8.【王様に謁見しました】
対策を立てる前に領主に城にある本を大量に借り、図書室の本棚にしまうと、アカシックレコード検索がレベル3になり異世界の書物がすべて閲覧できるようになった。
魔法に関する本を読むことにより皆の使える魔法が飛躍的に増加している。
アカシックレコード検索で王宮の記録を読み込んでいくとウイッカンの出身国であるテルティアの影響が増大しているのがわかる。テルティアはこの国の支配を画策している可能性がある。
ビクトリアに呪いをかけたのも王様と辺境伯であるビクトリアの父親との関係に罅を入れ国の力を弱めるための一手であるようだ。
王妃の病もウイッカンが王様から王妃を遠ざけるにために呪いを掛けてる節があるメモも見つかった。
作戦の目途が立ったのでビクトリアを連れて王への謁見ができるように許可を取ってもらった。
ウイッカンの密偵にマリーをビクトリアの身代わりとして連れていく計画であると思わせるたように行動する。
ビクトリアの両親とマリーはメンバーに登録しておいたが、王都への移動は馬車にしてもらった。
移動の際にはガラハドを警備隊の一員に仕立て、アイリーンをマリーの侍女に仕立てて安全を確保する。
謁見日より早く王都に着くようにして、シャーロットに王妃のお見舞いをしてもらった。
約束どおり王妃に会って、人払いをしてもらってから王妃を応接間にゲストとして連れてきてもらった。
ビクトリアが王妃に解毒と解呪をかけると明らかに回復が見て取れた。
病でなかったことは明白だ。
王妃には謁見の日までは回復していることを伏せてもらうことにして応接間から送り出した。
いよいよ謁見の日が来た
辺境伯とマリーが王宮に入る。控えの間に着いたところでマリーとビクトリアが入れ替わる。
謁見室に二人で入っていく。
ビクトリアは顔を見られないように下を向いている。
ヘグニ王より説明を求められる。
「ビクトリアの失踪と現状についてご報告申し上げます。
ビクトリアはルキウス様主催のお茶会に向かう途中、気のふれた伯爵令嬢に呪いを掛けられた上に転移魔法をかけられ、わが領地にあるゴブリンダンジョンに転移されたのです。
ご存じの通りビクトリアは魔法も剣も堪能ですのでゴブリンを振り払いながらダンジョンの5層にあるセーフゾーンに飛び込んだのですがそこで意識を失ったらしいのです。
セーフゾーンには一組の冒険者パーティーがいてビクトリアを連れてダンジョンを脱出したそうです。呪いを掛けられていたビクトリアはその間の記憶はなく解呪された後にパーティーの女性メンバーから状況を教えてもらったとのことでした。
意識が戻るとすぐに私に連絡を取り本日に至ったものであります。
ビクトリア、内容に間違いはないな」
ビクトリアは声を発さずにうなずく
「王宮内で突然に仕掛けられたとはいえ、単身で失踪し意識不明の日を数日過ごすなど貴族の子女としては不名誉なことであり、ましてや王子の婚約者など務まるはずもありません。落ち着いたら貴族の籍を外し裕福な平民の妻にでもしようと思っております。ヘグニ王の寛大な裁きをいただきたいと存じます」
「辺境伯殿、わが子ルキウスの婚約者に起こった不幸に胸が張り裂けそうです。
ところで辺境伯殿、ビクトリアが襲撃された場面を目撃したものからは、ビクトリアはニンフォマニアックの呪いを掛けられ髪も赤く瞳も濁った灰色に変わったと聞いています。
わらわが祖国に確認したところあの呪いにかかったら最後、解呪はできず、生き残るには娼婦にでも身を落とし、男性を漁る色狂いになるしかなく、こういう場に出てきてもきちんとした話をする能力もなくすと聞いておる。
先ほどから見ておるとビクトリアは声も発さずに下を向きおとなしくしておる。
もしかして王をたばかるために身代わりを立てたのではないか。
確認したいので顔を上げて声を聞かせてたもれ」
「うむ、わしは、ビクトリアの顔を見て安心したい。ビクトリア、自分の口で説明してみよ」
「お許しを得て直答させていただきます。父からの説明と同様になりますが、呪いを掛けられダンジョンに転移させられましたが運よく旧知の冒険者に助けられ生還することができました。貴族の子女としてはあってはならないことなので父の領地に戻り貴族の籍を抜いて暮らしていきたいと考えております」
「辺境伯殿、実にそっくりな身代わりを連れてこられたな、この様子だけ見るとまるで呪いが解呪された本人のようじゃな。
だが、あの呪いが解けるなどありえんのじゃ、それはテルティア出身のわらわが一番存じておる。そこにおるビクトリアは偽物に決まっておる。
王をたばかるなどもってのほかじゃ、辺境伯下がって沙汰を待つが良い」
「あら、ビクトリアちゃん大変だったみたいね、今はもう元気そうね」
「正妃様、お久しぶりです。臥せっておられたとお聞きしたのですが」
「お気に入りのビクトリアちゃんが来るって聞いたら元気になっちゃってつい出てきちゃったの。
ビクトリアちゃんのことは子供の時からよく知っているし、誰かさんの策謀で転送された日もお見舞いしてくれていたものね、あなたは間違いなくビクトリアちゃんで身代わりでないことは私が認めますわ。
ヘグニ様、私が確認したのですからそこにいるビクトリアちゃんが本物であるということでよろしいですわね。」
「ああ、本物で間違いなかろう」
「そ、そんな、あの呪いを受けてこんな状態になるはずがないのに」
「ウィッカン、側妃の分際で正妃である私の判断に文句をつけるつもり、あ、そうそう、私も体調が回復したのでこれからきちんと正妃の仕事をいたしますね。
側妃殿、体調不良の間の代行助かりましたわ。これから公式の場には私が出ますので下がっていただいて結構よ」
怒りに震えながら第三王子の母親は謁見室を後にした。
「あら、退室の挨拶もろくにしないなんてどうしようもないわね、それから被害者とはいえ行方不明になっていたビクトリアちゃんをルキウスの婚約者のままにするなんてできないわね、ヘグニ様、婚約は取り消しということでよろしいですよね」
「ああ、そうだな」
「辺境伯殿、ビクトリアちゃんを、貴族籍から抜くのはだめよ。貴族じゃなくなったら会えなくなっちゃうもの」
「ヘグニ様、この問題はこれで決着ということでよろしいですわね」
「あ、ああビクトリアの件はこれでよい。辺境伯もご苦労だった。下がってよろしい」
王都の辺境伯邸に戻って認識合わせをした。
正妃の強力な支援があったおかげでビクトリアの婚約解消と貴族籍維持は問題なくできた。
さらに正妃のお気に入りというポジションなので今後、あからさまに後ろ指をさされることもなさそうだ。
シャーロットからお礼の連絡を入れると、王妃からシャーロットとビクトリアに王妃宮に来てほしいと頼まれた。
「ビクトリアちゃん、早速だけど解毒や解除はビクトリアちゃんの力なのでしょう」
「王妃様、あの力は私の夫から与えられているもので私の力というわけでは」
「あら、結婚してたの、シャル聞いてないけど」
「エリザベス様、ビッキーが呪いを掛けられてダンジョンに転移されたところを冒険者に助けられたとご報告させていただいていますが、その冒険者の中にビッキーの夫がいたのです」
「かけられたのはニンフォマニアックの呪いで間違いないのよね」
「お母さま、ここからは私が」
ビクトリアがわが身に起こったこととヨシトのことを説明した。
特にヨシトについては自分の能力が知られることを嫌っており、権力や地位などは全く望んでおらず、下手に与えようとすると外国に逃げてしまうだろうから注意が必要だと説明した。
「あら、でも、ビクトリアちゃんのためならその力を一番知られたくない王妃にも使ってしまうの」
「あ、ヨシト様は目立ちたくないだけで人の役には立ちたいと思っているのです。あと今回は私のためならある程度知られてもやむを得ないと思われたようで」
「ら、あら、愛されているのね。そんなビクトリアちゃんにお願いだけど、ヘグニ王も多分ウィッカンに呪いを掛けられているみたいなのね。
彼にわからないように呪いを解くことはできるかしら」
「はい、王妃様の部屋でお人払いをされたうえで、私どもの応接間に目隠しをした王様を転移させて、解呪してすぐにお部屋にお戻しすればできます。ほんの一瞬のことですし」
「あら、じゃあ待ってて、彼を連れて来るわ」
「おう、辺境伯夫人にビクトリアか。本当にそのほうらと妃は仲が良いな」
「ええ、いつも私のことを気にかけてくれて、今日も素敵なプレゼントを持ってきてくれたみたいなの。あなた少し目を閉じていてくださる」
王の目を妃の手が覆うのを確認するとすぐに応接間に行き解呪と解毒をして王妃の部屋に戻った。
「これがプレゼントでございます。他国の秘蔵のお酒でコニャックと申しまして大変酒精が濃いものですので夕食後にお二人でお楽しみいただけると幸いです。」
「ほう、気遣い痛み入る。何か体調まで良くなった気がする。エリザベス、我は仕事に戻るが二人にはよくしてやってくれ」
王が部屋を出ていくと王妃もお礼は追ってするからと言って二人を下がらせた。
王の呪いが解かれた後の対応は目を見張るものがあった。
ウィッカンの所業を洗い上げると、王に対しては魅了の呪いで側妃の意向を優先させるようにし、併せて知性が鈍るような毒を継続して与えていたのだ。
正妃に対しては衰弱の呪いを掛けていた。
いよいよ捕縛するタイミングが来た時にウィッカンは母国に出奔してしまった。
ルキウスは母親の言いなりだったことから死罪にはせず、断種をしたうえで臣籍に降下させた。王都にて法衣貴族として一生を終えることになるらしい。
ビクトリアは治療の褒美として新たな貴族家を興すことになり男爵位と王都内の屋敷および領地として辺境伯の領地からトヌムの町を賜った。