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16話 私には肩がある

 軍に強制加入させられ、公権力の犬と成り果てたアリシアでワン。


 等と触れるもの全てに吠えて噛みつきたい私アリシア以下3名は、夜も更けたころゴブリンホームを目指し黙々と歩き続け、昼間の現場付近まで差し掛かっている。


「もう間もなくゴブリンの巣穴に到着だよ。巣穴って言うかクレイル帝国工作部隊の連絡通路だけどね」


 先導していたオーランド支部長が振り返って言う。左右の腰に差しているのはいつも手入れをしているロングソードではなく。短めのショートソードが二振りだった。


「やっぱクレイル帝国なんですね」


 さっき話を聞いてからそんな気はしていたが


「まぁ、この状況下だからね。ゴブリンも沢山養殖して一斉に放てば混乱するしね。現にリンデルも大変そうだし」


 しかしながら早々に足が付くのだからお粗末なお話である。


「まぁ、このレベルの工作部隊ばかりなら苦労はしないんだけどね。もっと巧妙に潜伏してる部隊もあるだろうから頭が痛いよ」


「でも工作部隊って具体的にどんな事やるんです?」


 ミーシャが言う。


「部隊の性質にもよると思うけど割と何でもやるよ。諜報、反政府勢力への援助。自国のプロパガンダ。誤情報の流布。暗殺、誘拐。脅迫、他にも色々」


 汚れ仕事も多いってことか。オーランド支部長もまぁそうなんだろう。だから目が死んでるのか。


「それで、オーランド支部長。ゴブリンの巣穴はどう攻略するんです?迎撃される可能性は高いと思いますよ」


「ああ、大丈夫、大丈夫。後で紹介するけど僕の部下が事故に見せて砦側の通路の出口を塞ぐからその間に攻略すればいいよ」


 なんかこの人とんでも無い事言った。


「全く、迷宮のお陰で飛び抜けて優秀な工作員はほとんどドナレスク行きじゃ。忌々しい」


 ロペス軍団長が苦々しい顔で吐き捨てた。


「でもドナレスクはここんところ人なんて入って来てないですけど」


 ロペス軍団長の言葉にミーシャが返すとさらに苦々しい顔になる。


「ドナレスクだけではない。付近の街や集落にも情報科の人間が潜伏しておる」


「正直人手全然足りないんだよね。今後はもっと忙しくなるから人手不足が加速するよね」


 ロペス軍団長の言葉にオーランド支部長が続く。軍なんてどこ行っても人手不足だろうに。


「もうすぐ着くよ」


 オーランド支部長の言葉通り程なくして目的地だった。切り立った崖にポッカリと口を開けた洞窟があった。周辺をゴブリンがうろついている。わたしたちはその現場から500メートル程離れた場所で夜闇に紛れている。


「少し遠いけど、取り敢えずここで待機しようか。別働隊と合流したいし」


 周囲に索敵用の魔法を掛けながらオーランド支部長がいう。


「別働隊?」

 

「うん、あっ来た来た」


 オーランド支部長の視線をたどって見ると、確かに数人の人影がこちらに近づいて来る。


「ーーハンスさんとサムソンさんか。後ろにいるのは……3人衆じゃん……」



 ハンスさんとサムソンさんの後を所在なさ気に付いてきている。距離が近くなり。3人衆もわたしたちに気がついた様で無駄にキュルンとした目でこっちを見てきた。

 叫ぶなよ!絶対叫ぶなよ!


「姉御、無事だったんすね」


 3人衆がイマジナリーな尻尾をフリフリわたしの近くにやってくる。


「……あんたら何してんの……」


 とんでも無い事に関わってる自覚はあるのだろうか。


「聞いたと思うけどあんたら今日から軍人。わたしの部下ね」


「「「へい、姉御!」」」


「うん、まずもう少し声を顰める練習をしようか」


「「「ーーへい」」」


「後、こないだやった訓練もう少しやろうか。せめて一月。理想は半年だけど」


「「「ーーえ?」」」


 固まる3人衆は放って彼らを先導してきた2人向き直る。


「ハンスさん、サムソンさん。やられましたよ」


 ハンスさんとサムソンさんに話しかける。


「アリシアの嬢ちゃんとミーシャ嬢ちゃんか。全く結局巻き込んだか。オーランド」


 ハンスさんがオーランド支部長を睨みつけるが柳に風である。


「僕と言うよりも軍団長ねアリシアちゃんとミーシャちゃんにご執心なのは」


 オーランド支部長がさりげなくこの場のと言うか軍の最高責任者に責任をうっちゃると、等のロペス軍団長は短く鼻をならす。


「ふん、軍人として高い適性があるから高い教育を施してやったと言うのに任期満了した途端に2人して軍を辞めおって」


 おい、なんかこっちに矛先が向いたぞ。どうしてくれる。とオーランド支部長を見るとゴブリンの巣穴を見ていた。気付け!気付け!そして私を助けろ。気付かない。

 仕方ない受けて立とうじゃないか。


「今だから言いますけど、元々軍には教育受ける為に入ったんですよわたしとミーシャ」


 わたしの言葉にミーシャが小刻みに頷いてる。


「目を掛けた部下2人に裏切られたワシの気持ちがわかるか?ゆくゆくはワシの後継にとも考えておったのに後ろ足で砂をかけおって」


 頼んでません。いや教育を受けさせてくれたのには素直に感謝しますけど。


「わかるけど自分達の人生の方が大事です」


 とわたし


「軍隊の生活嫌いなんで出世したくありませんね」


 とミーシャ。

 

「ふん、逃さん」


 とロペス軍団長


「ザムザの兄貴このおっさん間違いなくアリシア姉さんの兄貴ですぜ」


「おうよ、俺達も言われたもんな」


「逃さないわよって言われたときゃあ変な汗が出たぜ。ありゃあ堅気には出せない貫禄だったぜ」


 おい、黙れ3人衆わたしの悪口はそこまでだ。


「どうしましょう。アリシア先輩。暫く見ない内に過去の上司がストーカーになってますけど」


「なんで私らに拘るんですかね……」


 火花を散らす私、ミーシャ、ロペス軍団長のやり取りをハンスさんとサムソンさんが呆れながら見ていた。


「アリシアの嬢ちゃんとミーシャ嬢ちゃんも。雲の上のお人によくそんな口叩けるな」


 とハンスさん


「ある意味凄いね」


 サムソンさんも顔を引き攣らしている。


「それよりハンスさんはいつこちらに?」


 わたしの問に簡潔に答えるハンスさん。


「アリシア嬢ちゃんが出てすぐじゃな」


「ハンスさん、もしかしてロイド氏って」


「情報科の諜報員じゃな。嬢ちゃんに持たせた肉に情報が隠してある」


 一般の商会にまで……王国軍えげつない。


「みんな、お喋りに花が咲いてるところ申し訳ないんだけど、合図があったから作成開始だよ」


 オーランド支部長が行った瞬間、振動を伴う地鳴りの後に何かが崩れる音が轟音となって押し寄せる。遠くで上がる大きな土煙は人為的に起こされた地滑りの物だろう。

 それを見て、慌てふためくゴブリンに紛れて洞窟の中からはいずれも武装した人間が飛び出してきた。装備はバラバラだが、鎖帷子やプレートメイルでしっかりと守りを固められていた。どう見ても盗賊とかちゃちな奴らではない。通路の崩落で慌てていたが直ぐに落ち着きを取り戻して組織だった行動を始めた。訓練されている。


「上手くいったみたいだね。これで向こうの出入り口は封鎖された。それじゃあ行こうか。状況開始」


「人間はどうします?」


 ミーシャの短い問いにオーランド支部長が鋭く返した。


「殺せ」


 死んだ魚から人殺しの目になったオーランド支部長が剣を二振り抜剣すると身体強化をしようして鋭く駆け出した。ハンスさんとサムソンさんもそれに続いた。音を置き去りにする様なる加速に自力の高さが垣間見える。


「あんたらは取り敢えず。自分の身を守る事に注力しなさい。せいぜい死なない様に気を付けて」


 3人衆に言い残して、わたしも抜剣して駆け出した。後ろからミーシャとロペス軍団長も付いてきている。この軍団長一番化け物なくせしてなんで一番後ろなんだろう。


 この爺さん一人突っ込ませればいいではないか。まぁ腐っても総司令なので死なれても困るのだが。


「やはりなまっとるな、アリシア、ミーシャ」


 厳しい顔を顰めながらわたしとミーシャにお小言を言うロペス軍団長。

 この爺口より手を動かして欲しい。

 少し遅れて現場に着くと、既に戦闘が始まっていた。


 オーランド支部長は人間とは思えない速さでゴブリン、兵士問わず斬り伏せている。フルプレートの兵士を斬り伏せるって頭おかしい。と思ったら器用に鎧の隙間を狙っていた。……超スピードで、いずれにせよ頭おかしい。


 ハンスさんも両手に持った斧で敵を無力化してる。ハンスさんはまだ防具をつけた兵士には少し手こずっていて人間味を感じる。


 サムソンさんはウォーハンマーで手当たり次第にぶん殴っている。鎧を着込んだ相手にはハンマーの尖った方を打ち付けて貫通させてる。わたしに近い戦い方だった。


 さて、いつまでも見てるわけにもいかないので、わたしも戦闘に参加する。


 身体強化を一段強めると前進の筋肉が隆起するのを感じる。そのまま強く地面を蹴ると景色がブレる。久々に強めの強化で動いたが反応が遅れる。いかん、本当になまってる。


 さてどうしょうか。等と言っている場合ではない。その場で慣れる。それしかない。わたしの急な接近に仰け反るホブの顎に力任せに拳打を入れる。装着していた小手を伝って骨の砕ける感触が伝わってくる。


 その勢いで巣穴から出てきたばかりの武装兵士との距離を詰める。相手もこちらに気づいて応戦の構えを見せる。わたし走りながら、土魔法で岩の球体を作り出して助走の勢いを乗せたそれを力の限りに投擲した。投石機?わたしには肩がある。


 攻城戦にも使われる岩だ。そんな岩のストレートは兵士の防御を容易く弾いて岩ごと後方に吹き飛んで行った。


 ミーシャは大丈夫かと様子をみてみれば、相手の攻撃をヒラリヒラリと蝶の様に交わしながら両手に構えたダガーナイフを的確に鎧の隙間や急所に突きたてていた。


 流石、笑顔で他人を殴れる女。いや今の状況とは全く関係ない。ただ事実を確認しただけである。



 ロペス軍団長はさぼってないかと様子を伺うと見事に目が合った。

 素手で敵兵の頭をムンズとつかんで兜ごとリンゴみたいに握りつぶしていた。グロい。


「アリシア! やはりなまったな! ワシは暫くここにおる! その間に鍛えなおしてくれる!」


 巫山戯るなクソ爺。その化け物じみた力でしごかれたお陰で、わたしは戦場より訓練で死にかけた回数のが多いんだよ!


「ロペス軍団長ともあろう御方がこんな土田舎に長くいるものじゃありませんよ。王都の業務が溜まってもいけないので早々にお帰りになった方が宜しくのでは?」

 そう言って、目の前のハイゴブリンに渾身の踵落としを入れる。

「てか帰れ!」

あ、目ん玉飛び出した。


 流石に戦力方ではないか?そう思い始めた時には、巣穴の前はすっかり静かになっていた。

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