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追憶の霧、眠りの淵への道   作者: Rurusia Lulihime
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第28章:第1回試験。高校の「太陽」

月曜日の朝、急速に冷え込んだ空気は季節の変わり目を告げていた。そしてそれは「中間試験」の初日でもある。


白いカーテン越しに柔らかな朝日が差し込む台所。サエルは準備テーブルの前に立ち、筆記用具のバッグを何度も確認していた。芯のケースを開け、ボールペンのインクをチェックし、消しゴムを机の端と平行に並べる姿は、まるで強迫観念に駆られているかのようだ。


食卓では、エンマが日本の験担ぎに基づいた特別な朝食に向き合っていた。熱い湯気を立てる味噌汁を傍らに、彼はカツ丼(勝つ丼)を口に運ぶ。


(カチャッ…)


数分後、朝食の席に着いたサエルの手にある箸が震え、茶碗の縁に当たった。指先の冷たさのあまり、彼女は箸を床に落としてしまう。


「あ…ごめんなさい」サエルは慌てて拾おうと身を乗り出した。


エンマは一瞬動きを止めると、落ち着いた様子で箸立てから新しい箸を取り出し、彼女に差し出した。「そんなに緊張しなくていいですよ。初日の試験はそれほど難しくない。基礎科目は僕が満点を取っておきます。本番は2日目ですから」


サエルは箸を受け取ったが、食べ物を口に運ぶことなく、じっとグラスを見つめた。「試験のことじゃないんです、エンマ……。不安なのは、あの墓地で見たことです」


彼女は声を潜め、上階へ続く階段をちらりと見た。「あんな見たこともない魔法……それに、どこからともなく撃ち込まれた謎の人物の魔法。そして何より……ロリータさん。彼女、まだ回復していないのに。戻ってきてからずっとルリヒメの部屋に閉じこもって、誰にも会おうとしないなんて」


エンマはスプーンを置き、整然と口を拭った。「ロリータさんほどの人物が情報を遮断して静養しているということは、敵がただの犯罪者ではない証拠です。彼女自身については、怪我はあっても精神的にはかなり『元気』なはずですよ。本当に心配すべきなのは、ルリヒメの方でしょうね」


その時、エンマの電話が鳴った。ルリヒメからの着信だ。


「噂をすれば……」


エンマが受話器を取ると、怒鳴り声が響いてきた。


『助けて! このロリータが、私を――!』


言い終わる前に、エンマは無表情で通話を切った。


電話は鳴り続けたが、彼は何度も拒否設定を押し、ついには静かになった。すると今度はサエルの電話が鳴り出す。エンマはそれを素早く奪い取って拒否した。


「ちょっと…エンマ、そんなことしちゃダメですよ!」


「出ないほうがいい……脳細胞が死滅するだけです。鳥やカラスと話すほうが、ルリヒメと話すよりまだ理屈が通じる。ロリータさんが無事だと分かれば十分でしょう」


「ミカエルさんはどうなるんですか?」サエルが続けた。「あの人は私たちを助けてくれたのに、なぜあんな風に消えてしまったんでしょう」


「おそらく、どこかで僕たちを見守っているんでしょう……僕がこの筆記用具を見守っているようにね。思考が読めない、謎の多い人です」


エンマは立ち上がり、通学バッグを肩にかけた。サエルのスマホをテーブルに置く。「今の僕たちの任務は、可能な限り『普通』に振る舞うこと。試験はこの状況下で最高の隠れ蓑になります。行きましょう、遅刻しますよ」


エンマがスマホを置いてから3秒も経たないうちに、再びサエルのスマホが鳴った。サエルが急いで取ると、悲痛な叫びが聞こえてきた。


『サエルお姉ちゃん助けて! ロリータのバカが狂ったの! 罵倒されてるのに幸せそうな顔して、体をもじもじさせて、よだれまで垂らして……絶対脳みそがイカれてるわ! 捕まっちゃう、ああ、捕まった! 抱きつくなって言ってるでしょ! ほっぺにチューもダメ! 私の匂いを嗅ぐな! 離せこのバカ姉! 死ね! 生きたまま地獄に落ちろ!』


『あら、サエル……元気? エンマも元気かしらぁ?』


ロリータの声に切り替わり、カメラが起動した。ルリヒメはロリータの腕の中で、その豊満な胸に頭を押し付けられたまま白目をむいて気絶していた。


エンマはそれを見た瞬間、即座に通信を切断した。


高校にて


試験当日の朝の高校は、いつも以上に騒がしかった。生徒たちはノートを片手に走り回り、直前の復習に余念がない。廊下には物理の公式や英語の構文を暗唱する声が響いている。


サエルは上階の教室へ、エンマは指定された一階の試験室へと向かった。


「世界史の試験を開始します」試験監督の声が響く。


エンマは冷静に問題用紙を開いた。鋭い視線で問題を読み進めていたが、最後の一問で彼は手を止めた。


【問:宇宙における魔法の起源とされる、神なる存在の伝承について。現在では失われたとされるその御名を答えよ。】


それは、いかなる学習指導要領にも存在しない問いだった。


(こんなデータ、見たことがない……)


エンマはペンを握りしめ、思考を巡らせる。公式、非公式を問わず、あらゆる古文書やサエルが見せてくれた碑文の写しにも、この定義に当てはまる名はなかった。(教師たちによる、カマをかけるための質問か……?)


同じ頃、サエルの試験会場では、朝の緊張が背筋を走る冷気に変わっていた。彼女は気づいた。教壇に立つ試験監督の様子がおかしい。彫像のように微動だにせず立ち尽くし、その首筋にはどす黒い血管が浮き出している。


(ギギッ……ギギッ……)


一方、試験を早々に終わらせ(ルリヒメは全問マークシートの勘)、腹痛を口実に教室を抜け出したカナタとルリヒメは、校舎の屋上に辿り着いていた。強い風が、イチゴミルクのストローを咥えた少女の頬をなでる。


「ちょっと! 見てよ、カナタ!」ルリヒメがサッカー場の中央を指さした。


鮮やかな緑の芝生の上を、一人の人物が歩いていた。その「一点の曇りもない完璧なスキンヘッド」に太陽光が反射し、あまりの輝きに試験中の生徒たちまでもが窓の外を二度見するほどだった。屋上という高所から見るとそれは――。


「ぎゃあああ! 私の目が! 目がぁぁ! 核爆発か何か!? 眩しすぎるわよ!」


ルリヒメはイチゴミルクをこぼしそうになりながら絶叫した。


「ば、馬鹿な……!」


カナタは眩しさに目を細め、グラウンドを見下ろした。


「あれは爆弾じゃない、あれは……『頭』だ! 真っ昼間の太陽光が、あの完璧なハゲ頭にジャストミートして、破壊的な反射兵器と化してやがる! さすがは……高校の『太陽』、校長先生だ!」


その頃、別の教室では、開始30分で全8科目の解答を終えたソフィアとケレンが、周囲の異変に気づくこともなく爆睡していた。

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