11話 逃さないわよ
さて、イキってみたはいいものの。ここは冒険者ギルドである。下手に揉め事を起こして、悪目立ちしたくはないのが本当の所である。誰か助けてくれないかなと周囲を見回すと見知った顔を見つけた。金髪のイケメン冒険者ルーフェスを筆頭に、いずれも実力者揃いの冒険者パーティーの面々だ。あ、あの野郎目ぇ逸らしやがった。
「ルーフェスさん助けてー」
逃さない。Aランク冒険者の威光でこのチンピラどもを退散させてたまえ。
「おい、ルーフェスって」
ほら効いてるぞ。チンピラどもの体がユラユラしだした。逃げたいけどプライドが邪魔して逃げられないんですね。分かります。
「ルーフェスさん。ほら、わたしピンチですよ。助けて下さーい」
等と宣った為か、ルーフェスは苦笑いでこちらに近付いて来た。わたしがルーフェスさんを召喚した事でチンピラ冒険者に動揺が走る。
「アリシアさん何してるの?」
苦笑いで尋ねるルーフェスに目をキュルンとさせながら言う。
「わたし絡まれてるんです」
「てめえ、適当言ってんなよ!首突っ込んてきたのはそっちだろうがよ!」
焦った様子でわたしの落ち度だと言い出すチンピラA。まぁ、こんだけ騒いだんだ。どういった経緯で今の状況になってるのかはルーフェスも見てるだろう。
「あー、一応聞くけど、彼らはアリシアさんの知り合い?」
三人衆を目で見やりながら尋ねるルーフェス。
「はい、ドナレスク支部期待の新人です」
「そうなの。君達手を出した相手が悪かったね。悪いことは言わないから。引き下がった方がいいよ」
相変わらずの苦笑いでチンピラどもに告げるルーフェス。
途端、凄い勢いでわたしを睨むチンピラども。
「……けっ!行こうぜ」
「男に守られやがってアバズレが」
おうおう好きに言え。ゴリラって言ったらぶん殴ってたけど。
Aランク冒険者の威光を持ってチンピラ冒険者を退散せしめて見せたルーフェス。見事である。
「いやぁ、有難うございます。ルーフェスさんのお陰で助かっちゃいました」
「アリシアさんなら問題ないと思って見てたんだけど。何この茶番」
「余計な揉め事は起こさないに限りますよ。いやあAランクって肩書便利ですね。チンピラ避けに。有難うルーフェスさん。今度なんか奢ります」
「はは、楽しみにしてるよ」
等と軽口を言い合いながらルーフェスは自分のパーティーに戻って行く。その姿を目で追っていると、ルーフェスパの女性魔法使いに睨まれる。
おっと、すまない。別に狙ってないからそんな目で見ないでおくれ。睨むならさっき逃げたチンピラどもにその眼光を叩きつけておやり。
しかし男女混合パーティーって大変なんだよね。男女関係とか男女関係とか男女関係とかで。ルーフェスパはどうなる事やら。
チンピラの処理も終わり。わたしは三人衆の座るテーブルへと歩いて行った。
「へ?なんで何も乗ってないテーブルに座ってるのあんたら。何も頼んでないの?」
わたしの問にバツが悪そうな三人衆。やがてレントが言った。
「いや、流石にアリシア姉さん放っといて飯食うのも気が引けて」
気にしなくていいのに。
「なら取り敢えずご飯食べちゃいましょう」
「「「へい」」」
ということでわたしが早食いだなんだとザムザに言われながらもご飯を食べ終えた私たちはコルクボードから薬草採取の依頼書を引っ剥がし。ギルド受付に向かった。
「サリナさん良いですか?」
「アリシアちゃんさっきのあれ何?」
わたしがカウンターに行った瞬間、サリナさんが笑いながら言う。さっきのとはチンピラどもとの一幕だろうか。
「Aランクの威光の活用の仕方です。それより見てたなら助けて下さいよ」
「無茶言わないでよ。私達非戦闘員よ。まぁ、事が起こったらちゃんと、対応はするつもりだったけど」
サリナさんの言う事は最もで仮に、チンピラどもが強盗に成功してもギルド内部で揉め事起こせば遅かれ早かれ牢屋行きである。だから皆知らんぷりだったのだ。
「しかしリンデルにあんなアホ居たんですね。ビックリしましたよ」
「あの人達ね。こっちも困ってるのよ。態度は悪いし女性職員の体は触るし」
「出禁でよくないでさか?」
「もう、その手の話も出てるんだけど、あの人ら冒険者資格なくなったら何するか分からないじゃない」
「あの、私もしかして奴らを豚箱に入れるチャンスを潰しちゃいました?」
「……」
その苦笑いは辞めて。
「いや、なんかすいません」
「いえ、気にしないで。実際に物取りに合いそうになったんだから当事者は抵抗するわよ」
「そう言っていただけると助かります」
「それでここに来るってことは何か依頼を受けたいるのよね」
「ええ、昨日登録した三人のレベルに会わせた依頼をさせようかなとこれなんですけど」
言って依頼書をカウンターに差し出した。
「はいはい、薬草採取ね。レッドバジルの採取ね品質に煩い人だから気を付けてね。報酬はそんなに高くはないわよ。四人で分けるとパン1つも買えないけど大丈夫?」
「ああ、良いです。良いです。場数踏ませる為のものなんで」
「そう、あなた達良かったわね面倒見の良い先輩が付いてくれて」
笑顔で三人衆に言うサリナさん。死なれては困るだけで一人立ちしたらわたしは三人衆には感知しないぞ。
「「「へい!サリナ姉さん!」」」
脅威のシンクロ率を誇る三人衆とは対称的にサリナさんは一度何かを考え混んで切り出した。
「アリシアちゃんと一緒ならこれもお願い出来ない?最近この辺りにゴブリンが増えてちょっと困ってるのよ。薬草採取のついででいいから間引いて欲しいのよ。一体倒すと銅貨2枚よ。耳もいで来てね。数えるから」
ゴブリンの間引きほ依頼ランクとしてはFランクか。
「まぁ、実践訓練にはちょうどいいかしら。分かりました。ついででいいならやってきます」
「宜しくね。でもアリシアちゃんその格好で行くの?随分可愛らしい格好だけど」
……あ。忘れてた。
「まぁ、ほらこうすれば」
そう言ってチェニックを腰辺りまでたくし挙げた。私の行動にギョッっとするサリナさん。
「ちょっとアリシアちゃんそれはアウトよ」
「いやでもちゃんとズボン履いて……」
「それでもよ……女の子がそんな人前でそんな事したら駄目よ」
「……はい」
解せん。
サリナさんに怒られ。一度宿屋に戻ると動き安い格好に着替える。といっても来ていたチェニックの丈が短くなっただけである。
ついでに新しく買った斧槍も置いて板金鎧も置いて行った。わたしが今持っているのはドナレスクから持ってきた素槍。身につけた防具は安い革鎧である。
出し惜しみするわけではないが、薬草採取にそんな気合入れた格好で行っても仕方ない。でも武具屋の店主にオマケで貰った曲刀はサブウェポンで持って行くことにした。
槍の振り回しにくい所もあるだろうし。
ということで、気を取り直して一路わたしと三人衆は薬草の採取とゴブリンの間引きに向かったのだった。
サリナさんには薬草の群生地帯を聞いてある。簡単な地図も貰っているので、それを頼りに進んで居るとやはり街道からは外れて行く。
「街道から外れると魔物との遭遇率が跳ね上がるから気おつけるように」
「「「へい!」」」
等と言って居るとさっそく魔物が現れる。
「ゴブリン、本当に増えてるんだ」
「あ、姉御ゴブリンです」
「分かったから落ち着きなさい」
言いながらヘイトが三人衆に向かわないよう牽制しながら他に潜んでる個体が居ないか確認する。一匹潜んでるわね。飛び道具か?
「一匹隠れてるから盾構えときなさい」
と言うや否や矢がわたし目掛けて飛んで来た矢を持ってた槍ではたき落とす。
間髪入れずに始めに出てきた個体がわたし目掛けて襲いかかって来たので、ゴブリンの頭目掛けて蹴りを放つ。カウンターで蹴りを頭に貰った個体は首が折れて絶命する。
又しても矢が飛ん出来たので、飛んで来た矢を叩き落とすと持っていた槍を遠距離のゴブリンに投擲。槍ゴブリンの胴体に命中し、暫し痙攣していたがやがて動かなくなった。
わたしはゴブリンに近づくいて槍を回収し、右耳を引き千切ると、持ってきた袋に入れ。青ざめてる三人衆の方をみて言った。
「まぁ、ゴブリンって言っても武器を使ったり連携してきたり結構厄介な魔物なのよね。ゴブリンだからって油断すると結構簡単に死ぬから気をつけるように。後、ゴブリン倒したら討伐証明として体の一部をもいどきなさい。何処をもぐかは事前にギルドで確認すると良いわ。今回は右耳よ。ザムザ、そっちのゴブリンの耳もいでちょうだい」
「へ、へい!」
引けた腰でゴブリンに近づくとゴブリンの死体の耳に手をかける。そして顔を顰めるながら引き千切った。
「ひ!なんか変な音が。うう、これ暫く慣れそうにないでさ」
まぁ、普通にグロいわよね。
「そのうち慣れるわよ。有難う。この袋に入れといて」
そう言ってザムザに耳袋を手渡すと、捨てるようにゴブリンの耳を投げ入れた。
「でこのゴブリンの死体なんだけどね。基本的にこのままにしないほうが良いの。他の魔物が来ちゃうし。だから私抜きで行動する様になったら炎か土の魔法を習得したほうが良いわよ。死体処理が出来ないとギルドに言って手数料払って死体処理してもらわなくちゃならないから。報酬から10%引かれるわ」
「アリシア姉さん、色々聞きたい事があるんですが10%ってどのくらいなんですかい?」
「え?ああ、ごめんなさい。えーっと報酬を10分割にしたうちの1つ?」
「スイヤセンわかりません」
「えーっと。例えば銀貨30枚の報酬をもらえたとしてそれの10%持ってかれるってなると3枚なの。3枚を10回足せば30枚になるでしょ?」
「……スイヤセン。わかりません」
「計算のやり方後でちゃんと教えるわ。ごめんなさい」
人に教えるのって難しいわ。
「他にも聞きたい事があるって言ってたけどどんなもの?」
「へい。魔法ってどうやって使うんでしょう」
「ああ、魔法を覚える様に言っといてなんだけどそれも追々教えるわ。辺に魔法覚えると体力が付きにくくなるのよ。少なくとも私が居るうちは魔法がなくても困らないから」
「わかりやした」
「悪いわね。で、なんで火か土の魔法を覚えた方がいいのかだけど」
そう言いつつゴブリンの死体に手をかざし魔力を込める。
「ゴブリンが土に……」
農業用の魔法である。土になって行くゴブリンを唖然と眺めながら言うハイジ。
「こんなふうに魔物を土くれにできるのよ火は単純に燃やして灰に出来るわね。ただ火の魔法だと結構な高温で焼く必要があるから習熟が大変よ。個人的には土の方をお勧めするわ」
残りのゴブリンも土に返すとわたし達は薬草の群生地帯へと歩を進めるたのだった。
途中結構な数のゴブリンが出てきたのでそれらを倒しながら先へと進む。何体かは三人衆に倒させた。泣きそうになってたけど知らん。慣れろ。わたしはスパルタなんだ。
しかしながら本当にゴブリンが多い。ちょっとおかしいレベルである。ようやく薬草の群生地帯にたどり着いた頃には倒したゴブリンは30体に届こうかと言ったところだ。
「ちょっとよくないわね」
薬草採取処ではない。本当は薬草の処理の仕方等も説明したかったがそれどころでは無い。薬草へのうんちく語ってゴブリンに殺される等笑い話にもならない。
三人衆への支持も少し雑になってしまい申し訳なかったが手早く薬草を麻袋に詰め込み。薬草採取場を後にする。
薬草の品質でクレームが入る可能性があるがこの際目を瞑ろう。この数のゴブリンは洒落にならない。わたしはともかく三人衆が心配だ。
「あんたらついてないわね。初めての仕事でこれなんだもの」
「これは、普通じゃねえんですか?」
「普通じゃないわね。ゴブリンは基本臆病なの。こんなに積極的に人を襲う事はない筈なんだけど……ああ、あんたら喜びなさい。ホブゴブリンのお出ましよ」
薬草の群生地帯と街道の間の林を歩いていたわたしらの後ろから、多数のゴブリンの鳴き声とひときわ太く大きな鳴き声が聞こえてきた。ホブゴブリンだ。ゴブリンが成長し人間サイズになった魔物である。単独での魔物ランクはEだが群れで行動するのでたちが悪い。
三人衆が息を飲むが構ってられない。薬草やらゴブリンの耳やらが入った袋をその場に捨てて槍を構える。
「下がりなさい。あんたらは身を守る事を第一に考えて」
そう言って。三人衆の前に達、ホブを待ち受ける。チラリと三人衆を見ると強張りながらもキチンと臨戦態勢を整えている。上出来だ。
「GOOOOO!」
痩せぎすで子供のような体躯のゴブリンとは異なり筋肉の鎧を纏った人間大の魔物ホブゴブリンが太い鳴き声と共に姿を現した。
「GOGYAGOO!」
続くようにしてゴブリンが5体踊り出てきた。潜伏してるゴブリンは、幸いいなそうだ。
「2体そっちに回していい?」
「へい!大丈夫です」
ザムザが答える。
「そう、宜しく。終わったらすぐ手伝うから」
そうしてわたしは先制すべく、駆け出す。最初に2体ゴブリンが襲いかかって来るがそいつらの攻撃をいなして三人衆のほうに向かわせた。
残るはホブ1体ノーマル2体。私が狙ったのはノーマルだった。ホブに先んじて出てきたゴブリンをまず槍で吹き殺し足で蹴り飛ばした。
2体目はホブが仕掛けてきている。手に持ったナタを振りかぶって突っ込んて来るが残念。槍の方がリーチが上だ。振りかぶって丸出しになった脇の下に槍の穂先を突き刺すとホブはナタを取り落とし苦痛の叫びをあげる。痛くて進めんだろ。そのまま槍を引き抜き後ろから襲いかかったノーマルの顎を槍の石突きで突き上げた。顎の砕ける音と共にゴブリンは後ろに吹き飛ぶ。
ホブはというと脇の下から大量の血を流しながらも取り落としたナタを反対の手で拾おうとしていたがそんな時間はやらん。一息で喉と胸に穂先を差し入れてとどめと行きたかったが、穂が小さいので急所に届かない。ちゃんと買った武器持ってくれば良かった。
仕方ないので、ホブの後ろに周り込んで首筋に肘を叩き込んで首を折ると、ホブは直ぐに崩れ落ちた。
急いで三人衆の方を確認すると何とかゴブリンの攻撃をしのいでいた。
直ぐに後ろから駆け寄り一体は背後から一突きで絶命。もう一体は薙いで斬りつけると崩れ落ちたので、急所に槍を突き刺して止めを刺す。
戦闘が一段落したので顎を砕いたゴブリンにも止めを刺し。手早くゴブリンの耳を剥ぎ取って死体を処理すると、リンデルへ帰還した。
幸いあれ以来ゴブリンに襲われる事なくリンデルのギルドに辿り着く。カウンターに向かいサリナさんに事のあらましを説明した。
「耳わ数えたら全部で33体だったわ。しかもホブまで出たなんて……薬草の以来も完了ね。お疲れ様」
「事が事だったから少し品質が落ちてると思います。処理が少し雑なので」
「まぁ、仕方ないわね、依頼人には事情を説明して納得してくれなければ報酬の減額かギルドが安く買う事になるけど大丈夫かしら」
「ええ、かまいません」
仕方無いだろう。それにゴブリンのよく分からない大量発生で薬草採取以上のお金が約束されている。
「でもアリシアちゃんがいて良かったわ。新人冒険者達が大量のゴブリンとホブに遭遇とか絶望するしかないもの。運が良いのか悪いのかは分からないけどね」
「しかし、なんなんですかあれ。ちょっと以上ですよ。誰かゴブリンの養殖でもしてるんじゃないですか?」
「ちょっと怖いこと言わないでよ。でも確かに変よねぇ」
「あんたらも災難だったわね。初めてなのに」
そう言って三人衆を見やる。なんかもう、見るからにぐったりしていた。布団があればそのまま寝てしまうのではないだろうか。
「姉御、ゴブリンって怖いんすね」
「何度か死ぬかと思いました」
「泣きそうになりました」
等と口々に言う三人衆だったが無理もない。いきなりあれは酷だろう。
「ザムザさん達もすいません。私も薬草の群生地付近がそんな事になってると思わなくて。本当に無事で良かったわ」
「これだと明日からどう行動しようかしらね。あの感じだと他の亜種とか強化種がいても全然驚かないんだけど」
正直油断してた。
「ね、姉さん」
わたしが明日以降の身の振り方について思案してるとザムザが恐る恐ると言った感じで声をかけていた。
「何?」
「その、今日は色々とスイヤセンでした。明日はもっと動けるように頑張りやす」
え?別に冒険者初日の三人衆の動きに関しては期待等してなかったので謝られても困るのだが、驚いてザムザ達の方を見ると今朝までとは顔付きが変わっていた。冒険に憧れる少年の顔から新米の冒険者へと。まぁ、擦れたとも言えるけど。
「へぇ。そう言う方向に行くわけね」
いや、正直感心した。正直今回のゴブリンラッシュは新人にとっては厳しいものだった。三人衆の気の弱さからして、わたしがついて居たとしても、迫るゴブリンの群れをみて萎えきってしまう事すら考えたのだがそうはならないかった。
怖がりなのは変わらんだろうが、何とか本日の事を克服しようと前を向いている。
最初はどう使おうが悩んでいたが、案外素直だし、仲間思いだし、そして根性がある。案外良い拾い物をしたのかもしれない。
「暫くは依頼は受けない」
「でも姉御……」
ザムザが何か言いたげにするが知らん。
「代わりに戦い方を教えてあげる」
冒険の中でなるべく自然に戦闘力を上げようとしたが辞めだ。やる気があるなら多少地獄を見せても良いから本腰入れて鍛えて死に難くしてやろう。
「何、がっかりしないで良いわよ。今日が可愛いと思える目に合わせてあげるから」
ニッコリと笑いかけるわたしを見た三人衆が強張った顔で後ろに下がる。おい、なんで逃げようとしてるんだ。
背を向けて走り出そうとする三人衆をひっ捕まえて笑顔で一言。
「逃さないわよ」
何処ぞのヤンデレのような事を言って釘を刺しといた。