5.【トヌムの町を脱出しました】
準備がととのったので夜明け前に町を出ることにした。御者をマシューがして、隣りに私が乗っている。リタ、ガラハド、アイリーンの3人は馬車の中だ。
門番に挨拶をするとなぜか引き留めようとするので必要最低限だけ付き合って馬車を進めた。
しばらく進むと、町のほうから馬に乗った男たちが20人ほど追いかけてきた。
大声で代官の使いだからとまれという。
止まると男たちの中からマシューの知った顔が出てきた。
「マシューさん、中にいるお嬢さんたちを置いて馬車から降りな、この間と同じように縛るだけで勘弁してやるから」
「目的はなんだ」
「目的か、お前らもわかってるから町を出ていくんだろ。お察しの通り代官様がリタを岡惚れでな、このまま連れて帰ってお世話したいってわけだ。
ついでに教えてやるがグレー商会の旦那がアイリーンにご執心でな、この前は魔寄せの粉で呼んだゴブリンが多すぎてうまくいかなかったが今回はそんな失敗せずに手に入れようってわけだ。」
「なんだと私たちの両親を殺しアイリーンに大けがをさせたのはグレー商会のやったことだったのか。許せない、辺境伯様に直訴して罪を償わせてやる」
「抵抗するだけ無駄だぞ、とっとと馬車から降りてくればお嬢さんたちは無事だし、お前らも命は助かるかもしれねえぞ」
ニタニタ笑いながら近づく男たちの隙をついて馬車を走らせる。すでにリタ達3人は家に帰らせている。
軽くなった5頭立ての馬車は男たちの馬と変わらぬスピードで疾駆できる。
少し走ると急カーブが続く崖沿いの道に入った。普通なら崖から落ちないようにスピードを落とすがそんなことは気にせず馬を疾駆させる。
スピードを出し過ぎたせいで崖から飛び出した。ここは谷が深くオーバーハングになっているので堕ちたら最後、死体の確認もできないことで有名な場所だ。
(男たちからは見えないよな、馬も馬車もマシューもまとめてゴーホームっと)
無事に厩と車庫に戻るとガラハドたちが待つダイニングに入った。
「ガラハド、アイリーンさん、リタさん待たせて申し訳ない。あいつらには私たちが崖下に落ちて死んだと思わせておいた。このまま領都に行って爪を研いで仇討ちの機会を探ろう。今は力をつけないと思いは遂げられない」
「ええ、わかりました、本当に何もかも助けていただいてありがとうございました。そのうえゴブリン襲撃の件も事故ではなく仕組まれたものだったなんて絶対に許せません」
「ヨシトさん、私も仇討はしたい。ただ、ヨシトさんに血なまぐさいことはさせたくないです。
私とガラハドが中心で方法を考えますので、私たちのやることに目をつぶってくれるとありがたい。」
「そうですね、仇討ちの方法はいろいろとあると思うから少し考えさせてください、できるだけのことはさせてもらいます。
それから、今日はもう移動はしないけど、今、玄関から出ると崖から落下中になってしまうから、いったん最初の草原につないで馬を放牧してやろう。あいつらも随分頑張ってくれた。」
「ヨシトよう、リタは料理、アイリーンは清拭、マシューは商売と今後やることが見えているけど、俺だけ役に立つことが無くて取り残されてるみたいだけど」
「ガラハド、実はお前に頼みたいことがあるんだ、これを見てくれ」
【ヨシトのステータス】
LV1
人種:人族
HP:50/50
MP:10/10
攻撃:3
防御:3(+30)
体力:10
速さ:5
賢さ:200
職業:未取得
スキル:逃げ上手
「ぶっ、なんだこれ、4,5歳児並みじゃねえか。これだとヘタしたら殴られただけで死ぬぞ。」
「そうなんですよ、だから早くステータスを上げなくてはと思っていて、その支援とスタータスが上がるまでの護衛をお願いしたいのですよ。ステータスさえ上がれば死ぬ前に家に帰ってこれると思いますので」
「ああ、分かった。ぜひとも協力させてくれ」
「ヨシトさん、そういうことでしたら今後の予定はヨシトさんのレベルアップを最優先にするとして、他に優先することの認識合わせをしたいな」
「そのことだけど、先ほど仇討ちに協力させてもらうと言ったけど、私のいた国の仇討ちについて少し説明させてほしい。
私の国では個人間の復讐や仇討は基本的に認められていない。
その代わり相手の犯罪行為を詳らかにして、法に判断をゆだねるというやり方だ。
なじみのない考え方だと思うがグレー商会の会長をマシューが殺すと、マシューが犯罪者として裁かれる可能性がある。
私としてはホームズに犯罪者になってほしくない。
なのでグレー商会のやったことを領主に知らせて領主にさばいてもらう方法を取りたいと考えているんだ。
そのためにはマシューの意見を領主が聞き入れるようにマシューの地位を高めることまずやりたい。
幸いスマートホームの機能を利用すれば数年でマシューを大商会の会長に押し上げることは可能だと思う。
そのうえで領主に話を持っていくのはどうだろうか」
「即答はできない。リタやアイリーンと相談して答えを出させてほしい。ただ今日明日、仇討ちに行けるわけでないことは認識している。」
「私の提案を検討してくれるだけでもありがたい。それからもう一つ、新婚の君たちには大変申し訳ないのだが拠点が決まるまでは子供は作らないようにしてほしい。強制はできないが避妊をするなら私の国で避妊に使っていたコンドームが提供できる」
「ヨシトさん、実は避妊のことはマシューと相談済みなのです。
幸い私は清拭魔法が使えるので妊娠の心配はないのです。
教会では強制性交された女性のために清拭魔法で体を清め望まぬ妊娠を防止することもやっていました。」
「アイリーン、私にも清拭魔法をかけて」
真っ赤な顔をしてリタがアイリーンの耳元でささやいた。
(そういうと昨晩ガラハドがリタの部屋に入って行ってたな。ちくしょう二組とも羨ましいぞ。ていうか清拭魔法で避妊ができるのか、もしかして清拭魔法って汎用性が高い?怪我した時の傷口を洗うとか言ってたよな)
話がひと段落するとマシューがテーブルに地図を広げて最初にどの街を目指すべきか話始めた。マシューは最初に我々が会った橋にでてそこから馬で領都に向かうのがいいという考えだった。
ガラハドもおおむねその案で良いが領都に着くまでに私のレベルアップをしておきたいという意見が出た。
リタからは領都に行くまでに途中の村で商売をしてお金を増やしておきたいとの提案があった。
答えを出す前にティーブレイクをすることにして地図を本棚に片づけた。
この時、家の照明が点滅した。
スピーカーがドラムロールをならし、「異世界の地図を入手しました。 アカシックレコード検索のレベルが2になります」と奏でた。
アカシックレコード2:地球のすべての書物がディスプレイで閲覧できる。
:異世界の地図をすべてディスプレイで閲覧できる。
ティーブレイク後に改めて地図を大画面に映し検討を再開する。
精緻な地図に村・町・都市が表示され拠点を選ぶとそこの主産業・人口・不足物などが表示される。
「すごいなこれは、これで行く順番を検討し直そう」
次に行く村を検討しているときにゴーンがダンジョンの表示に気づいた。領都の近くにゴブリンダンジョンがある。
初心者のレベル上げに最適だそうだ。
私の参加は必須だが皆もいったほうがいいとのことでそのための装備も整えた。
方針が決まったので夕食だ。
リタが地球の料理の本を見ながら作り始めた。ガラハドが楽しそうに手伝っている。
私はアイリーンに医療関係の本を読むと清拭魔法の使い勝手が良くなるのではないかと話した。
特に毒・細菌・ウィルス・公衆衛生について知ってもらうことが重要と考えていると伝えた。
マシューには商売とマーケティングに関する本を読んでもらうことを提案した。
リタとガラハドには食後に話をした。
リタには料理以外に食料・栄養に関する本、ガラハドには武術に関する本を進めた。
日々のルーチンも徐々に整っていく
乗馬の練習を兼ねて私とゴーンの二人で街道を進んでいく。
ホームズは家の中で訪問先の分析を行い、リタとアイリーンは担当分野の本を貪るように読んでいた。
ダンジョンが近くなり街道から外れ草むらをかき分けながら進んでいると、マシューが毒蛇にかまれた。死ぬことはないが二三日は具合が悪くなる程度の毒らしい。
ホームに戻るなりアイリーンがマシューのかまれたあたりを凝視し始めた。見つめているうちにアイリーンの額には汗がにじんできたが、それと反対にマシューのかまれた辺りの腫れが小さくなっていった。
「毒を清拭できました」
アイリーンは地球の本を読んでいるうちに清拭魔法で毒を除去できるのではないかと考えていたそうだ。
この時、家の照明が点滅した。
スピーカーがドラムロールをならし、「アイリーンが蛇の毒を解毒した方法を検知しました。このことにより治癒のレベルが4になります」と奏でた。
治癒4の内容を確認する。
・所有者およびメンバーがホームに戻ると怪我が直ちに治癒する。
・所有者およびメンバーがホームに戻ると体に影響を及ぼす量の毒が除去される。
治療3:所有者およびメンバーが帰宅すると怪我が直ちに治癒する
:所有者およびメンバーがホームに戻ると体に影響を及ぼす毒が除去される。
:所有者が指定したゲストの怪我の治癒と解毒ができる。
怖くて試すことはできないがまた一つ我々の安全度が上がった気がする。