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9話 ミーシャブチ切れてんだろうな

 お薬混入エールをさぞかし美味そうに飲み干した3人衆は幾分元気を取り戻したようだった。わたしも喉は潤し終えたし。とっとと目標を達成してしまおう。


 三人衆を引き連れ、魔物素材に囲まれるネモちゃんがいそいそ動いてるのを横目に別のカウンターへ向かう。


「サリナさん。この3人の冒険者登録したいんですけど、大丈夫ですか?」


 とろんとした目つきが特徴的な美女、サリナさん。リンデルの冒険者ギルドでも人気の受付嬢である。


「あら、さっき冒険者さんがギルドの制服でエールをガブガブ飲んでる娘が居るって言ってたけどやっぱりアリシアちゃんだったのね」


「喉渇いてたんですよ。エールなんて水みたいなものじゃないですか。皆さんも飲むでしょう」



「私たちは表では飲まないかな。休憩時間中に裏では飲むけど。それで、後ろの御三方の登録手続きでだったわね。それじゃあ登録用紙へのご記入をお願いします」


 登録用紙等と言われているが冒険者等根無し草同然なので書くのは名前と年齢と性別位なものである。


「一応聞けるけどあんたら字は書ける?」


 三人衆に問いかける。


「「「へい!書けやせん!」」」


 ……正直で宜しい。


「代筆にはお金がかかるんだけど、アリシアちゃんが居るなら大丈夫ね」


 ギルド職員の必須技能の一つに字の読み書きがある。この国の識字率は高い方ではあるがそれでも字の書けない人物は多い。私は軍隊時代にそれなりの教育を受けているので字の読み書きや計算、その他の技能はある程度の水準まで収めている。むしろ教育を受ける目的で軍に入った。


「じゃあ、わたしが代筆するからちょっとこっち来なさい。あ、サリナさんインクとペン貸して下さい」


 サリナさんに予備のペンとインク借りたわたしは邪魔にならない場所で、三人衆の情報を書き込んで行くのだが、その過程で驚愕の事実が発覚した。


「えっと、ザムザさんとハイジさんとレントさんね。年齢が……全員17歳?」


 記入事項を確認していたサリナさんが目を丸くして3人衆を見る。サリナさんにしてはレアな反応である。気持ちは分かる。わたしもそうなった。


「あんたら、本当にサバ読んでないのね。本当はおっさんとかじゃなくて」


「「「へい!17で間違えありません!」」」


 まじか、若年寄とかそんなレベルじゃないぞ。もうおっさんじゃん。ハイジに至ってはハゲてるじゃん。


 まぁ、こちらの想定より若いのは嬉しい誤算である。これなら冒険者としてデビューするのも遅くない。大事に育てれば我がギルドの戦力になってくれるだろう。


「まぁ、年齢に関しては確認のしようもないし自己申告なので別にいいんですけどね。それでは、記入の状態で登録をしますのでちょっと待ってて下さいね」


 そう言ってサリナさんは奥へ引っ込んで行った。


「さて、これであんたらも晴れて冒険者の仲間入りね。一応聞くけどあんたら何か武術の心得とかあったりはする?」


「俺達の故郷の村に元冒険者の兄さんが住んでたから皆その人から剣を習ってます」


「ああ、全く心得がないわけじゃないんだ。元々冒険者になりたいって言ってたしね。の割にはわたしらを襲おうとした時妙にへっぴり腰だったけど……」


 なんか、元々冒険者になりたくて田舎の村から出てきたら。途中で冒険者養成講師を名乗る人物に騙され、有り金全て巻き上げられたらしい。それで、食い詰めた挙句わたしの馬車を襲おうとしたらしい。


「面目ねぇ……」


「まぁ、あんたがどれぐらい使えるかはこれから調べるとして冒険者の事はどれぐらい知ってるの?」


「いえ、実はあんまり知らなくて」


 ハイジが恥ずかしそうに言う。まぁ、憧れだけで出てきてしまった口だろう。17歳なら仕方ないか。


「まず冒険者はSからFのクラスでランク分けされてるの。冒険者登録を終えたあんたらはFランク冒険者となって、依頼をこなして貰う事になるわ。依頼にもSからFでランク分けされてるからその中から力量に見合った依頼を受注してもらう事になる」


「姉御、Fランクの俺等が受けられる依頼って何ですか?」


「基本的に同ランクの依頼ね。Bランクの護衛依頼にFランク冒険者が来たら依頼人怒るでしょ。依頼のランクが上がるごとに依頼量も高額になるんだから」


「高い金払ってへっぽこが来たらそりゃ怒りますね」


「そ、であんたらはそのへっぽこスタートなわけ。せいぜい精進しなさい」


「「「へい!姉御!」」」


 まぁ、ドナレスクの冒険者事情は色々特殊なのだが、その事については追々説明するとしよう。ピンハネのピンハネとか。


「所で姉御はどのランク何ですかい?」


「わたし?Cランクだけど」


「そ、そうなんですかい?俺はてっきりもっと上のランクかと」


「Cって村のケトル兄さんと同じ位?いや、でも……」


 ケトル?ああ、三人衆が剣を教わってたっていう元冒険者か。


「アリシアちゃんは受付との兼業だからCランクってだけで専業でやってればもっとランク高いと思うわよ」


 後ろからの声に振り返るとサリナさんが戻って来ていた。手には冒険者カードが3枚。おそらく三人衆のだろう。


「カードの発行完了です。登録手数料で一人銀貨1枚いただきます」


「あ、サリナさんありがとうございます」


 そう言っってわたしは自分の財布から銀貨を3枚取り出してカウンターに置いた。


「え?アリシアちゃんが払うの?」


 と目を丸くするサリナさん。


「立て替えるだけです。後で取り立てます」


「ふーん。まぁ、深くは聞かないで置くわ。所でアリシアちゃん。受付なんて辞めて冒険者やりなさいよ。うちの支部長もアリシアちゃんなら直ぐにAランクに昇格させても良いって言ってるわよ」


「嫌です。わたしは受付で安定したお給金を貰って、無理の無い労働をしながら余生を過ごすんです」


 最近そればっか。


「ふーん。それで冒険者のランクについて話してたみたいだけど。どこまで話したの?」


「基本的に冒険者ランクと依頼ランクがイコールの物じゃないと受けられないって所です」


「そう。じゃあ続きから説明しようかしらね。アリシアちゃんが言った様に基本はそうなんだけど、例外が3つあるの。一つ目がギルド内から特定冒険者に出す依頼ね。これが来たら基本的に拒否権は無いわ」


「権力の乱用よね」


 過去の出来事を思い出してぶーたれるわたしにサリナさんが苦笑いになる。


「アリシアちゃんとミーシャちゃんは結構被害受けてるもんね。でも安心して基本的にギルドから冒険者にその手の依頼って少ないのあるとすれば昇格させたいけど決め手にかける時なんかがそうね。アリシアちゃんとかミーシャちゃんとか。強い魔物狩ってるクセにこなす依頼はFランクとかEランクばかりなんだから」


「何回もココに呼び出されましたよね。しかも普通の依頼だったのは最初だけで、次からは昇給審査にかこつけた塩漬け依頼の処理じゃないですか。言っとくけどミーシャもブチ切れてましたよ」


「あー、うんゴメンね。支部長にもあまり甘えないように言っとくから。まぁとにかく、そんなにギルドから一般(・・)冒険者に依頼が来ることは無いから安心して。活動拠点がドナレスクなら審査対象にはなるかもしれないけど。それで2つ目は高ランク冒険者の補助で依頼をこなす時ね、例えばアリシアちゃんの補助でザムザさん達が同行する場合は依頼のギャップは取り払われる事になるわ。ただこれは依頼主との兼ね合いもあるから報酬等は減額になる可能性もあるわね。最後はまぁ、一つ目に近いけど緊急事の特例措置としてランクに関係なく冒険者を動員する必要がある時ね。魔物が大挙して街に押し寄せて来たとか大きな盗賊団が街に攻めてきたとかね。まぁ、滅多に無いから安心して」


 とそこまで話終えたサリナさんは持っていたカードをこちらに差し出した。


「3人はFランクね。次のランクの昇格に必要なのは依頼の達成率と依頼人からの評価を参考にする事が多いの。だから簡単な依頼でも手を抜かないで依頼人に喜ばれる仕事をすれば昇格も早まるかもしれないわね」


 そう言っって3人衆にカードを差し出すサリナさん。


「「「へい!サリナ姉さん!ありがとうごぜえやす!」」」


 前々から思ってたがコイツらの三下ムーブは一体何なんだろう。


「あ、そうだ。サリナさん。ちょっと聞きたいことがあるんですけど」


「何かしら?」


「さっきザボエラ商会で小耳に挟んだんですけど。最近この辺りで多発してる盗賊被害について何か情報はありませんか」


「ああ……」


「その事については私から説明するよ」


 げ、この声は……。


「お久し振りです。アーノルド支部長」


 立って居たのはリンデル支部長のアーノルドだった。いつも私とミーシャに塩漬け依頼を押し付ける男だ。


「アリシア君。この時期に君が来てくれて本当に良かった。どうか我々に力を貸して欲しいのだよ。この依頼を達成した暁にはランクBへの昇格を約束しようじゃないか」


 まさかコイツ、盗賊関連の依頼を押し付ける気じゃないだろうな。


「アーノルド支部長。流石に隊商狙いの大盗賊団の討伐依頼とか押し付けたらぶっ飛ばしますよ」


「成る程、ある程度の事情は把握しているようだね。安心したまえ。君一人に重荷を背負わそう等とは考えて居ない。今、付近の信用出来る冒険者を集めて極秘に討伐隊を編成中でね。君もその中に加わって欲しいのだよ。何、元々加わってもらうつもりで先日ドナレスクの君とミーシャ君にも協力要請の手紙を出していたのだ。君は手紙と入れ違いになったようだが、そのうちミーシャ君もリンデルへ来るだろう」


 ミーシャ、またブチ切れてるんだろうな。まぁ、来るんだろうけど。この人腹立つけどやる事はやる人だし。討伐隊を編成する段階になってるなら既に斥候を出して隠れ家の割り出し、敵の規模の調査まで終わってる事だろう。


「盗賊の規模はどれぐらいですか?」


「最低で200名、装備も充実してる。盗賊なんてもんじゃないよあれは……多分、傭兵団か他国の工作部隊だ」


 私の想定が現実味を帯びてきた。


「リンデルの駐在軍の動きは」


「悪いね。多分軍内部に工作部隊と通じてるものがいる。既にギルドを通じて王都の軍本部には連絡済みだ。近々、王都から軍の討伐隊と調査隊がリンデルに来る手はずになっている。あ、これは口外しないで関係者(・・・)の君達だから話てるんだから」


 うん、機密情報をありがとうごぜえやす。全く嬉しくない。というかこんな所で話すな。と思ったらわたしと支部長を取り囲む様、周囲に防音魔法が張られてた。


 しかし、軍が他国の工作部隊と内通とか事実なら悪夢である。


「王都から来る討伐隊は何人ですか?」


「先遣隊は50人だ。軍があまり大きく動くと相手に気取られる。それぞれ分隊単位でリンデルへ向かい再集結する。我々は集結した討伐隊50名と共に討伐の殲滅と内通者の拘束を行う。冒険者の信用出来るパーティーには既にこのことを伝えているが、そうでない者は当日知らせる。また恨まれるだろうなこれ」


 ああ、うん。恨まれるだろうね。まぁ、組織の幹部なんて恨まれるのが仕事である。オーランド支部長も仕事してくれないかな。


「はあ…。分かりました。作戦の開始予定日を教えて下さい。準備しないといけないので」


「今から2週間後の夜中だ」


「了解です。戦の準備金はそっち(ギルド)持ちでいいのですか」


「う、仕方ない。その、あまり法外な物は……」


 よし、言質とった。斧槍とか欲しいな。後、鎧もしょっぱい胸当てじゃなくてしっかりした鎧で。


「あの、頼むよ。ギルドが冒険者に賄賂とか。バレたらやばいから」


 クックック。さあ、何を買おう。

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