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1話 受付嬢ってなんだっけ?

 シルドランド王国の北東に位置するドナレスクが魔鉱石の産出地として名を馳せたのは過去の話。名物の魔鉱石はとうの昔に掘り尽くされ、今ではすっかり廃れてしまっていた。特産品を失ったドナレスクからの人口流出はどどまる所を知らず、今では名所も名物もない小規模集落のような有り様となっていた。


 かつての名残でなんとなく残されているだけの冒険者ギルドにはわたしを含めた2名の事務員と所長1名の3人体制で運営はされているが、活気など皆無のこの町で冒険ギルドを運営する費用対効果はさておき、そんな零細ギルドにもポロポロと依頼が来ているところを鑑みるとどうやら全くの無価値ではないらしい。


 しかし今現在、とある問題の浮上によりなけなしの存在意義が冒険者ギルドドナレスク支部より失われようとしていた。現状をただ受け入れるのも癪なわたしはギルドの支部長室に踏み込んだ。そして椅子に座りながら死んだ魚のような目で抜き身のロングソードを手に取り眺めていた中年男性、オーランド支部長へ愚痴と嘆きと憤りの綯い交ぜになった進言を行う。


「オーランド支部長、本部に掛け合って冒険者こっちに寄越すように掛け合って下さいよ」

 

 先日、ドナレスクでただ1人の冒険者が子供が出来た事を理由に引退し、我々のギルドを拠点とする冒険者は目出度く0人となった。由々しき自体である。前代未聞である。


「あのね、こんな何も無い所に呼んだからって冒険者なんて来ると思う?もう既に本部には報告はしてあるから期待しないで待っててよ」


 オーランド支部長は顎の無精髭を触りながら無情な宣告をすると変わらぬ死んだ魚の目で持っていたロングソードを腰の鞘に収めた。ここに来てそこそこ長いが彼の目が輝く事はあるのだろうか。


 まぁ、オーランド支部長の言ってる事も分かる。こんな零細ギルドの訴えなんて本部の中では優先度激低だって。一支部長の力でどうこう出来るものじゃない。ああ、腹が立つ。


 吹き抜けの上部空間にあるオーランド支部長の居る部屋から階段を降りて閑古鳥の鳴くギルドエントランスへ、その奥に設けられらた受付席に乱暴に腰掛ける。因みにこのギルド、かつて賑わった町のギルドだけあって広さだけはあるが今となってはギルド内の閑散とした樣子を強調するだけだ。

 なんだかどっと疲れた。思わず溜息が口を吐いた。そんなわたしの様子に反応した訳ではないだろうが、隣の受付カウンターに座りながら片手でダガーを弄んでいたミーシャがやる気なさげに口を開く。


「アリシア先輩、また支部長と話してたんですね。しかしドナレスク支部もいよいよ消滅ですかね。そうなったらあたしらってどうなるんでしょう?」


 そこまで話すと片手で弄んでいたナイフを手首のスナップのみで投擲するミーシャ。

 放たれたダガーは真っすぐ飛んでいき。依頼書の張られるコルクボードに突き刺さった。ボードにはミーシャの作成したであろう紙に書かれた的が張り付けられている。何やってんだこの後輩は。


「クビですかね」


 突き刺さったダガーから興味なさげに視線を外すと机に突っ伏しながら言う。

 後輩の行儀の悪さに溜息。


「まぁ、曲がりなりにも本部から派遣されてる訳だからいきなりクビにはされない筈だよ。取り敢えず近場のギルドに移動になるんじゃないかな。後、ギルドの設備にナイフ投げるの止めなさい」


 わたしが注意するとミーシャは「は~い」と軽い返事をした。またやるんだろうな。この娘。


「あたし、ここの環境気に入ってたんですけどね。このぬるま湯環境に慣れきった今。普通ギルドでの業務なんてこなせる気がしませんよ」


「まぁ、最初は大変だと思うけどそのうち慣れるわよ。慣れなければ淘汰されるだけ」


「まぁ、そうなんですけどね」


 不承不承といった様子で頷くミーシャを尻目にわたしは自分のショートスピアを取り席を立つと、依頼の張り出されてる掲示板から1枚の依頼書とミーシャの投擲したダガー引っ剥がす。


「あ、暇なんであたしも行きます」


 わたしの挙動でこれからする事を察したミーシャがトテトテとこちらに駆け寄ってくる。


「そう、直ぐ行ける?」


 駆け寄ってきたミーシャにダガーを手渡して尋ねた。


「何時でも可能であります!」


 ミーシャは複数のダガーが収められたホルスターベルトにわたしがたった今手渡したダガーを慣れた手つきで収めると冗談めかした敬礼を返してきた。


「オーランド支部長!わたしとミーシャで適当な依頼片付けてくるんで来客対応お願いしまーす!」


 わたしの張り上げた声がギルド内に響く声量はそれなりだと自負している。


 数秒の後オーランド支部長の部屋のドアがゆっくり開き、死んだ目のおじさんがのっそりと出てくると吹き抜け上部通路の手すりにもたれかかかる。


「うん、宜しく。2人とも気を付けて行ってきてね。ところで、何の依頼やりに行くの?」


 今仕方引っ剥がした依頼書をオーランド支部長に見せつける様に掲げて言った。


「クレアおばさんの薬草採取依頼です」


「ああ、クラウドナッツとレッドリリーとブルーバジルだっけ。頑張ってね。僕は留守番頑張ってるよ」


 そう言うとオーランド所長はエントランスに降りてきて受付席に座った。


「じゃあお願いしますね」 


 そう言い残してわたしとミーシャはギルドを後にする。わたしはギルドの事務員。それなりの教養と実務能力を求められるギルドの花形である。冒険者からはギルドの受付嬢等と呼ばれ、大きいギルドでは非公式の人気ランキング等もある職種である。本来はもっとこう箱入りチヤホヤされてもいいのではないだろうか。


「受付嬢ってなんだっけ?」


「何かいいましたか」  


「……何でもない」


 上機嫌に隣を歩くミーシャにわたしの呟きは届かない。

忘備録。

シルドランド王国 

ドナレスク北東の元鉱山街

アリシア ギルドの事務員

ミーシャ アリシアの同僚

オーランド所長 アリシアの上司

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