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13話 まぁ、何とかするよ

 1週間の訓練を終えた今日三人衆を引き連れてミーシャ共々、冒険者ギルドへと足を運んだ。先日の事もあったので本日はフル装備である。新調した鎧はフルプレート程ガチガチではないが露出部位は少なく、駆動域の制限も少なく動き安い。頂き物の曲剣も帯剣しミドルレンジへの備えも万全である。Fランク依頼を受けるには過剰とも言えるその装備を引っさげサリナさんの鎮座するカウンターへと向かって行く。

 

「あらアリシアちゃん、ミーシャちゃん。今日は依頼?」


「ええ、新人の基礎訓練の経過確認ですね」


「へぇ、ん?なんか3人雰囲気変わってない」


 若干引きながら三人衆を見やるサリナさんだが無理もない。


「ふしゅるるる」


「グルルル」


「ガウウウウ」


 いい仕上がり方である。これには訓練を手伝ったミーシャもニッコリだ。


「訓練が終わったばかりで少しハイになってるだけですよ。直ぐに元に戻ります。多分」


「いったい何したのよ……」


「それよりまだゴブリンの間引きってやってる?」


「ええ、相変わらず大量発生中よ。今、Cランクの冒険者が発生原因の調査をしてるけど」


「そう、良かったわね」


 そう言って野獣のような眼光の三人衆を見やる。。


「ゴブリン、皆殺し」


「殺す、殺す、殺す」


「抉る、捩じ切る、引き千切る」


 よし、三人衆も気合バッチリである。


「ちょっと、ミーシャちゃん。何があったの?」


「1週間ほとんど不眠不休で戦闘訓練してただけですよ」


「死んじゃうわよ」


「ちゃんと壊れないように管理してあげましたよ。お陰であたしもちょっと眠いですう」


 そう言ってあくびをするミーシャにドン引きのサリナさん。


「人間性が壊れてない?」


「うまいこと言いますねサリナさん。でも大丈夫、一時的に錯乱……ハイになってるだけなんでそのうち元に戻りますよ」


「大丈夫なのかな?」


 というわけでドン引きのサリナさんと別れ、私たち5人はゴブリンを求めて歩き出した。一応ギルドにて最近ゴブリンとの遭遇報告が多い所は聞いてある。


 薬草群生地帯に向かう経路の林なんかはこの1週間でかなり報告が上がっているので再度そのあたりに向かう事にした。


「先輩、ずっと思ってたんですけど、身につけてる武具が新調されてるけどどうしたんですか?」


「ギルドから貰った支度金で買った」


「ええ、私も貰ったけど金貨20枚ですよ。そんないい装備買えませんよ」


「なんか色々オマケしてくれた」


「ウッソ、なんで?その斧槍とかいくらだったんですか?」


「金貨2枚、鉄製の長柄武器としては相場でしょ」


「……それ、鉄じゃないです。穂はオリハルコン。柄は、ミスリルです。全然相場じゃないです。これ売れば王都に家が立ちます」


「え゙!?」


「王都に家が立ちます」


 そんな訳無かろう。だって元値は金貨4枚だ。


「だって店主だって不良在庫が処分出来て良かったとか言ってたし」


「店主さんがどんなつもりで言ったのかは知りませんけど、それはとてつもなく貴重な金属がふんだんに使われた武器です。てか先輩なんで分からないんですか?」


「いや、だってわたしが、昔貸与されてた武器と近い感じだし」


「あれはオルガニウムっていう希少鉱石で作られてます。高級武具です……。鉄じゃないです」


「嘘……」


 普通に鉄だと思ってた。確かに多少雑に扱っても壊れなかったし、力任せに使っても刃毀れとか無かったけど、だってなんか当時の上司から超軽い感じて渡されたのだ。そんな高級武具なんて思わない。


「そもそも、鉄製武具と重さ全然違うじゃないですか!」


「確かに言われてみれば程よく重くて使いやすかも」


「……まぁ、アリシア先輩みたいな怪力娘そうそう居ませんしね。扱える人間を選びまくるってのは一種の欠陥武具ですよね」


「わたし普通ですけど!?」


「はいはい普通普通。因みにあたしはそんな重量武器身体強化しても振れませんけどね。無理に振ったら腰イワシます」


 なんだと?


「あ、あー……実は私もちょっと重いと思ってたの。変な見栄で程よく重いとか言ってたけど実は凄く無理して振ってたり、これは今日にでも店主に普通の武器と取り替えてもらわないと」


「因みに、先輩が昔使ってたオルガニウム製の武具ですけど、今使ってるのより圧倒的に重いですよ。軍を退役して数年間の怠惰な日々は先輩を人間の範疇まであと一息の所まで持って来たんですね。おめでとうございます」


 この後輩、軍隊時代はわたしをなんだと思ってたんだよ。いや、しかし軍隊時代のわたしのあだ名は……。


「ねえ、ミーシャ、恒久的に筋力落とす魔法とかない?」


「あっても教えませんよ。軍にはアリシア先輩のシンパも多かったんです。生ける幻獣生ける幻獣(ゴリシア)様を弱体化させて恨み買いたくありません」


 ミーシャちゃん今日辛辣じゃない?あれか?わたしが鉄と希少金属の違いも分からないから怒ってるのか?武具マニアの逆鱗に触れちゃった? 


「姉御、筋肉、最高」


「アリシアの姉御、力、凄い」


「アリシア姉さん、カチカチ、ガチガチ」


 おいお前等、実はもう元に戻ってるだろ。














 さて、わたしが買った斧槍が結構な高級品であった事は置いとくとして、林に入った時、見たのは転々と転がるゴブリンの死体だった。


 どうやら既に誰かがこのあたりに来ているらしいが死体をこのままにしておいてもあれなので、ミーシャと手分けして魔法で処理しようとしたが気になる事があった。


「アリシア先輩」


 ミーシャが真剣な声でわたしを呼ぶ。


「ゴブリンの耳、全部残っています」


 そう、ゴブリンの討伐証明部位である耳が綺麗に残っている。お金に余裕のある冒険者が面倒臭がり敢えて放置した可能性もあるが、そうでないとすれば討伐部位等奪ってる場合ではない状況に追い込まれてる可能性がある。


「ミーシャ、探知魔法で人の気配を探って」


「もうやってます。2時の方向、反応3。魔物もいます。距離はおよそ500」


「先に行く」


 そう言い残し、身体強化を使用し、ミーシャの探知した方向に駆け出す。


 程なくして、倒れ伏す男性とその2人の前に立ち塞がり杖を構える少女、そしてそんな少女に襲いかかろうとするかなり大柄な魔物の姿。


「ハイゴブリン!」


 ホブより上のゴブリンである。魔物ランクはC。と言っても基本的に群れで行動するゴブリン。ホブ等とつるんで出てくると脅威度異常に厄介だ。


 とにかく時間がない。持っていた斧槍を振りかぶって投擲する。手から離れた斧槍は一直線にハイゴブリンの元に飛んでいき、命中、ハイゴブリンは斧槍共々後方に吹き飛んで気に激突し血飛沫を上げた。あれは致命傷である。


 そのまま3人の元に駆け寄り状況を確認する。

 近くまで来ると、やはりとホブやゴブリンとつるんでいた。いきなり自分達より格上の個体が殺された事で動揺しているが、逃げてくれるかは運次第である。


 チラリと倒れる男性を確認する。重傷だった。鎧がひしゃげて穴が空いている。腹部からは夥しい出血。意識はない。


「早く処置してあげなさい。魔物はわたしがどうにかするから」


「え?処置?え?なに……」


 内心で駄目だ完全にパニクってる。ミーシャはまだか!?


 「取り敢えず鎧を脱がせる。今、わたしの、仲間が来るから」


 そう言って。魔物の処理に向かう。

 敵は残り6体。ノーマル2体ホブ4体。斧槍は投擲してしまったのでサブウェポンを抜き放ち6体を順番に撫で斬りにした。


 ゴブリンを処理するとすぐに3人に駆け寄る。少女は何とか鎧を外そうとしてるが手こずっている。


「変わって」


 泣きながら鎧を外そうとしてる少女を押しのけると剣で鎧の留め具を切断した。


 ひしゃげた鎧を外して男性を横たえた。


 道具入れからポーションを取り出し口に含むと意識のない男性に口移で流し込む。安いポーションだが気休め程度にはなるだろう。


 そして、ようやくミーシャと三人衆が到着。


「ミーシャ!」


 わたしが強い口調で呼ぶと事態を理解したミーシャが身体強化を使用して駆け寄って来た。


「先輩、変わります!」


「宜しく」


 そう言ってあとの事はミーシャに任せる。

 そういえば、時間がなく結構思い切り斧槍を投げたが壊れて無いだろうか。


 王都に家が立つと言われた武器を破壊してないかビビリながらハイゴブリンの亡骸に近付くと、そこには傷一つない斧槍が落ちていた。

 

 ホッと胸を撫で下ろし。ミーシャの元に向かう。三人衆も追いついて来たようで、衝撃的な光景に目を白黒させていた。どうやらショックで元通りになったらしい。


「ミーシャ容体はどう?」


「取り敢えず傷は塞いで出血は止めました。ただそれまでの出血が多いので早くちゃんとした治療院で診てもらわないと」


「そう、あなた歩ける?」


 事態がどんどん進んで置いてきぼりになっている少女に声をかける。


「は、はい、あの、有り難うございます」


「どういたしまして、運ぶの手伝うわ」


「有り難うございます」


「あんたら、悪いわね今日の依頼はキャンセルよ。リンデルに戻りましょう」


 ザムザ達に男性冒険者を運ばせ。わたしとミーシャで出てくるゴブリンを処理した。普通のゴブリンに混じり、ホブやハイゴブリンもそれなりに出て来たが2人で早く処理してリンデルに戻る。街の診療所に男性冒険者を運び込み男性は何とか一名は取り留めた。今はまだ意識を失っているが、時期に目を覚ますとのこと。それで一息入れてると少女がわたしは達に向かって頭を下げる。


「あの、本当に有り難うございます、えっと」


「そう言えばお互い名前も知らなかったわね。わたしはアリシア。冒険者ギルドドナレスク支部の事務員よ」


「ミーシャです。私もドナレスク支部で事務員してます。よかったら今度遊びにおいで、何もないけど」


「俺あザムザ。冒険者見習いだ」


「ハイジって読んでくれ」


「レントでさあ」


「あたしはマーヤです。彼がタンザです。リンデルで冒険者やってます」


 今さらだがお互いに自己紹介を済ませる。そして、マーヤにギルドに報告に行くから事の詳細を教えて欲しいと言ったのだが……


「あたしも行きます」


 との申し出があったので来てもらう事にした。別に断る理由があるわけでもない。








 という事でギルドへ来た。随分と大所帯となってしまったが不可抗力である。


「サリナさん報告が有ります」


 マーヤちゃんがそう切り出し。経緯を話し始める。


 どうやらサリナさんが言っていたゴブリンの大量発生の調査を行っていた冒険者がマーヤちゃんとタンザのパーティーだったようだ。


 彼女の話によるとあの林中でゴブリンの巣穴を発見したらしい。2人で巣穴を監視していた感じ、かなりの数のゴブリンが住み着いているとの事だった。しかし、報告はそれで終わらなかった。何とその巣穴に人間が入り、そうして暫くすると今度は別の人間がゴブリンの巣穴から出て行ったらしい。


 そんな事が何回かあり、終いには巣穴に出入りする人間とゴブリンが普通にすれ違ったりしてたらしい。


 とにかくこのことをギルドに報告しようと思ってリンデルに戻る途中、巣に帰ると思われるゴブリンの一団と遭遇。数が違い過ぎたので分が悪いと思って、ゴブリンを倒しながら逃げ回って何とか数を減らしていたがもう少しで切り抜けられると思ったところでハイゴブリン達にも遭遇したとの事。


 ゴブリンとは言え、長時間駆け回り、休む事なく連戦してたて消耗してた事もあり、マーヤちゃん達も不覚をとった。タンザがハイゴブリンの一撃をもろに受け、倒れてからもマーヤちゃん1人、暫く耐えていたがジリ貧で時間の問題だったところにわたし達が駆けつけ。今に至ると。


「話は分かりました。2度手間で申し訳ないのですが、支部長にも報告お願いします、こちらへ」


 サリナさんに案内され、アーノルド支部長のいる部屋に案内された。


 サリナさんが手短に用件を伝えて入室、アーノルド支部長と何故か一緒にいたオーランド支部長へマーヤさんから再び同じ説明がなされる。


「まずは、マーヤ君大変な任務を完遂してくれて有り難う。アリシア君とミーシャ君もマーヤ君とタンザ君を救ってくれて感謝するよ。しかし、ゴブリンの巣穴に人がねえ。アリシア君どう思う?」


「誰かがゴブリンを故意に増やしてますね」


 まぁ、十中八九例の盗賊絡みであろう。


「全く迷惑な話だよね」


 わたしの言葉を聞いたオーランド支部長が言う。迷惑とかそういう次元じゃなかろう。


「成る程、とっととそちらは潰してしまおう。サリナ君、今すぐルーフェス君が戻って来たら、わたしの元にくるように伝えるようギルド職員に伝えてくれたまえ。君はもう通常業務に戻ってくれていい」


「分かりました。それでは失礼致します」


 サリナさんは一礼して退出して行った。


「そしてマーヤ君。タンザ君が負傷している時にこんな事を頼むのは心苦しいのだが、近いうち今話して貰った巣穴の掃討を行いたい明日、アリシア君に巣穴の詳しい場所を現地で教えて置いてくれたまえ」


あ、これは私巻き込まれるの確定ですか。


「あの、あたしも参加しちゃダメでしょうか?」


 アーノルド支部長の事後承諾案件にマーヤちゃんが食い下がる。アーノルド支部長の口調だとマーヤちゃんは参加させない感じだったし多分そのつもりだったと思う。


「そうしてくれると有り難いけど、大丈夫なのかね?」


「大丈夫です。魔法はそれなりに得意なので後衛として参加したいです」


 決意に満ちた表情で頷くマーヤちゃんを見てアーノルド支部長も一度小さく頷いた。


「うむ、正直戦力は少しでも欲しいと思っていたところだ。宜しく頼む。そして今回マーヤ君とタンザ君が持ち帰った情報は本当に価値あるものだ。ギルドから元の報酬に加えて別途奨励金を用意しよう。明日、また私の元へ来てくれたまえ。詳しい事を伝えよう。奨励金も手配しておく。それでは、何もなければマーヤ君も退出してくれたまえ」


 アーノルド支部長が言うとマーヤちゃんも一礼して退出していった。


「さて、アリシア君、ミーシャ君……とそちらの3人はパーティーメンバーかね?」


「まぁ、そんなとこです。新人ですけど」


「そうか、なら聞かれても問題無いだろう」


 一度言葉を区切ってアーノルド支部長は話を続ける。


「アリシア君、今回のゴブリンの件私は例の件と繋がっていると思う。事情を知ってる君等にもゴブリンの巣穴を壊滅させる作戦に強力して欲しい。ルーフェス君のパーティーを軸にゴブリンの討伐隊を組むつもりだ」


 まぁ、4日後に迫った戦にダイレクトに影響しそうなので巣穴潰しへの協力は吝かでないのだが……。


「多分、奴らのアジトと繋がってますよね」


「私もその可能性は考えている」


「対人戦が発生する可能性は高いです。最悪、武装勢力と全面抗争になる危険性も有りますよ」


「しかし、今潰さないと4日後の作戦に影響が出る」


「それ、僕に任せて貰って良いかな。まぁ、何とかするよ」


 わたしとアーノルド支部長が話していると突然オーランド支部長が割って入る。今なんて言ったこの人。

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