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8話 冒険者が居着かないのも分かるわ

 結局の所、ザボエラ商会のロイド氏も忙しい身らしく。適当な世間話を10分程続けた後解散となった。


 最後に突然の来訪になってしまった事をもう一度詫びて変な汗を掻きつつ滞りは最少元で来訪は済んだと思いたい。


 しかし、最後に少し気になる事を言っていた。最近盗賊がよく出るようになったというのはわたしとしても承知していたが、実はそんなレベルではなく。隊商が襲われて実際に被害が出始めてるとのことだ。


 隊商を襲う規模の盗賊団ともなれば通常は軍が討伐隊を立ち上げ、壊滅させる筈なのだが事今に至っても、軍にそれらしい動きがない。


 結局、被害を抑える為に護衛を増やすなどして物資の輸送コストを上げざるを得ず。利益が出しづらい状況らしい。


 ロイド氏としても頭の痛い問題であるからして、軍が頼りにならんのならと冒険者ギルドに盗賊の討伐依頼を出したとのことだが。


「塩漬け依頼コースね」


 一冒険者が受けるにしては重すぎる依頼だ。そうなれば自然と冒険者も多数のパーティーが集まり討伐隊を組むわけだが、冒険者には野生のゴロツキみたいな奴も多いので連携などは取れるはずもなく、結構な被害が出るのだ。


 そのくせ隊に参加する冒険者が増えれば増える程報酬の取り分は減って行くので割のいい依頼とも言えず。盗賊団の討伐などは少し経験を積んだ冒険者であれば速攻でポイする類のものである。


「軍の動きが鈍いのが気になるけど」


 地方では時折盗賊の被害が増える事がある。要因としてパッと挙げられるのは。戦争や物資の供給不足による経済的困窮者の増加による治安の悪化。他国の工作部隊が盗賊に扮して何かを企てている時。後は盗賊と町の治安維持の中枢にいる人間が繋がっている時だ。


 最後はあまり考えたくないのだが、この辺りは長らく戦火に包まれて居ない筈だし、町の状況を見ても特定の物資が不足したり、極端に高騰しているようなこともなかった。


 となると可能性が一番高いのは町の中枢の人物が盗賊と通じてるケースで、これが真だとするなら他国の工作員が盗賊として入りんでる可能性も……というのは些か考えすぎだろうか。まぁ、ギルドに言ったら少し話を聞いてみるか。


 しかし、リンデルとドナレスクの交易路が分断されてしまうと割と本当にまずいので早期に解決を願うばかりである。










 ザボエラ商会から出ると、三人衆は道端で倒れて……というか寝てた。おい、荷物置いたまま寝るなよ。


「起きなさい」


「あ、姉御おかえりなさいやせ」


「やべえ、体バキバキ」


「死ぬかも」


 三者三様の口上でノロノロと状態を起き上がりわたしを見た3人だったがわたしが怒って居るのが伝わったのか「ひっ!」等と声をあげながら寄り集まった。


「荷物放ったらかしてお昼寝とは良いご身分ね」


「す、スイヤセン。つい……」


「まぁ、今日は初日だし。荷物も無事みたいだからこれ以上は言わないけど、次からしっかりしてよね」


「め、面目ねぇ」


 普通に盗まれててもおかしくないからね。冒険者してて寝こけてて荷物奪われましたって洒落にならない。


「取り敢えず。最初の用事は済んだから次はギルドに向かうわよ。はい、立って立って」


 パンパンと手を打ち鳴らし3人衆を立ち上がらせる。辛そうだが、後半分もないので三人衆の2人には頑張ってもらおう。


「レントは本当にヤバそうね。後はわたしが持ってくからあんたは普通に歩いていいわよ」


「いや、ですが姉さん。この荷物かなり重くて……」


「わたしが持てない物をあんたらに待たせるわけないでしょ。それともまだいけるの?」


 流石にわたしもそんな事はしない。と言うより何かあって荷物を運ばないと行けなくなったら困るではないか。


「だ、大丈夫っす」


 十中八九途中でへばるだろうが、まぁやる気があるならへばるまで歩かせて見るか。


「そう、なら早く持ちなさい、そのままギルドに向かうわよ」


「へい!」















 そうして歩き続けること半刻程。ギルドまでもう少しというところまで来て時のことだった。


「姉御!レントがぶっ倒れた!」


「ああ、やっぱりこうなった」


 仕方ないので、気を失ったレントを肩に担ぎ、荷物も持っていく状況になった。


「あ、姉御。大丈夫なんすか?」


「え?レントなら心配ないわよ。疲れて寝てるだけだし。そのうち勝手に起きるわよ」


 ビクビクと尋ねるザムザに言う。とは言っても汗はそれなりに掻いてるので早く水分は摂らせたいのだが……。


「いや、レントはレントで心配なんすけどその、姉御は重くないんですかい?」


 ああ、そっちか。


「まぁ、重くないと言ったら嘘になるけどこう言うのには慣れてるのよ。わたしもともと軍属だし」


 重い荷物持って長距離歩かされるなんて日常である。


「え?マジすか」


「軍人やべえ……」


 ザムザとハイジがなんか言ってる。


「まぁわたしみたいな可憐な乙女でもこれ位は出来るんだからあんたらも鍛えれば出来る様になるでしょ」


「可憐?」


「乙女?」


 こいつら何でナチュラルに喧嘩売って来るんだろう。だが残念。生憎今は両手が塞がってる。その喧嘩は買ってやれない。


「何?言いたいことでもあるわけ?」


 手が塞がってるのでかわりに睨めつけてやる。


「「姉御、可愛い!姉御、最高!」」


 弾かれた様に言う2人。なんだこの構図。これじゃわたしが無理やり言わせてるみたいじゃないか。


「はあ……。まぁ、おべんちゃらを言う元気あるならまだ大丈夫かしらね。ギルドまでもう一息だから頑張りなさいな」


「へ、へい!姉御!」


 とそうして歩き続け、ギルド前までようやくたどり着いたわたし達一行は通り掛かった冒険者にギルドの扉を開けてもらって中にもたどり着くとギルドの魔物素材の買取カウンターへ近づく。中で帳簿を付けていた女性職員が接近に気が付き顔を上げる。くりっとしたお目目が愛くるしいネモちゃんだ。


「あ、アリシアさん久しぶりで……へ?何で男性担いでるの?」


「久しぶりね。ネモちゃん。これはレント。ドナレスクの新米冒険者候補生よ」


 目を丸くするネモちゃんにそれだけ告げると片手に抱えていた魔物素材の袋をドサリと置いた。


「買い取り宜しく」


「あ、はい」


「ちょっと待って。後二袋あるから。あんた達」


 言うが早いが崩れ落ちる様にカウンターに魔物素材を叩きつけるザムザとハイジ。


「終わった。やっと終わった」


「生きてる。俺生きてる」


 大袈裟だよ。


「ゴメンねネモちゃん。間隔が空いちゃったから少し量が多くなっちゃった」


「ええ、それはいいんですけど。大丈夫なんですかその人たち」


「大丈夫よ。多分。あんたらちょっとこいつ運んであっちの机で待ってなさい」


 ザムザとハイジに伸びてるレントを渡すとえっちらおっちらとギルド内に敷設されたイートスペースにある空きテーブルまで運ばせた。いいなぁイートスペース。しかし、レントを運ぶ2人の足がプルプルしている。少しやり過ぎたか?


「あー……。ネモちゃん回復剤を3本ちょうだい。安いのでいいから」


「はい、銀3枚です」


 回復剤って結構高い。一番安いのでも一本で銀1枚位する。パン一つが大体銅貨3枚なのでパン3個強だ。因みに、それなりに貰ってるとされるギルド職員の給料が月々銀貨30〜60枚なので普通に痛い出費ではある。金貨?知らない子ですね。


 金自体は高価で価値も安定したものなんだが金貨って使い勝手が悪い。金貨1枚の相場が大体銀貨10枚程なので大きすぎて普通の支払いで使われる事は稀である。というか普通に店側に嫌がられる。金貨でパンを買おうとすると金貨1枚に何故か両替手数料としてパン1枚分を請求されるという謎現象が起こる訳だ。


「アリシアさんと一緒にいた2人も新人さんですか?」


 回復剤を手渡しながら三人衆について聞いてくるネモちゃん。


「まぁ、そんなとこね。正確にはこれから冒険者登録をするんだけど。」


「どういう事です?」


「あーまぁ、リンデルに来る途中に拾っ……保護した人なんだけど、仕事を欲してたみたいだからうちのギルドで冒険者として働いてもらおうと思って連れてきたってだけ。今うちのギルド冒険者居ないし」


 嘘は言っていない。


「ああ……。大変ですね。あれ、ホーンベアの毛皮と角だ。珍しい」


「この間たまたま遭遇したの。お肉もあるから後でギルドの人たちで分けてね」


 そう言って持ってきた。燻製肉をカウンターに置いた。


「いいんですか?」


「まぁ、普段魔物の買い取りでお世話になってるし賄賂よ、賄賂。それに帰ればまだ沢山あるから。正直食べきれないんだよね」


「ホーンベア倒せるならアリシアさん冒険者やった方が稼げるんじゃないですか?」


「嫌よ。きついし、汚いし、危険だし」


 なんの為に転職したと思ってるんだ。だから今の環境は宜しくないのだ。


「まぁ、それもそうですね。それで素材の買い取りなんですけど。量が量なので価格の算出に少し時間頂きたいんですけど明日とかにもう一度ギルドに来れますか?」


「量が量だし構わないわよ。手伝おうか?」


「いえ、ちゃんと手数料も頂いてるので大丈夫ですよ。ゆっくりしてて下さい。でも素材を換金した後のお金ってどうなるんですかギルド預かり?アリシアさんのお小遣い?」


「ギルド、わたしで大体2対8って所ね、わたしとミーシャでさらに分割になるけど」


「ああ、それなりに貰ってるんですね。よかったです」


「まぁ、貰ってるとは言ってもピンハネのピンハネだからね。わたしみたいな兼業ならともかく一般の冒険者が居着かないのも分かるわ」


 リンデルで素材買い取りをお願いした事で仲介量として買い取り総額の2割を持ってかれ。ドナレスクのギルドにも残額から2割持ってかれるとか普通に考えてヤバすぎる。


「リンデルはやっぱりザボエラ商会に卸してるわけ?」


「うちは大体はそうですね。ただ普段からよく使われるような素材でしたらギルドの直売所とかで販売してます」


「いいなぁ。ザボエラ、ドナレスクにも支店出してくれないかな」


そうすれば、リンデルまで魔物素材を持ち込む必要もなく、冒険者からピンハネのピンハネをせずに済むのだ。


「でも、不思議ですよね。ザボエラ商会だってドナレスク近辺の魔物素材は欲しいと思うのですが……支店を出しても利益は上がりそうなんですけどね」


「わたしもそう思ってロイドさんに提案してみたんだけど、素気なく断られた」


「え?ロイドさんとあったんですか?」


「ここに来る前にね。ハンスさん……ドナレスクの猟師のお爺さんのお使いよ」


「猟師の方が商会の責任者の方とですか?」


「まぁ、わたしも不思議な関係だとは思うけど、ハンスさんだからね。よく分からないけど妙に顔が広いのよ」


 等と取り止めのない会話をしていたら結構な時間が立ってしまったので取り敢えず退散しようか。


「それじゃあわたし、他にも用事があるからそろそろ行くわ。ネモちゃん。悪いけど買い取りの査定宜しく」


 そう言って買い取りカウンターを後にして、三人衆の待つイートスペースに向かった。


「満身創痍ね」


 三人衆は見るからに疲弊していた。背もたれにもたれ掛かったまま、口を開けて動かない三人衆。レントもいつの間にか意識を回復したらしい。


 しょうがないので銅貨8枚程でエールを4杯程注文する。わたしの飲む分以外には回復剤を一瓶分預けて混ぜてもらった。


 エールに混ぜると少し回復剤の高価が上がるのだ、普通は一本が一人分なんだがもったいないので希釈する。


「ほら、飲みなさい」


「さ、酒?」


「酒なんて飲むの久しぶりだぁ」


「ほ、本当にいいんですかい?」


「まぁ、頑張ってくれたし。あんたらがいたおかげで宿とギルドを何往復もしないで済んだからそのお礼よ」


「「「ありがとうごぜいやす!」」」


 そう言って、エールの入った器を一気にあおる3人衆。


「うめえ!なんかちょっと苦い気がするけどうめえ、染みる。生き返る!」


「なんかちょっと薬臭いけどうめえ」


「心なしか体力まで戻った気がしまずぜ!」


 まぁ、回復剤入りだし。味は間違いなく落ちてるだろうな。と、混ぜ物のしてないエールに口を付ける。うん、美味い。

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