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10話 昼メシ位奢ってやろう

 突如として、舞い込んだギルドからの依頼。王国も絡んでいるという事で報酬は一人頭金1枚が保障されるらしい。


 戦ですよ戦。命危険に晒して金貨1枚ですか。これだから暴力の絡む仕事は割に合わない。


 取り敢えず、戦に軽装で赴く等とおっかない真似出来るはずもなく。アーノルド支部長との邂逅から一夜明けた今日、三人衆を引き連れた私は街にある武具屋へと足を運んでいた。因みに今日のわたしはいつも来てるギルドの制服ではなく、普段着である。くるぶし丈のチェニックにの上に袖無しエプロンドレスというこの国ではごく一般的な服装だった。コンプレックスの筋肉を最少元に隠してくれる。


「斧槍と鎧一式が欲しいんですけど」


「あん?誰が使うんだ?」


 うわ、頑固そうなオヤジ……面倒くさそう。


「わたしです。下さいな」


 そう言ってギルドからぶん取って来た支度金の入った袋をカウンタに置いた。


「帰りな。足りねえよ」


 おい、中身確認しろよ。金貨30枚ぶん取ってきたんだぞ。足りないわけ無いだろ。お釣りは返す様に言われたけど。


「おうおう!オヤジ!客に対してその態度はねえだろ!」


 三下ムーブでオヤジに凄むザムザ。良いぞもっとやれ。


「……あ?」


 低い声を出しザムザを睨み付けるオヤジ。


「ひっ。姉御!このオヤジ只者じゃねえ」


 ああ、うんザムザ君よく頑張った。でも普通のおじさんです。少し頑固なだけの。


「困りましたね。この街に他に武具屋があればそれも可能なんですけど、ここしか無いじゃないですか」


「市場に置いてあるじゃねえか」


 鼻で笑いながらそんな事宣うオヤジにイラッとするが、我慢。我慢よアリシア。


「とにかく、お金は有りますからモノを見せて欲しいんです」


「武器は子供の玩具じゃねえんだ帰んな」


「大した腕も無いくせに偉そうに」


「……なんだと?」


 あ、ヤベ口に出てた。


「小娘が知ったふうな口利きやがって!俺は気に入った奴にしか売らねえって決めてんだよ」


 よく経営出来てますね。もう面倒臭い。


「わたし一応冒険者なんですけど、ギルドの依頼で早急に武装を整える必要があるんですよ。気に食わないなら我慢して今直ぐ気に入って下さい。売ってくれなかったらここの武具屋は大した腕も無いくせに客に対して横柄な態度を取る上に人を小馬鹿にして気持ちよくなるだけのクソ店主がいるって言いふらしますよ。大体このショートソードなんてただの鈍器じゃないですか。こんなのが金貨1枚馬鹿も休み休み言って下さいよ。鉄塊り回してた方がマシですよ。いいですか?わたしもしょうがなく来てるんです。斧槍なら多少切れ味悪くても重さでいけますからね。この際質は問いませんよ!板金鎧も、うわ、これペラペラ。なにこれ……ああ、すいません。やっぱりいいです。こんなの身につけてたら命がいくつあっても足りないんで帰ります。このボッタクリ」


 ギルドから紹介された店なのだが、こんなのでいいのか?


「ちっ!少しは分かってるじゃねえか」


 うわ、感じ悪。もういい帰る!アーノルド支部長には後で文句を言っとこう。


「待て待て、そりゃ展示様のレプリカだよ。ちゃんとしたもん持ってきてやるから待ってろ。変な噂流されちゃ堪らねえや」


 頭をバリバリ掻きながら奥に引っ込む店主。ちっ!武器が揃えられないって理由で依頼キャンセルしようと思ったのに。


「まぁ、盗難対策よね。店舗に本物並べるわけ無いし」


「へ?姉さん。知ってたんですか?」


「武具屋は基本的に誰でも触れる所に本物は置かないの。剣も槍もは刃引きされて殺傷力を落としたものが展示されてるわ。そのまま斬りかかられたら危ないしね。まぁ、鎧はともかく、武器は重さはそのままっぽいけど。危ないなー。普通重さは落とすんだけど」


「あんた、それ分かってるのに俺の武器をこき下ろしたのか?いい性格してるな。後、武器は手重さも重要だからな。レプリカでも重さは極力変えねえ」


 何処から聞いてたのか知らんが苦々しげな顔のオヤジが立っていたが気にしなーい。


「あら、戻ってきたんですね」


「ほらよ!持ってみな」


 オヤジから斧槍が手渡されたが小さい。軽い。


「あの、もっと長くて重い方がいいです。他のないですか」


「……振れんのか?」


「振れますよ」


 ジト目で言ってくるオヤジに飄々と返す。


「手ぇ見せてみろ」


 マジで面倒臭いなこの人。


「セクハラですか」


 そう言って手を差し出す。


「けっ!小娘が何言ってやがる。……ほう。分かった、ちっと待ってろ。重いくて長いのだろ?他に要望はあるか?」


「余計な装飾は要らないです。あとできれば柄も鉄製がいいです」


 柄でぶん殴っても折れにくいし。


「……分かった。持ってくる」


 あるんだ。


「なんですかい?急に協力的になりやしたぜ」


「ザムザ、職人って面倒臭い生き物よね」


 程なくして店主は戻ってきた。


「おう、待たせたな。こいつでどうだ」


 そう言って渡されたのは、私の注文した通りの品だった。


「ちょっと失敬」


 そう言って、展示用のナイフを手に取り柄を軽く叩いくと微かに響く様な音がした。柄の中が中空な証拠だ。柄がザラザラして滑り止めになってるのもポイントが高い。計な装飾もなく槍と斧とピッケルが一体になったような形状穂先は正しく斧槍といった所だ。


「良いですね。いくらですか」


「金4……と言いたいどこだがちゃんと振れるなら半値でいい。付いてこい」


 金貨4枚は高いけど、まぁ、これだけちゃんとした物ならそれぐらいはするか。しかも振れれば半額チャンスらしい。ということでウキウキしながらオヤジのあとを付いて行くと、巻藁の立っている空き地に案内された。


「切ってみろ」


「素振りしても」


「好きにしな」


 ということでエプロンドレスを脱いでチェニックを腰上まで手繰り上げて紐で止めた。何やら周りがギョッっとしてるがズボン履いてるよ。わたしは痴女でない。

 何度か薙ぎ払い突き等の素振りをして巻藁と向かい合う。と言っても斧槍って槍に斧が付いたようなものなので斬撃特化の曲剣の様に反りを利用して斬る事が出来ない。重さを利用して叩き斬るので切り口はどうしても雑になりがちなのだがこのオヤジ何が見たいのやら。


 無理やりにでも切り口を綺麗にするなら、スピード乗せるしかないのだが。


 なので巻藁から少し距離をとって頭上で斧槍をぶん回し、その勢いを殺さない様に踏み込み、袈裟斬り気味に斧槍を叩きつけると、巻藁は倒れる事なくスッパリと斬れた。


「え、なにこれメッチャ斬れる」


「「「姉御かっけえっす!」」」


 多少の抵抗はあるかと思ってたがさしたる抵抗もなく切れてしまった。あまりの切れ味に少し感度すら覚える。そして三人衆よ。君等実は兄妹か何かかね。


 わたしが巻藁を両断したのを見て暫し呆気に取られてたオヤジ。貴方が斬れと言ったんでしょうに。何とかいえよ。


「嘘だろ?……くくく。ダッハッハッハ!なんだそりゃ。嬢ちゃんゴリラかなんかか?いやいやすげぇもん見たわ」


「……あ?ゴリラだと?」


「……悪かった。いやいや怒るな、怒るな。悪ふざけで作った長柄物だったが軽々振り回す奴がいるとは思わなかったぞ、いいもん見せてくれた礼だ約束通り半値でいい。どうせ埃被ってたんだ不良在庫が捌けて良かったぜ!」


 わたしはゴリラじゃない。わたしはゴリラじゃない。わたしはゴリラじゃない。わたしはゴリシアじゃない。ゴリシアっていうな。


「いや、うん……ゴリラは言い過ぎたな、本当悪かったよ。な、鎧一式も少しおまけしてやるから機嫌直せよ」


「本当ですか?ありがとう。オジサマ。後、大した腕も無いとか言ってごめんなさい」


「いい性格してるよ本当」








 そんな訳で、斧槍と鎧一式を相場よりだいぶ安く仕入れることに成功した。なんか知らんがサブウェポンとして曲刀も付けてくれた。悪ふざけで作ったものらしいがいいのだろうか。


 斧槍は私が運び、鎧一式は三人衆に運ばせている。


 有り難い話ではあるが、そのようにバーゲンセールみたいな事をして経営は大丈夫なのか聞いたら道楽で買ってく金持ち連中に適当ななまくらを高く買わせて回収するから大丈夫とのこと。大丈夫なのかそれは。


 まぁ、最初こそ難儀したが打ち解ければ結構良くしてくれる店主だったなと。ミーシャも連れて来てみるか。











 と言う事でリンデルのギルドにやってきました。目的は先日の魔物素材の買い取り金の受け取りとギルドからの賄賂を返却する事、そして手頃な依頼を受けたい。


 予期せぬ形で滞在期間が延びてしまったのだ。3人衆の強化や当面の生活資金を稼がねばなるまい。


「ネモちゃん、やっほー」


「あ、アリシアさんお持ち……なんですかそのゴツい武器」


 笑顔でこちらを見たネモちゃんが私の持っていた斧槍を見て固まっていた。


「急遽必要になって買った」


「重そうですね」


 興味津々と言った様子で斧槍をみるネモちゃん。こう言うの好きなんだ。


「持ってみる?」


「え?いいんですか?」


「別に良いわよ。減るもんじゃないし」


 恐る恐る両手を差し出すネモちゃん。にオール鉄製の斧槍を手渡す。


「重!こんなの振り回せるんですか!?」


「振れるわよ。武具屋の店主にも同じ事聞かれたわ」


「でしょうね……。よくこんなのアリシアさんに売ってくれましたねあの人」


 ああ、やっぱギルドでも気難しいキャラで通ってるんだあの人。


「ネモ姉さん。その武器、アリシア姉さんは、軽々振り回してましてよう。店主も腰抜かしてぜ」


「おう、すごかったよな。こう、頭の上でぐるぐる回してズバンってな」


「偉そうな店主がだんだん真顔になって最後は口あんぐり上げてたもんな。いやぁ、本当痺れたぜ」


 おいやめろ。余計な事をいうな。


「へぇ、アリシアさん力あるんだぁ」


「そ、そんな大したものじゃなくて。鍛えればこれ位誰でも出来る訳で、私が特別力があるとかゴリラだとかそういうことじゃないからそこは間違えないでね。ネモちゃん」


「あ、はい。え、ゴリラ?」



「ゴリラじゃないです」


「そうですね。それで先日の素材の買い取り価格なんですが金で10枚分ですね。支払いは全部金貨で?」


「6枚金貨で貰って残りは銀貨でいい?後、あっちのギルドで必要だから買い取り価格の覚書が欲しいんだけど」


「良いですよ」


 そうして貰ったお金をそれぞれの袋に分けていくギルドへ納める分、ミーシャに渡す分、私のお小遣いといった具合だ。


「重、ちょっと早まったかな。ネモちゃん、ギルドの貸金庫使いたいんだけどいい?流石に金貨10枚も持ち歩きたくないわ」


 そう言ってネモちゃんに銀貨を手渡した。


「はーい全部入れますか?」


「ああ、ちょっと待って」


 急いで私の取り分の袋から銀貨を10枚程財布に入れ込む。


「よし、後は金庫行きで宜しく」


 ネモちゃんの所への用事が済んだので、今度はアーノルド支部長への用事を済ます。


「わたしはちょっと支部長と話してくるからあんたらはここで待ってて」


 斧槍をザムザに手渡し。大量の金貨の入った袋を手にアーノルド支部長の部屋へと向かう。


「アーノルド支部長。いらっしゃいますか?アリシアです」


 ノックをして告げた。


「入ってくれたまえ」


 と中から声がしたので入室する。


「アーノルド支部長支度金有難うございます。おかげで装備も整いました」


わたしは残りの金が入った袋をアーノルド支部長に渡した。


「うむ、それは良かった……随分と残ったね」


「はい、なんか店主が色々おまけしてくれたので想定より安く済みました」


「へぇ、あの店主がねえ。随分気に入られたみたいじゃないか」


 やっぱ偏屈認定されてるんじゃいかあの店主。


「これだけ余ったならミーシャ君の分も用立ててくれたまえよ」


「いいんですか?バレたらやばいってビクビクしてたじゃないですか」


「なに、絶対バレない所から出したのだよ」


 どこだそれギルドの裏金か?


「まぁ、そういうのでしたらミーシャと合流した時にでも聞いてみます」


「ミーシャ君は怒ると凄く怖いからね。少しご機嫌を取りたいのだよ」


「色々手遅れだと思いますけど」


「そう言わないで頼むよアリシア君。ミーシャ君を宥めておくれよ」


「まぁ、善処はしますけど、ミーシャならいい武具買うより美味しいもの食べさせた方が良いと思いますよ」


「じゃあ、それで頼むよ」


 まぁ、武具の代金出して貰ったので少し協力はするか。私って単純。









「お待たせ……うわぁ」


 アーノルド支部長との話を終えて三人衆の元に戻ったら。他の冒険者とものの見事に揉めていた。


「てめえ、いい加減にしねえか!」


 何故か、冒険者に掴み掛かろうとするザムザ。


「何、何、何があったのあんたら」


 急いで割って入ると、ザムザ達は安心したように口を開いた。


「あ、姉御おかえりごぜえやす。こいつらが急にいちゃもん付けてきたんでさ。なんか、俺達が身の丈に合わないもん持ってるとか言って」


「これは俺達じゃなくて姉御のだって言っても聞きゃしねえ」


「しまいにゃ掻っ払おうとする始末でさあ!」


 と流れるような説明をしてくれた三人衆。やはり君等兄妹だろ。


「ふーん、それで?お相手がこの人達ってわけ?」


「「「へい!姉御!」」」


 もう何も言わん。


「ああ、なんだてめえしゃしゃりやがって!」


「姉ちゃん。今俺達はそこの奴らと話してんだよ。ちょっと黙っててくんねえか?」


 冒険者にはこういうゴロツキみたいな奴は多い。


「そう、ご苦労様。後はわたしが処理するからあんたらはあっちでご飯でも食べてなさい。後、鎧と武器も持ってっといて」


 そう言って分けておいた財布を投げ渡す。


「「「へい!」」」


 わたしに頭を下げると三人衆はわたしの鎧と斧槍を守るようにイートスペースへ向かった。


 そんなに付き合い長くはないけどあの三人衆が臆病なのはまぁなんとなく分かる。その彼らがここまで必死になったのが意外ではあったが、悪い気はしない。昼メシ位は奢ってやろう。



「ここは冒険者ギルドで強盗や盗賊はお呼びじゃないんだけど」

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