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12話 何度か本気でやろうと思った

 ゴブリン33体の討伐を完了したわたし達はその討伐報酬をを頂いた。厳密にはゴブリン32体とホブゴブリン1体なので銀貨4枚と銅貨4枚だった。因みにホブは銀貨1枚だ。まぁ、相場だろう。


 そして一夜明けきらぬ本日未明。まだ太陽の昇らぬ宿屋の前にフル装備の三人衆と動き安い服装をしたわたしが立っていた。


「さて、おはよう諸君」


「姉御なんすか。その口調」


 眠そうにあくびをしながらそんな事を言うザムザを黙殺する。因みにわたしの口調に理由など無い。


「それであんたら昨日戦い方を教えるって言ったわけだけど、それ以前にあんたらに決定的に足りてないものがあるの。ズバリ体力よ」


「体力ですかい?」


 頬をボリボリ掻きながらいうのはハイジ。


「まぁ、アリシア姉さんに比べりゃあっしらの体力なんて咬みたいなもんですけど……」


 とレント。


「わたしと比べてって言うか普通に足りてないわよ。わたしが特別みたいに言わないでちょうだい」


 わたしは普通だ。断じてゴリラじゃない。


「それで、こんな早い時間帯にあんたらに起きて貰った理由なんだけどね。取り敢えず走りなさい」


「へ?走るだけでいいんですか?」


 拍子抜けと言った具合で言う3人。わたしは鷹揚に頷く。


「そう。走れば良いの。わたしが良いと言うまで。これを抱えてね」


 そう言ってわたしは土魔法で岩の塊を生成する。両手で持てる位の大きさの岩にわたしが込められるギリギリの魔力を圧縮して込めた特別性である。綺麗な球体をしたそれは。わたしが手を翳した空間に出現して地面に落ちた。


 すると石造りの地面に半分程めり込む岩の球体が一つ完成した。……後で直さないと。決して大きくない岩の球体がめり込む光景を目の当たりにして面白い顔になっていた三人衆に1つづつ持たせる。


「アリシア姉さん。これ、こないだ持った魔物素材より重てえんですが」


「それじゃあ城壁伝いにエンドレスランニング。行きましょうか」


 レントがなんか言ってるが無視。


 三人衆に持たせた岩は特別なものではない。一言で言ってしまえば投石器の弾である。特殊な魔道具でこれを発射して城壁や攻城兵器等の破壊に用いるのが投石器である。もちろん人に向けても撃つぞ。


 魔法で飛ばせばいいやん。と思うかもしれないが、重い質量の岩を飛ばすのは並の術者じゃ難しい。


 中にはそれを一人で可能にする化け物もいるにはいるがそんな例外に頼るよりはなるべく多くの人が使えるようにしたほうがいいだろうと思うのは至極当然なことである。


 そんな蘊蓄を垂れ流してる間に3人衆は重い重い足取りで岩の塊を抱っこしながら走り出した。頑張れー。投石器に石を込める人たちは戦の度にそれを数百個運搬するんだぞ。


 もちろん、身体強化という裏技を使ってではあるが。そんなのは使わせない。まずは魔法なしで軽く持てるぐらいまで鍛えよう。


 わたしが三人衆に魔法を教えるのを躊躇う理由の一つとして魔法を覚えるだけで身体能力が上がるのだ。それは身体強化に満たない身体活性ですらそれなりに身体能力が向上する。身体活性とは魔法でも技でもなく。魔力操作を覚えて身体能力が上がった状態だ。教えるとか教えないの問題ではなく。勝手についてくる。


 身体強化を覚えた日にはその辺の木っ端冒険者ですら通常のわたしなど比じゃない位に身体能力が跳ね上がる。


 便利に思えるが、いや、間違いなく便利なのだが、使えてしまうと常時それに頼るのが人間である。なのである程度体が出来上がるまでは魔法を教えるのは控えようかなと。


 別に虐めてる訳でも何でもなく身体強化も活性も素の身体能力が重要なのだ。もし身体能力が数値化出来たとして身体活性はその数値にの1.5倍。身体強化になると最低でも3倍である。


 素の身体能力が高い程恩恵が大きいので体は鍛えておいて損はない。


 等と取り止めの無いことを考えながら3人衆を半刻程走らせて空も白み始めた頃、宿屋の前でぐったり倒れる三人衆が居た。


「休んじゃ駄目よ」


 泣きそうな三人衆を引きずり立たせて素振りを半刻程行ったうと早朝の部終了である。


 宿屋のしたのスペースで朝食を頂くと未だにフラフラしている三人衆を引き連れギルドへ向かう。依頼を受ける為ではない。ミーシャと合流出来るかもと言う期待を寄せてだ。そろそろ来てる頃だと思うのだが……


「あ、居た。ミーシャ!あれオーランド支部長?」


 イートスペースで風船のように頬を膨らませたミーシャがエールを勢いよく煽るその後ろでオーランド支部長が頭を掻きながらミーシャにボソボソ何かを言っていた。ミーシャの座る机には空になったカップが3つ程あった。


 ミーシャが来たのはいい。呼ばれたんだから。しかしオーランド支部長は一体どうした。というより彼まで来てしまったらドナレスクのギルドには誰が詰めて居る。


 状況が飲み込めぬまま、ミーシャとオーランド支部長の元まで歩み寄る。


「オーランド支部長?」


 わたしが疑問を口にするととオーランド支部長の濁った眼がこちらをを見た。


「ああ、アリシアちゃん。ちょっとミーシャちゃん止めてくんない。なんかギルドに来るなりやけ酒始めちゃって」


 ミーシャを眺めながら辟易した様子で言うオーランド支部長。


「それより支部長何でここに?ギルドは?」


「僕も急な仕事でこっちに来る事になってね。ギルドはしょうがないから閉めて来たよ」


「来るとこまで来ましたねうちのギルド」


 従業員不在につき臨時閉店するギルドって世界広しと言えどドナレスク支部位しか無いんじゃないだろうか。


「ああ、安心してよ。お得意様には事情を説明して納得して貰ったから」


 そうかぁ、納得しちゃったかぁ。うちのギルドもしかしてドナレスクの盲腸とか言われて無いだろうな。


「ミーシャは……荒れてるなぁ」


「どうにかならない?」


「ミーシャ。久しぶりって程でもないわね」


 ミーシャに話しかける。とむっすーといった表情をこちらに向けてくる。


「アリシア先輩。受付って何でしょうか」


「わたしも最近よく考える」


「哲学だねぇ」


 黙ってて下さいオーランド支部長。


「ところで君の後ろで幽鬼みたいになってる三人組はアリシアちゃんの知り合い?」


 ああ、忘れてた。


「朗報ですよ2人とも。この3人がドナレスクで新規活動予定の新人冒険者達です」


「ザムザです……」


「ハイジです……」


「レントです……」


 白目をむきながらもしっかり自己紹介をこなす三人衆だがすまん怖い。自己紹介というか事故紹介である。


「ねぇ、アリシアちゃん。この人達アンデッドかなんかじゃないよね」


「アリシア先輩、何処で拾ったんですか?その人達」


「拾ったのは街道ですね」


「本当に拾ったんですね」


 わたしは2人に掻い摘んで3人衆を拾ってからここに至るまでの経緯を話した。もちろん盗賊関連の事は話して居ない。


「なんて言うか滅茶苦茶やるね。君」


 説明を聞き終わって開口一番オーランド支部長が言う。


「要するに、追い剥ぎをひっ捕まえて餌をあげる代わりに冒険者をやらせるって事ですね。いやー御三方手を出す人間違えちゃいましたね。ご愁傷様です」


 グビグビとエールを流し込みながら言うミーシャ。ちょっと色々と語弊が、ないな。


「でもアリシアちゃん。新人育成に冒険者ギルドのお金を使うのはちょっと無理だよ。前列もないし」


「じゃあ、わたしたちが前列になりましょう。職にあぶれた人間に当面の生活費を貸し出す代わりに冒険者として働いて頂き少しづつ返済してもらう。直ぐに死なれると困るので一人立ちまでのサポートと育成も並行して行う。名付けて冒険者育成プログラムです」


「貧困ビジネスじゃんそれ」


 人聞きの悪い事を言わないで頂きたい。


「じゃあ、ドナレスクに冒険者が居着いてくれるんですか?どうやって?いつ?代案プリーズ!」


「怒らないでよ。まぁ、アリシアちゃんの言う事も分かるんだけどさぁ。うーん。まぁ、分かったよ。取り敢えず本部に企画書出してみるから」


「本当?やったー!早急に、早急にお願いしましす!」


「まだ、こういう事をやろうと思ってます。ギルドとして実施して宜しくですかの段階だからね。あまり期待しないでよ。後、僕も忙しいからこっちの仕事が片付いてからね」


「くっ!仕方ありませんね。」


「はいはい、じゃあそういう事で僕はもう行くよ。2人とも羽目は外し過ぎないようにね」


 だから遊びに来てる訳ではないのだが。


「へぇ、それで先輩が今この方たちを養ってる訳ですか」


 そう言って三人衆をシゲシゲ眺めるミーシャと見られてモジモジする三人衆。まぁ、ミーシャは顔は可愛いからな。モジモジするのも仕方なかろう。というか。三人衆にそういう感情があったので安心した。ちょっと最近そっちの趣味の人かと思い始めていた。


「それでミーシャ。あんたにも手伝ってもらいたいのよ。コイツらのトレーニングを」


「え?私ですか?まぁ、当分は暇なんでいいですけど、何を手伝ううんです?」


「取り敢えずこいつら体力使い果たしてるから回復魔法掛けて。あんた得意でしょ」


「え?先輩もしかして懲罰式でやるんですか?死にますよ。やだ楽しそう」


 精鋭揃いで知られるシルドラント軍ではあるがその中でも一際精強な者達が入隊を許される特殊戦技隊と呼ばれる部隊があった。魔法と戦闘技能双方に高い適性を示した最精鋭部隊である。一つ問題があるとすれば軍内部でも上積みの筈の選抜訓練対象者が精神に異常をきたすレベルの訓練を半年間施される事である。厳しい訓練を乗り越え特殊戦技隊に配属となった者の多くはこう言う。訓練中は何度か本気でやろうと思った。何をやろうと思ったのかを明確に口にする隊員はいなかった。余りにも常軌を逸した内容の訓練であった為、重大な規律違反を犯した者への懲罰訓練として一部取り上げられた程のそれはいつしか懲罰式訓練と呼ばれるようになっていた。











 ということで、何故かノリノリのミーシャを連れ、訓練の続きを行う事になる。とは言ってもやることは変わらない。体を極限まで追い込みぶっ倒れルまで続ける。違うのは回復に関してはエキスパートであるミーシャがいる事である。

 ぶっ倒れたらミーシャが回復を行い。体力を全開にする。その期間は食事の量も増やす。一日中動くのだ。普通の食事量では足りない。

 だから一回の食事量と一日の食事回数を増やす。これまたミーシャの回復魔法が活躍する。というより回復の応用ではあるが、解毒魔法などの一種に内臓の働きを活性化させて毒の排出を早める魔法があるのだが、この魔法を使い無理やり消化器、循環器の働きを上げて死ぬほど食わせる。


 これを繰り返すのだ。訓練、回復、食事と言った具合に。睡眠時間を削ってまで。


 始めこそ疲れの残らない訓練に喜ぶザムザ達だったが、一日中繰り返される過酷な訓練と回復の無限ループに次第に様子がおかしくなって行く。3日も経てば口数が減り4日経てば何もない空間へとブツブツ囁きだし。5日目にはわたしと行ったスパーリング中に三人衆は本気の殺意を向けてきた。実に順調だ。


 そして、1週間が過ぎ訓練が終わった時、三人衆は屈強な姿になっていた。繰り返される破壊と超回復を無理やり行い作り上げられた筋肉はとても1週間で作り上げたものだとは思えない。


 少し、人間の言葉を忘れているようだがなに、ぐっすり眠れば元に戻る。わたしもそうだった。ただ、一つ甘かったのが街中でそんな常軌を逸した事ができるはずなく。結局訓練の為に街から出る羽目になった事だろう。まぁ街に程近い場所での訓練だったのでゴブリンも流石に現れなかったが。


 後、その訓練ではミーシャも結構負担が掛かっていた。ワンオペ状態で回復魔法を使えばそりゃ疲弊する。なのでミーシャは魔力の回復の為にこの1週間、ポーション漬けだった。


 ゴメンねミーシャ。なんか凄く楽しそうにしてたからそんなに怒ってないとは思うけど。

因みに軍で行う訓練はもっときついです。

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