表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追憶の霧、眠りの淵への道   作者: Rurusia Lulihime
26/35

第26章:血影の舞踏――審判の女王、降臨

古の魔力の残滓が漂う中、墓地の静寂は骨のきしむ音によって打ち砕かれた。


(メキメキ……バキッ!)


終わったはずの男たちが、人間とは思えない形に肉体をねじ曲げる。皮膚が弾け飛び、内側から脈動する紫黒色の組織が、まるで寄生生物のように這い出してきた。


「あれは……マナ・オーバーロードによる変異だ!」カナタが裏返った声で叫ぶ。「古文書にある通りだ。あいつら、禁忌の呪いを受け入れるために人間であることを捨てやがった!」


殺意を放つ漆黒の瞳が見開かれ、肥大化した肉体が衣服を切り裂く。背骨に沿って、鋭い棘が皮膚を突き破って生え揃っていく。


「下がりなさい! 早く!」


ロリータが咆哮した。額から流れる血が頬を伝いながらも、その背筋は毅然と伸びている。「殺気も、存在も、魂すら感じ取れなかったはず……。魂は存在や意思の根源。殺気だって魂から生じるもの。なのに、殺気がないこいつらにどうして『魂』が宿っているのよ。理屈が通じないわ……!」


エンマやサエルたちは、ロリータが展開した防衛障壁の後ろで歯を食いしばるしかなかった。重苦しい大気と圧倒的な殺圧に、指一本動かすことすらままならない。


四メートル近い巨躯となった怪物は、自らの肉体を千切り飛ばしては再生させ、十体以上の異形へと増殖した。彼らが一斉にロリータへ襲いかかる。地面が震え、石碑が粉々に砕け散る。ロリータは過酷な魔力負荷に震える左腕を抑え、紅蓮の瞳をさらに燃え上がらせた。


「来なさい……リサイクル品のゴミ屑ども!」


一体目の怪物が漆黒の結晶を纏った拳を振り下ろす。ロリータは紙一重でかわすが、拳の風圧だけで肩のケープが引き裂かれた。彼女は即座に**「影刃:紅縁(シャドウ・ブレード:クリムゾン・エッジ)」**を放つ。血に染まった黒い刃が怪物の腕を断たんとしたが、刃は肉の途中で止まった。切り口からマナの繊維が噴き出し、瞬時に刃を飲み込みながら再生していく。


(ドォォォォン!!)


怪物の追撃を受け、ロリータの小さな体は古い石塔へと叩きつけられた。鋭い石の破片が背中に深く突き刺さり、胸の奥で背骨が「軋む」嫌な音が響く。口から溢れた血が喉に逆流し、呼吸を塞ぐ。


「カッ……ゲホッ……!」


全身の筋肉が拒絶反応を起こし、視界が真っ赤に揺れる。だが、その霞む視界の先で、巨大な三つの影が死神のように歩み寄ってくるのが見えた。骨を粉砕する足音が、死体を何度も踏みつけるかのように重く響く。


三体の怪物が同時に身を屈めた。毒の混じったマナと血の腐臭が鼻を突く。石を穿つほどの腐食性を持つ紫の唾液が滴り、骨に絡みついた黒い腱が脈動する。


「ロリータ!」ルリヒメが飛び出そうとするが、エンマがその腕を掴んだ。「行くな! 今障壁を出れば、周囲の殺圧でお前の体は塵になるぞ!」


三体の怪物が、崩れ落ちるロリータを八つ裂きにせんと毒の爪を振り上げた。ロリータは震える声で、しかし嘲笑を浮かべて顔を上げた。「この程度で……私が殺せると思ってるの? 浅はかね!」


彼女は血に濡れた掌を地面に叩きつけた。


領界ドメイン:影原・千の棘(シャドウ・フィールド:サウザンド・ソーンズ)!」


(ドゴォォォォン!)


地面が内側から爆発し、悪魔の牙のようにねじれた漆黒の影槍が、三体の怪物を下から上へと貫いた。肉を貫き、骨を砕く音が連続する。巨躯は宙に縫い付けられ、黒い血が雨のように降り注いだ。彼らの叫びは苦痛ではなく、肺が潰れた事による不気味な笑い声のように聞こえた。


怪物は怪力で影の棘を折り、ロリータを包囲した。乱戦は凄惨を極める。ロリータは降り注ぐ爪と拳の嵐を、死の舞踏を踊るように回避し続けた。しかし、紫のマナ繊維が傷口から溢れ出し、怪物を瞬時に修復していく。


(ドカッ!!)


脇腹が陥没した。骨の砕ける音が胸に響く。ロリータは再び地面を転がり、脳を揺らす衝撃に視界が真っ赤に染まった。


爪がさらに一閃――(ザシュッ!)


腰の肉が大きく削られ、石畳に鮮血が飛び散った。


「ガハッ……!」


背筋を走る激痛に足が痙攣する。周囲を取り囲む怪物の足音。完全なる包囲網。


ロリータは血に滑る手で地面を押し、這い上がろうとした。心臓の鼓動が痛い。マナが血管を内側から引き裂こうとしている。だが、彼女は笑った。


「へぇ……寄ってたかって……」彼女はゆっくりと顔を上げた。「……でも、殺すならもう少し『品格』を持ってくれないかしら?」


彼女は再び吹き飛ばされながらも、空中で咆哮した。


「黒い星雲ブラック・ネビュラ!」


影の塊が重力崩壊を起こし、漆黒の衝撃波として炸裂した。周囲の怪物を一斉に弾き飛ばし、石畳を紙屑のように粉砕する。


その刹那、彼女と彼女から分離した影の分身が、マナを纏った素手で、残った怪物の心臓を次々と貫き、握り潰した!


「ハァ……ハァ……まだ終わらないの……ッ!」


ロリータは毒づいた。体は自分と敵の腐った返り血で濡れ、死に至るほどの激痛が全身を支配している。


そこへ、集団のリーダー格が歩み出た。周囲の死体から魂を吸収し、その体躯はさらに倍へと膨れ上がる。彼から放たれる熱気は地面を溶岩へと変えた。ロリータは悟った。今ここで終わらせなければ、次はない。


「私の命が欲しいなら……貴様たちの魂を供物に捧げなさい!」


ロリータは最後の力を振り絞り、胸の中央に極小の黒い球体――「虚無の特異点」を形成した。


究極秘術アルティメット・アート:深淵の血薔薇・終焉の一輪(アビサル・ブラッド・ローズ:ファイナル・ブルーム)!」


周囲の地面が闇へと崩落し、純粋な影で編まれた数万の血色の薔薇が、リーダー格の怪物を拘束した。棘が皮膚を貫き、骨を砕き、魂を直接侵食する影の毒を注入する。


漆黒の影が虚空へ跳ね上がった。次元が裂けるような悲鳴のような音が響く。怪物は血薔薇に縛り付けられたまま、絶望的な咆哮を上げ、筋肉を弾けさせて抗う。


その一瞬。


空中のロリータの影が激しくねじれ、巨大な漆黒の「大剣」へと変質した。刃は透き通るような影でありながら、周囲の空間を歪めるほどの質量を秘めている。


(フーーーッ!)


影の剣が天から降り注ぐ。


怪物の左肩から腰にかけてを貫通した!


(ズガァァァァン!!!)


肉と骨が弾け飛ぶ音が轟き、煮えたぎる黒い血が噴水のように噴き出した。怪物は狂ったように身をよじり、血薔薇を引きちぎらんばかりに暴れる。傷口から呪いのマナが溢れ出し、必死に再生を試みる。


だが、再生が始まる前に、ロリータの足元の影からもう一つの影が這い出した。それは影の剣で開かれた胸の裂け目へと潜り込み、異常に長く伸びた漆黒の腕へと形を変えた。


(グシャッ!!)


影の手が、のたうち回る呪いのマナを突き抜け、怪物の胸部中央に到達した。五本の指が開き、脈動する巨大な心臓を鷲掴みにする。


「ガ……ガアアアアアアアア!!!」


怪物の叫びが不自然に高く響き、再生の輝きが砕け散った。


地上にふらつく足取りで立つロリータが、その光景を瞬き一つせずに見つめ、ゆっくりと拳を握り込んだ。影の手が心臓を握り潰す。


(バキッ!!)


心臓は粉砕され、怪物の体内に溜まっていた呪いのマナが爆発的に霧散した。巨体は力を失い、血薔薇に吊るされたまま、物言わぬ肉塊へと変わった。


「消えなさい……終わりのない暗闇の中へ!」


ロリータが両手を合わせると、血薔薇の蔓がすべての怪物の残骸を闇の深淵へと引きずり込んだ。肉を砕き、骨を磨り潰す音が響き渡り、最後にはすべてを拒絶するような闇の爆発が起きた。


煙と血の臭いが収まった時……。


そこには元の墓地の面影はなかった。巨大なクレーターと、焼け焦げた黒い肉片が散らばる死の荒野。ロリータはその中心で、ぼろぼろになった服を纏い、青ざめた顔で立ち尽くしていた。


「勝った……わね……」


彼女は虚空に囁き、力尽きた。膝が崩れ、魔力の余熱が残る地面へと倒れ込む直前――待ち構えていたエンマが雷光のような速さで駆け寄り、その傷ついた小さな体を抱き止めた。


ロリータは、深い眠りへと落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ