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14話 僕はこれでも平和主義者なんだ。

 こちら冒険者ギルドリンデル支部支部長室。現在痛々しい程の静寂に包まれております。


 ミーシャは情報の処理を放棄したかのように無表情になっている。アーノルド支部長は顎に手を当てて何が考えこむような仕草のまま下を向いて固まっている。


「じゃあそういう事だから宜しく」


「「「ちょっと待って下さい!(待ちたまえよ!)」」」


 その場の空気にいたたまれなくり強引に話を切り上げる程オーランド支部長が殊勝な性格をしていない事は3年間の付き合いでなんとなく分かっている。


 強引に話を進める為の法便である。方便ではあるが引き留めなければ普通にそのまま出て行く人でもある。


「なんだい?」


 ぬらーっとした動き出てこちらを振り返るオーランド支部長。


「何とかするってどうするんですか!?」


「うーん、話してもいいんだけどさ」


 その瞬間、オーランド支部長の目つきが変わった。いつもの死んだ魚のような目よもっと淀んだドス黒く空虚な目。それを観た瞬間。ゾッと背筋が凍り付く。


「僕の話を聞いたら完全に引き返せなくなるよ」


 虚空のような瞳がこちらを見る。


「何を言っているんですか?」


 何とかそれだけ何とか絞り出す。わたしは今恐怖を感じている。


「なーんてね、ちょっと脅かし過ぎちゃったかな」


 そんなわたしの内面を見透かすようにいつもの目つきに戻ったオーランド所長。


「まぁ、思う所はあると思うけどさ。今回は僕に任せてよ悪い事にはしないからさ。その事はアーノルド支部長もよく分かってますよね」


「……ああ、確かに君はやると言ったらやる。過去にも何度かそんな事があったな」


「全部どうにかなってるでしょ?」


「ああ」


 顔を顰めたアーノルド支部長がオーランド支部長の言葉に頷く。


「じゃあ、そう言う事で」


 そうして、オーランド支部長は今度こそ室内から出て言ったコツコツという足音が次第に遠ざかり、やがて聞こえなくなる。


「ミーシャ後を付けるわよ」


 今までギルドの盲腸だと思っていたオーランド支部長の一瞬の豹変、あの感じ、あの目、間違いなく彼は暗部の人間である。


「ええ、絶対ヤブベヒですって。まぁ、わたしらの上司がどんな人間なのか知るチャンスと考えることにしますか」


 どうやら彼女も気になるらしく存外素直にど同行してくれそうだ。


「ザムザ達は先に宿に帰ってて」


「姉御俺たちも一緒に……」


「あんた尾行なんて出来ないでしょ。邪魔だから帰ってて」


「へ、ヘイ……」


 ザムザは可哀想に思うが今回はあまり余裕がない気がする。


 そんな訳でわたしは突然雰囲気の変わったオーランド支部長の後を付ける。突然の事態だったので鎧等は外す暇が無かった。仕方なくギルドの販売所で適当な外套を買って羽織った。町中で邪魔な大型武器はザムザ達に持ち帰らせ今は腰の曲剣のみである。


 ミーシャも似たような風貌で共にオーランド支部長を付けていた。日の落ちかけた街中をユラリユラリと左右に振れながら歩くオーランド支部長。


 それまではある程度の人通りがある通りを歩いていたオーランド支部長が街の裏路地へ続く角を曲がって行った。リンデルの街でも貧しい者が住まう地区だ。街の中では治安は断トツで悪く普通の人はまず近寄らない。


 据えた臭いが鼻をつく中黙々と歩き続け、あるあばら家に入って行った。暫く待ったが出てこない。ミーシャと共にあばら家の近くまで行って耳を澄ませる。


「アリシアちゃん、ミーシャちゃん。さっきぶり」


「「……っっ!?」」


 突然後ろから掛けられた声に跳ねるように振り返る。


「オーランド支部長」


 そこに立っていたのは、たった今あばら家に入って行ったオーランド支部長だった。


「まぁ、ついて来るように誘導したのは僕なんだけど、ついて来ちゃったかぁ」


 死んだ魚の目で頭をバリバリと描きながらため息を吐くオーランド支部長。


「まぁ、ここまで来たら仕方ないよね。色々と知りたい事があるのもわかるし、ついておいで」


 そう言ってあばら家の扉を開けて入るオーランド支部長に素直について行って良いものか、ミーシャと顔を見合わせるも。そんな考えすら読まれてるかのようにオーランド支部長が言った。


「僕は君達にさっき忠告したよ。知ったら引き返せないって。君達はもう引き返せないところまで知ってしまった。逃げようとしたら捕縛する。だから大人しくついて来てよ。僕はこれでも平和主義者なんだ」


 まるで、私達が逃げても即座に追いついて無力化出来るかの物言いだった。オーランド支部長の力は未知数だ。どうする。


 ……よし決めた。


「ミーシャ!逃げて」


 そう言ってオーランド支部長から距離を取ろうとした瞬間だった。


 顎先を何かが掠めたと思ったら突然景色が横を向き、次第に世界がグニャグニャに歪んみ、そのまま私の意識は深い闇の底へと落ちて行った。

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