3話 わたしは悪く無い
ホーンベアはギルド基準で強さを表すならCランクの魔物である。このあたりになると、熟練の冒険者が相手をする事がベターな魔物である。
そんな存在に戦力を分散させた理由は2つある。
理由1つ目、ホーンベア程度はわたしの驚異たり得ない。
獰猛な叫びを上げるホーンベアの突進からの薙ぎ払いを躱すと、薙ぎ払った腕の腱を断ち切る。魔物と言えど所詮せい生物、身体を動かす筋肉の要を断ち切られたことで動かせなくなった腕がブラブラと揺れる。
「Grooo!?」
手が動かなくなった事に動揺したのかホーンベアに隙が生まれる。今度はわたしの方から踏み込んむ。驚いたホーンベアが残った腕でわたしを切り裂こうとするがそれをかわして反対側の腱も断ち切った。
「Groooo!」
こと、此処に至り形勢の不利を自覚したのか。ホーンベアはわたしに背を向ける。逃げるつもりである。
「逃さない」
わたしは逃げようとするホーンベアに駆け寄るとミーシャの助言通りにダガーでホーンベアの首を切り裂いた。
魔物にだって血は通っている。首と共に太い血管を裂かれたホーンベアは傷から噴水のように血を噴き出す。わたしがホーンベアの腕を使えなくしたのはこの時に暴れられない様にする為。
始めこそ、吹き出す自身の血を見て興奮していたホーンベアだったが、数分もすれば出血多量で動けなくなり、そして死んだ。
「よし、血抜きはこんなものかしら」
ミーシャを返した2つ目の理由。ホーンベアなんてか弱い女子2人では持って帰れないし解体出来ない。だからこそ一度町に戻って応援を呼んでもらうのだ。ホーンベアの肉はちゃんと処理すれば凄く美味しいのだが痛み易い魔物でもある為、仕留めてから解体までを如何に短い時間で終えられるかが勝負である。
と言ってもこの場で中途半端にバラすわけにもいかないので、後はミーシャが応援を連れて戻って来るのを待つしか無い。
ただ待っているのも暇だったので、氷と風の複合魔法でホーンベアに冷風を当てて腐敗を遅らせつつ。当たりに飛び散った血を水魔法で洗い流していた。薬草に血が付いた状態はなるべく避けたいからだ。
そんな事をしながら暇を潰してたら。応援を引き連れたミーシャが到着。死んだ目をしたオーランド支部長は置いといて、連れて来られた大人は体力自慢ばかりだ。
「ハンスさんこっちです!」
声を張り上げると厳しい顔のおっさんがのそのそと歩いて来る。そしてしゃがみ込んでホーンベアの死体を確認する。
「血抜きは終わっとるな。生きたままやったんか。良く抜けとるわい」
そう言って立ち上がる。ハンスさんに続いてぞろぞろと町の男衆が集まってくる。
「コイツは食いでがありそうだ」
「バーキンのやつの所に卸して何か作らせようぜ」
「毛皮はアレッタん所に持ってって鞣してもらうか」
「でけえな。運搬用の戸板に乗るか?」
死体を見た町人間が好き勝手言ってるがそんな事はどうでもいい。
「さあ、皆さん早速ホーンベアを町に運んで解体ですよ」
集まった人らにわたしが呼びかけると男衆は「へい」等と山賊の下っ端の様な返事わして作業に取り掛かる。
5人かがりでホーンベアを街道に運び出し。持ってきた木の板に横たえる。木の板には縄が括りつけられているので板をソリにして街道をひたすら引っ張って行く。
その間わたしは保存の為に先程使った冷風魔法をかけ続けた。
町に着く頃にはすっかり当たりは暗くなっていたが、まだまだ作業は終わらない。
此処から解体があるのだ。町の広場でハンスさんを中心にホーンベアの解体が始まり結局解体完了は深夜になっていた。
「疲れた」
運搬中な魔法を使い続けて何故かハンスさんに名指しで手伝いに任命されたわたしはぐったりとその場に座り込んだ。
因みに、今着ているのギルドの受付服ではなく。魔物の解体用の作業着だ。手伝う羽目になった時着替えた。流石に服が汚れる。
「アリシアの嬢ちゃんの血抜きが良かったからいい肉になったぞ。ほれ、嬢ちゃんの分だ」
そう言って、布にくるまれた肉の塊を渡された。
「重!ハンスさんこんなに処理出来ないですよわたし」
「あ?ああ、なら燻製にでもしてやるから俺に預けな」
ありがたい申し出だったので素直に渡した。
「しかし、あんな大物だ、でけえ町ならいい値が付くぜありゃ。良いのかよ皆に配っちまって」
「まぁ、1人で食べるのは無理ですし。町に持ってくのも大変なので内々で処理したほうが楽じゃないですか。毛皮は町で売りますけど」