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21話 酷い誤解をされている気がする

最初に別視点のお話が入ります。

 開戦前、魔物討伐とは異なる緊張感が冒険者集団を支配していた。息の詰まるような沈黙の中、一人の女性冒険者が軍の兵士二名を伴い、敵陣へと接近していく。


 ここまで不満タラタラで付いてきたある冒険者は、先発したその女性と一悶着あったことを思い出していた。


 新米冒険者が大事そうに抱えていた立派な斧槍。実力もないくせに得物だけは一人前なその姿が気に食わず、難癖をつけていたところに、割り込んできたのが彼女だった。


 顔は良かったが、性格は最悪。イキって出てきたかと思えば、高ランク冒険者ルーフェスの陰に隠れてヘラヘラと笑うその顔ときたら、思わず「アバズレ」と口走ってしまったほどだった。


 だが気になったのは、軍の人間とも妙に親しげに話していたこと。顔が広いだけの小娘なのだろうか。そうだ、そうに違いない。実力があるなら、あの時男の陰に隠れるようなみっともない真似はしないはずだ。


 随分と前まで進んでいったようだが、一体何のつもりなのか。ただの馬鹿なのだろうか。


 しばらく何も起きなかった。彼女の姿はもう確認できない。生きているかどうかも分からない。


 そして、事は起こった。


 視界の先に光の線が走った瞬間、砦から轟音と土煙が上がった。


「よし、アリシアが道を開いた!野郎ども、殺せぇ!」


 野蛮な号令に野蛮な掛け声を上げながら、軍の一団が駆け出す。遅れて冒険者集団も前線へと向かうが、彼らが到達するまで轟音は鳴り止まなかった。堅牢な城壁が瓦礫の山となる様を、冒険者は信じられぬ思いで見つめていた。


 さっきの軍人は、あの小娘を「アリシア」と呼んでいた。どんな魔法を使った?


 前線に近づくにつれ、彼女が何をしているのかがはっきり見えてきた。


 そして、それを理解した瞬間、戦場だというのに呆然と立ち尽くしてしまった。


 無理もない。彼女は魔法など使っていなかった。魔法ならまだ納得できた。普通の化け物の範疇だ。


 だが、あれは一体なんだ。ただ、何かを壁に向かって投げつけているだけではないか。


(いや……なんだありゃ)


 彼女が投擲のために腕を振るうたび、空気中に乾いた音が鳴り響き、衝撃波を撒き散らしながら放たれたそれは、視認も反応もできない速度で光の線となって石壁を穿っていた。


 やはり魔法なのだろうか。人間業ではない。ただ一つはっきりしているのは、彼女が手を振るうたびに城壁が破壊されていくという事実だった。


 もしあれがただの投擲なら――冒険者は、アリシアと対峙した日のことを思い出す。自分が誰に何をしたのかを思い返してみて青くなった。


 自分はもしかしたらとんでもない相手に喧嘩を売っていたらしい。


 もしあの力が自分に向けられていたら、今この場に立ってはいなかったかもしれない。そんな想像をして、男は一度ぶるりと身を震わせた。


 人を見かけで判断してはいけない。その人がどんな人間なんて分からないのだから安易に恨みを買うような真似をしてはいけない。


 そして、実は強いのに、その事を鼻にかけず飄々としているなんて少しカッコいいではないか。今度ちゃんと謝ろう。


 そして冒険者は数年前の戦乱のおり、王国内にまことしやかに囁かれた噂を思い出す。王国軍には行ける霊獣が味方している。


 空前の霊獣ブームを引き起こしたそんな噂。当時は鼻で笑ったが確か生ける霊獣と言われたその者の名前は確かーーー




 この日以来、素行の悪かったこの冒険者が少しだけいい子になったのは、また別の話である。




 ーー





 酷い誤解をされてる気がする。なんだかわからんが、そんな気がする。わたしの感は鋭いんだ。間違いない。


 それはそうと、後詰めの部隊が追いつくまでの間、わたしはスターダストストライクを乱発していた。


 弾はあるのだ。使わないと勿体ない。大魔法と思える威力を誇るスターダストストライクだが、驚くほど燃費がいい。


 弾がある限り、何発だって撃てる。やはりわたしはマジカルエリートだ。


 砦の城壁に乗っていた兵士諸君に恨みはないが、星になってもらった。十発撃つ頃には、散発的に飛んできていた矢もほとんど止んだ。まあ、矢はすべて魔法職のお二人に防いでもらっているので、大した脅威ではない。


「アリシア!よくやった!でも、いつまでも物投げて遊んでんな!ついてこい!」


 ゲイルさんがわたしに酷い事を言う。後、投擲ではない。スターダストストライクである。魔法だ。


 「遊んでませんよ!皆さんの流す血を少しでも減らす為のいじらしい献身じゃないですか」


 人を破壊行為で喜ぶ変態みたいに言わないで欲しい。だが、ゲイルさんはそんなわたしの言葉は無視して駆け出していく。


 いや、普通に聞こえてないだけだと思うけど。周りが煩いし。


 わたしは持っていた弾を地面に投げてると。自分のマジックバッグを大事に懐にしまうとはなと。怒号と悲鳴の入り乱れる戦場を斧槍片手に駆けて行くのであった。


 3人衆は連れて行けないよな。激戦になるだろうし。




ーー






 崩れた壁から中へとなだれ込む。奇襲気味に仕掛けたので城壁には人はそれほど居なかった。矢もそんなに飛んで来てないしね。


 だから、向こうの非消耗はそれほどではない。寧ろこれからが本番である。


 そういえば敵の首魁をどの冒険者より速く捕まえるんだっけ?


  兵舎からわらわら出てくる敵は鎧姿だったり寝間着姿だったり様々だ。


 向かって来る者もいれば逃げる者も居る。


 兎に角向かってくる敵は斧槍を薙いで吹き飛ばす。動線が確保する為、わたしは先頭で前方の敵を吹き飛ばす。重量武器って刃が通らない敵にもダメージが入るから本当素敵。


 わたしの後ろをゲイルさん、ガレスさん、ミーシャが駆け抜ける。取り敢えず。処理できるものは処理して残りは冒険者集団に任せよう。

スターダストストライクはただの運動エネルギーの暴力です。魔法ではありません。

ゴリラに結びつける事柄から目をそらす為に認知を歪める彼女の精神性はマジカルです。

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