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20話 わたしの魔法、スターダストストライクである

 古巣の人間との邂逅を経て、盗賊(偽装)の強襲作戦当日の夜、露出の少ない鎧に身を包み、なんかよくわからんが高級な斧槍を装備した完全武装のわたしとブレストプレートの下に鎖帷子を着込んみ、腰のホルスターにジャラジャラと短剣を差したミーシャは他の冒険者とギルドに集まっていた。ガレスさんとゲイルさんもしれっと混ざっている。どうやら冒険者ごっこを継続するらしい。3人衆はわたしの荷物番として連れてきた。


「これから我々は盗賊団の拠点への襲撃を行う」


 ギルドに集められた冒険者達の反応は様々だった。事前に知らされていた冒険者は落ち着いたものであるが知らされていなかったギルドから信用されていない達は分かりやすく動揺していた。割に合わない依頼に不平の声を漏らす者たち。


「これはギルド依頼だ。王国軍と合同で行う。拒否権はない」


 アーノルド支部長が短く告げる。


「クソが!」


 舌打ちしてそんな声を上げる冒険者。あ、あいつルーフェス召喚で撃退したゴロツキ冒険者だ。まぁ気持ちは分かる。だまし討ちでこんな割に合わない依頼させられたら怒るよね。心から同情しよう。


 そこで、冗談じゃない!俺は降りる!にならないのは腐っても冒険者っていうことかな。生き残れるといいね。


 そして当然ルーフェスパーティー略してルーフェスパも参戦していた。コイツラはまあ、特に言うことはない。せいぜい頑張ってくれ。あ、ルーフェスと目が合った。魔法使いの女の子とも目が合った。そんなに睨むな。取らないよ。


 後はマーヤちゃんとその相方のタンザくんも参加したいた。タンザくんも無事に復調したようで何よりである。わたしの視線に気がついたマーヤちゃんが小さく頭を下げてきたので笑顔を返しておいた。


 他にも見知った顔がチラホラと。オーランド支部長は居ない。まぁ、居たら不自然ではあるが……






ーー






 さて、アーノルド支部長のお話を聞き終え。わたしら冒険者部隊(混ざりもの入)は軍との合流地点に行軍中である。口を開くものは居ない。大勢の足音が林の中に響いた。規模は100人ちょっとか。これに王国軍の精鋭が50人か数の上では不利だ。しかも聞くところによると、盗賊(仮)の拠点はなんか盗賊の住処とか可愛いもんじゃない。


 小規模な要塞とか砦とかそう言うレベルだ。組織的な行動が不十分な冒険者集団では正直苦しかろう。


 王国軍だってスーパーヒーローではないのだ50ばかりの小集団で出来る事など限られよう。それが普通の部隊であればの話しだが……

 

 わたしの古巣の部隊が来てるのであればまぁ、何とかなるのか?戦力分析した上で送ってきてるんだろうし多分大丈夫?まぁ、わたしの考える事では無い。


 現場の人間は体を動かせばいいのだ。頭はあの山賊系貴族だろう。なら大丈夫だ。多分。



ーー



 リンデルから一刻程歩いて林を抜けた先に拠点はあった。うわ、思ってたよりしっかりしてる。せいぜい木製の城壁に囲まれた蛮族スタイルの砦かと思ってたけど高さはそれほどではないにしろ城壁はしっかりした石造りのものだ。


 城壁の上には歩哨が立って見張りをしている。

 まだ、砦から結構な距離を取り夜闇に紛れてるので気が付かれてないが軍と合流して接近したら間違いなく発見される。そして矢が飛んでくる。


「アリシア」


 小声で名を呼ばれたので振り向くとガレスさんがいた。モジャモジャのヒゲを撫でつけながらわたしを見つめていた。


「もうすぐ、部隊が合流する。お前は俺達と来い」


「それはいいんですけど、あの砦どうするんです?あんなのすぐには落とせませんよ」


「何いってんだ、ここに人間攻城兵器がいるじゃねえか」


 そう言ってわたしをガン見するガレスさん。


「無理です。岩投げたくらいじゃ壊れませんよあの壁……」


「安心しろ。別働隊にお前の玩具を運ばせているからよ」


 ニヤニヤと笑う髭モジャに苦い顔になる。


「…………ゴリラって言わない?」


「俺は言わない。俺はな」


 わたしは自分の事をゴリラ等とは断じて思っていないが、ゴリラとわたしを紐づけた不届き者がいることは事実である。そしてそのような者を輩出するに至った事柄にも心当たりがあった。


 それがわたしの対攻城戦魔法。スターダストストライクである。命名はわたしである。わたしはマジカルエリートだ。フィジカルエリートのゴリラではない。




ーー





 わたしの予想通り合流した軍隊の大半はわたしの知ってる顔だった。なんだろうこの新鮮味のなさは、そうして合流した軍の兵士がわたしの元に来てマジックバッグを差し出してきた。


「あの、アリシアさんですよね」


 わたしにマジック渡した兵士がそんな事を言ってきた。知らん顔だ。


「そうだけど、あったことあったかしら」


 わたしが抜けた後配属された新人だろうか。


「今年、特殊戦技隊に配属になったオットーです。アリシアさんのお噂はかねがね伺ってもおりました。お会い出来て光栄です」


 誰から何を聞いてその光栄の至ったのかは物凄く気になる。だってわたしは彼のような目をする人がわたしをなんて呼ぶのかを知っていた。合流した知古を睨みつけると目を逸らされた。お前らだよな幼気な若者にあること無い事吹き込んだのは!


「よし玩具は受けとったな。アリシア、やれ」


 当たり前みたいな顔をして言うガレスに言った。


「マジックバッグ欲しい」


「ああ?」


「これ欲しい」


 わたしは手渡されたマジックバッグをかざして言った。


「……やるからとっとと城壁壊せ」


 やったぜ。


 冒険者部隊は私と軍の部隊のやり取りを目を丸くして眺めていた。そりゃ不思議だよね。こんな可愛い女の子が軍の兵士と親しくしてたら。君らは正しい。ぜひそのままでいて欲しい。






ーー






 とは言っても流石に少し遠かった。わたしは敵に発見されずに接近すべく軍隊時代の仲間二人を引き連れ、少人数で闇夜に紛れ砦から100メートル位の距離に近く。


「まさかまた一緒に行動するとは思わなかったよ」


 引き攣れてきた片割れの男性がそんな事を口にした黒いプレートメイルを着込んだ褐色の青年。

 彼に続いて引き連れてきたもう一人、ミーシャと似た格好の女性兵士が口を開く。


「相変わらずみたいで安心したわアリシア。」


「お二人もお元気そうで何よりです。ザイルさん、メイさん。わたしはがスターダストストライクを使っている間障壁展開お願いします」


「スターダストストライクって何?」


 メイさんが聞いてきた。


「わたしの魔法です」


「えっと、これからやろうとしてる事ならーーただの……」


「魔法です」


「……本当、変わって無いわ」


 余計な事を言おうとするメイさんを黙らせる。特殊戦技隊は総合力が高いのはそうなのだがそれでも得意分野はある。ミーシャは回復。メイさんとザイルさんは魔法のエキスパートだ。


 だから黙らせた。誰が何と言おうと魔法なのだ。誰にも文句は言わせない。


 わたしは自分(・・)のマジックバッグを逆さにする。中からゴトゴト音を立てて出てきたのは直径20センチ程度のオルガニウムの塊。ミーシャに聞くまで普通に鉄だと思ってた。重さは鉄の倍位らしい。


 わたしは一つそれを手に取る。魔法を使って全力で身体能力を向上させる。そして、向上した身体能力を利用して魔法の力任せでその金属塊を全力で投擲した。全身の魔法の筋肉をしならせながら振り抜いた腕が風を切る感触とともに鞭のような音を立てる。直後、衝撃と共に射出したマジカルなそれは、瞬く間に赤く燃えながら瞬きの間に城壁に激突した。


 轟音と共に城壁がガラガラと崩れる。理屈は分からない。しかし投擲した金属塊が炎をまとって赤い線を描くその様はまさに流れ星。


 これがわたしの魔法、スターダストストライクである。


 決して筋力ではない。だって燃えてるではないか。ただ投げただけのものは燃えないのだ。きっと魔法なのだ。流れ星のように夜闇を切り裂く鉄塊も魔法の力任せがなせる業なのだ。わたしはゴリラじゃない。マジカルエリートアリシアちゃんだ。


「……あれって、やっぱりただの凄い投擲よね」


「……高速の投擲物に圧縮された空気が発火する程の投擲だね。何度見ても目を疑うよ」


 メイさんとザイルさんが小声で何か言ってるが聞こえない。


 砦からは怒号。そしてわたし達の後方からは鬨を上げながら駆け出す混声部隊。開戦の狼煙は上がった。

彼女はただのフィジカルエリートです。

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