第九話 聖女の主張
それから七日後、王宮の第一応接室。
淡い光に照らされた煌びやかなその空間に、一人の女の声が響いた。
「オスカル様、貴方は操られてるんです。魔族は人間を惑わすもの。貴方もそれはご存知でしょう?」
悲痛な声で訴えるレイア。その目元には、うっすらと涙が浮かんでいた。
レイアと机越しに相対しているオスカルは、それを聞いて眉をひそめた。
「それは大昔の迷信でしょう? 魔力量や身体の作り以外は我々とさほど変わりがないはずです」
「それは魔族が勝手に言っているだけです! こんな事を言いたくはありませんが、魔族と人間が仲良くできるとは思えません」
強い口調で断定するレイア。彼女は自分は純粋な乙女ですと言わんばかりの芝居がかったた口調で言葉を紡ぎ続ける。
「私、オスカル様が心配なんです。国を発展させるならばお世継ぎも考えなければなりません。その点でも、サターニャ様では荷が重いかと」
レイアの声音に嘲笑う様な色が混じる。
……本当に、浅はかで不快な女だ。
「オスカルのために、と言っているが……内容はは全て自分のことばかりだな」
それも当然のことだろう。あの後レイアの事を調べたが、出てきたのはこやつがどれだけ強欲かという証拠のみだ。
「これは私の意見ではなく、リュミエール王国としての見解ですわ! 英雄たるオスカル様には、もっと相応しい相手がいるはずですもの!」
「相応しい相手がいるとしても、それは『大国の王かつ英雄であるオスカルの地位と財産目当て』などと人に言う様な女ではないだろうな」
さあ、とレイアの顔が青くなる。
「っ……! そ、そんなの、当然の事でしょう」
「ほう、では貴様はオスカルの妻に相応しくないと、そう認めるのだな?」
これは余の腹心から聞いた話だ。
レイアは国王の寝室でそう王を説得していたらしい。
レイアはしばらく視線をさまよわせる。そして小さく肩を震わせたあと、ぽろぽろと、涙をこぼし始めた。
「ひ、酷い……言いがかりです……。私がオスカル様を愛していて、邪魔だからってそんな事を言うなんて」
レイアは崩れるように床にへたりこむ。
「この前も『余の計画を邪魔するな、無力な小娘らしく大人しくしているんだな』って、私の事を突き飛ばして。その上にオスカル様の前で、その様な嘘をおっしゃるのですか……?」
オスカルはその声に、ぴくりとこめかみを動かす。
「突き飛ばした?」
「そうです! 私の事を突き飛ばして、恐ろしい表情でにらみつけてきたんです! その時にできたあざが、まだ右ももに残っておりますわ!」
レイアはオスカルの方へ身を乗り出してから、証拠を示す様にドレスの上から自らの右ももをおさえた。
「地位と財産目当てだと言いがかりをつけるということは、きっとサターニャ様はそれが目当てでオスカル様に取り入ろうとしているんです! 殿方に取り入って幸せになろうなんて、最低の悪女ですわ!」
余をにらみつけるレイア。か弱さを演出するような態度とは裏腹に、その瞳は女狐の様な鋭さと狡猾さで満ちていた。
ようやく本性が見えてきたな。
それがあまりにも滑稽で、くっくと喉の奥から笑いが込み上げてくる。
「ほお、貴様がそれをいうか。ここまで即興で動くことが出来るとは……その才を、もっと有意義な事に使うべきだったな」
中々面白い発想だ。
しかし余を貶めるには、詰めが甘すぎる。
「悪女はどちらか、尋ねてみようではないか」
余の言葉に合わせて、会議室の扉が開いた。
部屋の空気が急速に冷えていく。
レイアは扉の方を見て、まるで氷のように固まった。




