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追憶の霧、眠りの淵への道   作者: Rurusia Lulihime
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第20章:眼を射る殺戮のチェス。世界を止めるロリパワー、天下第一の棋神、その名はロリカミ・ルリヒメ、あるいはルルシア・ルリヒメ(後編)鉄道ボードの終焉:チェックメイトの舞踏劇

列車のガタンというブレーキの振動とともに速度が落ち始めるが、車両中央の木製テーブルは、プライドをかけた熱気で沸騰していた。特別チェス対決が、結果を予見して退屈そうに眺めるソフィアと、楽しげに微笑むロリータの視線の中で幕を開ける。


「ちょっと、ルリちゃん……。キングで相手のポーンを追いかけ回して食べるなんてダメだよ。反則だってば!」カナタが、ルリヒメのめちゃくちゃな指し手を見て百万回目の抗議声を上げる。


「黙ってなさい、このホームレス! これは私の『国王親征キングス・マーチ』戦略なんだから!」ルリヒメは無表情に答え、イチゴミルクをズズッと啜る。カナタは深い溜息をつき、勝者の笑みを浮かべた。


「ふふふ……諦めるんだな、ルリヒメ。あと一手でチェックメイトだ! その箱入りのイチゴミルク、俺がもらうぜ!」


カナタの指が最後の一手に触れようとしたその瞬間、ルリヒメは目を見開き、わざとらしく体勢を崩した。


(ガッシャーン!)


彼女は両手でチェス盤の縁を力いっぱい跳ね上げ、駒を車両の床中にぶちまけた。「あら、大変! 列車が揺れたから体が当たっちゃったわ! 駒がバラバラね……。この勝負、引き分け(ドロー)ね、カナタ!」


「引き分けなわけあるか! 確信犯だろ! このクソガキ!」カナタは目の前で消えた甘いミルクと、作戦失敗の悔しさに叫んだ。


覚醒する本能:スペースとプレッシャーの支配


一組目が小学生のような喧嘩をしている傍ら、隣のテーブルでは、エンマとサエルの対局が音もなく、凄まじいプレッシャーの中で進んでいた。エンマは冷静かつ迅速に指すが、サエルはそのすべてを驚異的な手際で受け流していく。


サエルは一瞬動きを止め、穏やかな声で言った。


「私もソフィアさんと同じです……。いえ、彼女よりは劣るでしょうけれど。興味があること、あるいは過去に興味があったことなら、たとえ忘れてしまっていても、一度触れればすぐに40%は取り戻せます。……頂点の、わずか40%ですけれど」


彼女は確かな重みで駒を盤に置いた。「ええ、チェスも同じ。10歳の時に辞めてから5年経ちますが、忘れたのは一部の駒の動かし方だけ。**『パターン(Patterns)』は忘れていません。私は駒を覚えるのではなく、『プレッシャーとスペース(Pressure & Space)』**を覚えるからです」


エンマは目を細め、目に見えない構造によって包囲された盤面を見つめた。


「毎手ごとに相手を観察し、新しい型を記憶し、**『再校正(Re-Calibrating)』を行う。それが『覚醒(Awakening)』を呼び起こします。定石通りに指すだけではありません」サエルは薄く笑った。「私の指し手は記憶ではなく、『純粋論理(Pure Logic)』と『直感(Intuition)』**から生まれます。すべての指し手を記憶できる人間なんていません。……たとえ、あらゆる可能性が見えるソフィアさんであっても」


「面白いじゃないか、サエル姉さん。……でも、ここで投了するほど俺は丸くないぜ」エンマが呟く。


「チェックメイトです」サエルが短く告げた。その微笑みは優しく、しかし心臓を凍りつかせるほどに冷徹だった。


最終決戦:シシリアン・ディフェンスの惨劇


目的地が視界に入り始めた頃、車両の空気は一層重くなった。エンマに代わってロリータが戦場に立つ。先程までの遊び心は消え去っていた。


サエルが白で 1. e4 と指すと、ロリータは即座に c5 で応戦した。最も攻撃的な**『シシリアン・ディフェンス』**だ。


駒が置かれる(パシッ!)という音が、レールの継ぎ目の音とシンクロする。サエルは 6. Nh3 という奇妙な手を指した。カナタが眉をひそめる中、ソフィアの目が光る。「あえて交換を誘い、ポーン構造を破壊する気ね……」


ロリータは迷わず 6. ... Bxh3 で駒を切り、7. ... Bxc3+ でサエルのキング前の防衛線をズタズタにした。


「大胆ね、サエルちゃん。わざとダブルポーンを受け入れるなんて」ロリータは呟きながら 9. ... Qa5 と指し、中央の弱点を突き崩しにかかる。


しかし、サエルの手は止まらない。11. f4 でロリータのナイトを狙い、ロリータが引いた隙に 14. Bh6 で黒のルークの退路を断った。


「終わりね……」サエルが 17. Qa4+ と指し、ロリータのキングを遮蔽物のない盤面中央へと引きずり出した時、ソフィアが呟いた。


「直感だけでここまで追い詰めるのか……」エンマは、もはや盤面を肉眼ではなく論理で捉えているサエルを凝視した。激闘は 20. Rxf6! で最高潮に達する。サエルはルークを犠牲にして最終防衛線を突破した。ロリータは 20. ... Qd4+ で反撃し、サエルのキングを 21. Kg2 へと追い込む。


車内は風の音しか聞こえないほど静まり返った。ロリータの額に汗が滲む。彼女は気づいた。自分が選んだすべての道は、サエルが掘り進めていた奈落へと続いていたのだ。


24. Rxf7+! サエルはルークを叩きつけ、ロリータの最後の守護騎士を屠った。


25. Qe6+! クイーンによる王手。ロリータのキングは隅へと追いやられる。 25. ... Kd8


ロリータは震える呼吸で盤面を見つめた。最後の足掻きとして 26. ... Qxe4+ を指し、時間を稼ごうとする。しかしサエルは冷徹に 27. dxe4 とポーンで取り、反撃の芽を摘んだ。


その瞬間、列車はホームの前でぴたりと止まった。サエルは白いクイーンを手に取り、静かに、しかし決定的に置いた。


28. Qd7# (Checkmate)


黄金の陽光が車両に差し込み、潮の香りが鼻をくすぐる。


「チェックメイトですわ、ロリータ様」


サエルはいつものように穏やかな声で言った。その瞳は、凪いだ海のように静かだった。


ロリータは数秒間固まっていたが、やがて爆笑した。「ふふ……あははは! 素晴らしい! 完璧よ、サエルちゃん。……あなたこそが、このグループで最も恐ろしい変数ね」


「ゲームセットだな」カナタが汗を拭った。「海に来たこと忘れるところだったぜ」


「着いたぁぁ! 海よぉぉ! トニーが来られなかったのは残念だけど!」ルリヒメは気まずい空気から逃げるように、一番にドアから飛び出した。


「行きましょう、皆さん」サエルはいつもの優しい姉に戻り、チェスを綺麗に箱へ片付けると、それをロリータに返した。「警察の方が泥棒を引き取りに来ています。それに……海が私たちを待っていますわ!」

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