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追憶の霧、眠りの淵への道   作者: Rurusia Lulihime
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第19章:眼を射る殺戮のチェス。世界を止めるロリパワー、天下第一の棋神、その名はロリカミ・ルリヒメ、あるいはルルシア・ルリヒメ(前編)

激戦を終えたばかりの車両内。連結部の自動ドアが開き、堂々とした、それでいて優雅な足音が響いた。


一人の少女が姿を現す。ロリータは、鎖骨が美しく映える濃紺のオフショルダーを纏っていた。袖口のフリルが揺れる七分袖のトップスは、胸元の白いボタンラインと完璧に調和している。首元には、差し込む陽光を受けてきらめくピンクのハート型のペンダントが重なり合っていた。


クリーム色のラインが入ったダークなチェックのスカートに、セットの布ベルトが腰のラインを強調する。黒のタイツが落ち着いた印象を与えつつも、高めに結ばれたルーズなポニーテール、バッテンに留められたピンクのヘアピン、そして丁寧に整えられたシースルーバングが遊び心を演出していた。


「駅に着くまであと10分もあるものね。……チェスでもしない、ルリちゃん?」


ロリータは、柔らかながらも拒絶を許さない声で言い、ルリヒメを捕まえようと細い手を伸ばした。


「なんでロリータがいるのよぉ! 来ないで!」


ルリヒメは身をよじって叫び、飛びかかってくるロリータを足蹴りで防ごうとした。


しかし、ロリータはダンサーのような滑らかな動きでその蹴りをかわすと、ルリヒメをひょいと抱き上げ、力いっぱい抱きしめた。そして、愛おしさに耐えかねたように左右の頬へ激しく頬ずり(スリスリ)を開始する。


「うえぇ! 気持ち悪い! サエルお姉ちゃん助けて! この変質者が私の頭を食べようとしてる!」


ルリヒメは腕の中でバタバタと暴れ、ピンクの靴が脱げそうになっていた。


それを見たサエルは驚くどころか、目を輝かせて駆け寄った。


「ロリータ様! 来てくださると思っていました! 今日のコーディネートも最高に素敵です!」


「ごめんなさいね。後ろの7車両分を貸し切りにしていたの」


ロリータはルリヒメを抱きしめる力を強めながら答えた。


「激しい銃声が聞こえたから、私の休暇を邪魔する不届き者がいないか見に来たのだけれど……。どうやら片付いたようね」


「あぁ……海に行く前のちょっとしたウォーミングアップですよ」


エンマは奪った銃をテーブルに置き、カナタは慌てて黒のファッションサングラスをかけてロリータを茶化した。


「チェスですか? いいですよ、ロリータ様! でも、もし僕が勝ったら、ルリヒメのイチゴミルクを一本分けてもらいますよ!」


「夢でも見てなさい、このホームレス! 私のミルクは一滴たりとも渡さないわ!」


ルリヒメはロリータに顔をこねくり回されながらもカナタに怒鳴り返した。


強盗との死闘による緊張感は瞬く間に消え去り、賑やかな友人たちのやり取りへと塗り替えられた。ロリータはルリヒメを座席に降ろしたが、首に腕を回したまま離さず、木製のテーブルに携帯用のマグネットチェス盤を広げた。


「さあ、始めましょうか。……最初に負けるのは誰かしら?」


ロリータは不敵に微笑み、その瞳は世界議会では見せることのない純粋な楽しみに輝いていた。


列車は走り続ける。機関車から微かな汽笛が聞こえた。


「私はパスさせてもらうわ」ソフィアが言った。


「おいおい、まさかチェスができないのか? こんなの簡単だろ、駒を動かすだけなんだから」カナタが茶化すように言う。


「誰ができないと言ったのよ。私が有能すぎるからやらないだけよ」ソフィアが静かに反論した。


「他の人にはただの盤面に見えるでしょうけど、私には**『シャノン数(Shannon Number)』**が見えているわ。チェスの一局における可能な指し手の組み合わせは 10^{120} 通り。相手が駒を一つ動かすたびに、数百万もの可能性が消滅し、一つの現実のルートが構築される。


他人が私が何を指すか予想している間に、私はすでに 10^{40} もの状態空間計算を終えているわ。**『アルファ・ベータ法(Alpha-beta Pruning)』**で無駄な枝を切り捨て、チェックメイトに至る唯一の解を導き出している。


相手が勝てると思っているあらゆる可能性は、10手前の時点で私の**『探索樹(Search Tree)』によって封殺されているの。相手のすべての動きは、私が仕掛けた『ツークツワンク(Zugzwang)』の罠へとはまり込んでいく過程に過ぎない。起こりうる唯一の結果は、私の勝利と相手の敗北。


相手がいかに『パーフェクトプレイ』をしようとも、残りの手数は『DTC(Distance to Conversion)』**ですでにカウントダウンされているわ。……カナタ、あなたが相手なら、始める前から詰んでいるのよ」


「……あ、いや、僕はただの暇つぶしだって言いたかっただけなんだけど、ソフィア……」


カナタは顔を引きつらせ、冷や汗を流した。駒を掴もうとした手が空中で静止している。


ルリヒメを抱きしめていたロリータは、喉の奥で低く笑った。ソフィアを見る瞳には満足感が漂っている。「相変わらずね、ソフィア。あなたの論理的思考は相変わらず極致にあるわ」


黙って聞いていたエンマは、虚無の目でソフィアを見た。「つまり……お前と遊んでも全く楽しくないってことだな。自惚れ屋の極みか」


「楽しいかどうかの問題じゃないわ」ソフィアは腕を組み、足を組んだ。


「脳のリソースの無駄遣いよ。結論の分かっている**『ゼロサムゲーム(Zero-sum game)』に、脳内の『エントロピー』**を費やすなんて、全くもって非合理的だわ」


「あぁぁ! 聞いてるだけで頭が痛くなってきた! 脳みそが受け付けないわ!」


ルリヒメは叫びながら、ようやくロリータの腕から脱出することに成功した。


ソフィアの隣でフルーツジュースを飲んでいた双子の妹、カレンが肩をすくめて笑った。


「お姉ちゃんはいつもこうなの。ソフィアにとって、世界のすべては変数と方程式なんだから。アイスクリームを選ぶ時だって、溶ける速度と舌の表面温度の比率を計算するんだから。信じられる?」


「……それは分子レベルでの味の審美性を維持するためよ」


ソフィアは静かに言い返しつつ、顔を背けた。秘密を暴露されたせいで、頬が微かに赤らんでいる。



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