第一話 魔王、敗れる。そして何故かプロポーズされる
魔王城 玉座の間。
薄暗く荘厳なその空間は、苦しげなうめき声に満ちていた。
「勝負あったようだね、魔王『サターニャ・チェーニミル』」
目の前で銀色の剣先が輝く。
剣の持ち主――勇者『オスカル・ソルスパーダ』の青い瞳が、余を見下ろしていた。
……よもや、これまでか。
まさか二十年前に見逃した小童が、ここまで強くなり、余を追い詰める存在になろうとは。
硬い大理石の床に座ったまま、余はわずかに視線を上げる。鼻につく金属の匂いが、余の鼓動を加速させた。
「余はどのようにされても構わない。だが……どうか、民だけは、見逃してもらえないだろうか」
余は床に這いつくばるように頭を下げる。
どんなに無様だろうが、必ず民を守る。
それが、王たる余の役目だ。
「その言葉が聞きたかったんだ。初めて会った時から、ずっとね」
頭上に降り注ぐ暗い声。
感情の読めないそれに、ぞわりと背筋に悪寒が走る。
カチャリと剣を鞘に納める音がした。
オスカルはゆっくりと余の前に膝をつく。
「顔を上げて」
その言葉に従い、余はゆっくりと視線を上げた。
見えたのは鎧ですら無い、貴族然とした服。オスカルはその内ポケットに手を入れて――小さな、四角い箱を取り出した。
「俺と結婚してくれ、サターニャ」
「……なんだと?」
パカリと小箱が開けられる。
その中央には、大きな宝石のついた指輪が鎮座していた。
「君は今日から俺の妻になるんだ。……君をどうしようと、俺の自由なんだろう?」
オスカルは銀色の髪を揺らしながら、にやりと口の端を吊り上げる。
「ずっと、君が欲しかったんだ」
一見柔らかなのに、有無を言わさぬ強引な態度に、空いた口が塞がらない。
何を考えているのか、全く理解できなかった。
だが、これも民のため。それでも、余に断る余地など存在しない。
こうして余は『勇者の花嫁』として、彼の治めるソーレディオ王国へ連れて行かれることになったのである。
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