2話 優の家
優の家に着いた私は、玄関で一瞬だけためらった。
優の家に来たのは小学校ぶり。
(前来たのは、夏だったな…)
かき氷を食べて、二人でクワガタを探しに行ったっけ。
思い出した瞬間、くすぐったいような懐かしい気持ちがこみあげてきた。
「おーい、入っていいよ」
奥から優の声が聞こえる。
「…お邪魔します」
靴を揃えてリビングに向かうと、そこには見慣れない棚があった
抽選に当たらないと買えない限定スニーカー、もう、買えない幻のスニーカー、転売されて高額のスニーカーが棚においてあった。
(私でも持っていないのに……)
よく棚を見ると、一つ空いていた。
「春、いいだろ…」
優は幻のスニーカーを手に取った。
「何よ…」
私は羨ましかった。私でも買えなかったあのモデルなんであるの、そう思った。
優はスニーカーを渡しに差し出す。
「春…これ、あげる…好きだろ。」
「え……」
私は頭の中が一瞬真っ白になった。
幻のスニーカーをあげると言われたら誰でもそうなる。
「ほらよ…」
優は私にスニーカーを渡す。
「いや、そんな…悪いよ…」
私は一応断る
(本当は欲しいけど…)
優はスニーカーを私に近づける。
「受け取ってくれ。」
優は私を見つめながらスニーカーを近づけている。
幻のスニーカーだし欲しいけど、優も相当苦労して手に入れたであろう、スニーカーを簡単にもらうわけにはいかない。
「ねぇ、優、これ手に入れるのに苦労したでしょ?」
優はスニーカーを持ちながらこっちを見る。
「そりゃあ、苦労したよ、でも春のために頑張ったんだ…受け取ってくれ」
「は、え……」
一瞬時が止まったようだった。
優はまたじっと見ている。
「受け取れよ…」
私の手にそっとスニーカーを置いた。
「ありがとう」
私は少し心臓が飛び跳ねた気がした。