ、思考プロセスはともかく、答えにはかすっているかもしれないな」エンマが困惑気味に呟いた。


その時、見覚えのある「発光体」が近づいてきた。校長が、彼らのテーブルの横を静かに通り過ぎる。正午の太陽光がその禿頭に反射し、強烈な閃光がカナタの目を直撃した。「ぎゃああっ!」


校長は足を止め、冷徹な微笑みを浮かべて6人を見つめた。「昼食は美味しいかね? 私が言ったことを忘れないように……『より深く思考せよ』」


彼の視線が一瞬、ルリヒメの手にあるイチゴミルクに留まった。そして、濃密なオゾンの残香を漂わせながら去っていった。


「あいつ……私が試験室にイチゴミルクを持ち込んだこと、気づいてるの?」ルリヒメの顔が青ざめる。「それとも、あいつも伝説のイチゴミルク泥棒なのかしら」


「午後の試験まであと数時間……次は実技試験だな」エンマが大きく背伸びをしながら言った。


昼食の匂いが薄れる中、不気味な沈黙が再びテーブルを支配した。ソフィアが、高校レベルを超えた「異常な試験メカニズム」について分析を始めたからだ。


ソフィアは詳細に書き留めた試験棟の構造ノートを凝視した。「私の分析では、この試験は教科書の知識なんて微塵も求めていない……」彼女は厳粛な声で言った。「例年なら、教科書外の知識を問いながらも、基礎点として教科書の内容を混ぜていた。けれど……」


彼女は言葉を切り、周囲に学校評議会の耳目がないか確認した。「今年は違う。先月の世界政府による総選挙後の政治情勢を受けて、上層部は『極限の圧迫下で機能するスパイ、あるいは高位指導者』の適性を持つ者を選別しようとしている」


「どういう意味だ?」カナタが眉をひそめる。


「多くの生徒は『内容コンテンツ』という罠に嵌まるのよ」ソフィアは隣のテーブルの生徒が抱える参考書の山を指差した。「難しい数式を解こうとしたり、古文を訳そうとしたりね。でも、真の試験が求めているのは『構造ストラクチャー』を見抜く力。監督たちが至近距離で監視し、歩き回るのは、『高圧環境(High-Pressure Environment)』を作り出すため。校長が入室前に与えたヒントを、パニックになって忘れてしまわないか試されているのよ」


サエルが同意するように頷いた。「あるいは、部屋のプレートの汚れや、監督たちの逆方向の歩行リズムといった些細な細部を、恐怖で忘れてしまうことを狙っている……。校舎に入った瞬間から、目にするものすべてが試験の一部。私たちが導き出した『答えは無い』という結論も、極限状態の人間が白紙を出す勇気、あるいは『答え無し』と書く勇気があるかを試す逆心理学的な罠よ。本当に骨が折れるわ」


「その通りだ……」


背後から響いた声に、全員が飛び上がった。担任の先生が悠然と近づき、断りもなく誕生日席に腰を下ろした。その瞳は疲弊しているが、鋭い知性を隠しきれていない。


「諸君が見たものすべてが、答えへの道標だ。道中のヒントを見落としたとしても、問題の中には必ず『答え無し』へと導く設問が紛れ込んでいる」先生は、奇数列の監督の歩行リズムに合わせて指で机を叩いた。


「そして、答えを導き出すためのさらに複雑な手法も存在する……例えば、床の反射光の座標に従って文字をずらす『シーザー暗号(Cipher Shift)』。それを各国の8つの地方方言に翻訳し、最後の一つの『共通言語』へと集約させる……。だが覚えておきなさい。正しい答えに辿り着ける言語は、たった一つだけだ」


先生は意味深な視線をエンマに向けた。「なぜ8つの地方方言か分かるかね? それは考古学者が世界の真実を追い求める中で見つけた、歴史の『裂け目』だからだ」


話を聞いていたルリヒメがイチゴミルクの箱を置いた。「バカげてるわ! 異議ありよ! 難しすぎて誰ができるのよ! ……で、その『正しい言語』って何なの?」


先生は答えず、ただ薄く笑った。「最も誠実な言語……それは、諸君が最も恐怖を感じた時に自分自身と対話する言語だ。その言語こそが、魔法の極致へと諸君を導く。……私が言えるのはここまでだ。これ以上は聞かないでおきなさい。この世界の統治がどうなっているか、諸君も察しているだろう? 用心しなさい。卒業まであと一年、身を律して生きるのだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ