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姿を現わしたもの Ⅱ

「魔族どもが出てましだぞ。タルドゥノア公爵」

「ああ」


 ……見ればわかる。


 その言葉を飲み込んだタルドゥノアはさらに魔族たちの様子を眺めていたのだが、やがてある言葉が口から洩れる。


「……少ないな」


 タルドゥノアのその言葉は正しい。

 こちらは十万人ということは、それなりの者が見ればわかること。

 それに対して、姿を現わした魔族軍は驚くほど少ない。


 ……その程度の数が我らに勝てると思ったのか。


「敵の数はおよそ二万」


 やがて物見兵からの報告が入る。


「舐められたものですな」

「まったくだ」


 実感の籠ったシャンティオンの言葉に当然のようにタルドゥノアが応じると、一瞬より少しだけ長い間の後にシャンティオンはライバル関係にある男にある提案を持ち掛ける。


「どうかな?タルドゥノア公爵。ここは我らだけで魔族を撃ち滅ぼすというのは?」


 ……あの数なら、我らだけで殲滅できなくはない。

 ……それに、ここで慎重論を唱えたら、腰抜けなどと風潮されかねない。

 ……先を越されたのは残念だが、ここは乗るしかあるまい。


「それは素晴らしい……」

「そうはいきません」


 シャンティオンの提案をタルドゥノアが受け入れかかったところで、それを遮る声がふたりのもとに届く。


「ルルディーオ殿」


 ふたり分の迷惑そうな視線を軽く払いのけたのはボナール軍の魔術師長オーバン・ルルディーオであった。


「ボナール殿の策を忘れたわけではあるまい。それにあれがすべてをいうわけでもないかもしれないだろう。軽々しく動けばひどい目を見るだけだ」


 師が出来の悪い弟子を言い聞かせるような言いように表情を厳しくしたふたりのうちのひとりが口を開く。


「どういうことかな?」


 やってきたタルドゥノアの問いにすぐには答えず、ルルディーオは草原に姿を現わした敵軍を指さす。


「さすがにあれは少なすぎる。たとえば、魔族が先に陣を敷いていたのなら、この差が生まれても不思議ではない。だが、向こうは我らの数を十分に把握してから現れた。ありえない話だ」


 瞬殺され、黙りこくるタルドゥノアに代わって、今度はシャンティオンがルルディーオに詰問気味に言葉を放つ。


「聞くところによれば、魔族は『自分たちは人間の五人分の力がある』と豪語しているそうではないか。十万対二万。数は合う」

「それでは相打ちにしかならない。そういうことなら、キドプーラで迎え撃ってもいいだろう。この数の差を知りながらやってくるのだ。十万人の我々に勝つ策があると思って間違いない」

「では、試みに問う。それはどんな策なのかな?ルルディーオ殿」

「私は魔術師であって武人ではないのでそこまではわからん。だが、どんな策かわからないところにわざわざ出かけていくのは愚か者がおこなうことだ。とりあえず、ここにいるかぎり私の防御魔法で攻撃魔法を防ぐことはできる。守りを固めながら敵の様子を見ることが一番ではないのか?」

「……なるほど」


 ふたりの公爵をあっさりと退けた魔術師だが、自らが示した魔族たちの策を探り当てることをこのふたりに任せるほど寛容ではない。

 もう一度敵部隊を眺める。

 そして、すぐに認識する。

 それを。


 ……なるほど。


 ……二万人の軍であるが、あそこにいる魔術師はふたりだけ。

 ……そのうちのひとりが展開している防御魔法は見たことがないくらいに強力。

 ……私の全力でも破れまい。

 ……間違いなくあれがクペル城の魔術師を狙い撃ちにした者だ。

 ……だが、あれだけの防御魔法を展開していては、こちらを攻撃するだけの余力はあるまい。

 ……ということは、奴らが用意している策は魔法攻撃以外ということか?

 ……まあ、いい。


「ベズブル」


 ルルディーオは名を呼んだのは、弟子のひとりで伝令役として連れてきていた三人の魔術師のうちのひとりベロデ・ベズブルである。


「この書をクペル城に届けよ」


 短い文字列を書き綴った羊皮紙を手渡す。


「あれは用心すべき者だと言葉を添えよ。行け」


 その言葉に一礼した若い男は一瞬姿を消す。


 ……まあ、敵将がどのような策を講じるのかはボナール殿が考えることだが……。

 ……これはなかなかの見ものだな。


 取り巻きとともに、的外れな戦術談義を繰り返すふたりの公爵を嘲笑しながら、フランベーニュ有数の魔術師は心の中で呟いた。


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