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フランベーニュの英雄対魔族の救世主 Ⅱ

 さて、姿を現わしたフランベーニュ軍増援部隊を発見した魔族軍は具体的にどのような動きを見せたのか?

 もちろん最初にそれを発見したキドプーラを守備していた兵士たちは驚いたものの、大慌てで呼び出されたペパスはグワラニーから拝借していた双眼鏡でその様子を眺め、兵士たちのそれとは対照的な表情を見せ、こう呟いた。


「……少ないな」


「いやいや、最初に五千。続いて五千。最低でも一万。あの様子ではまだ来るだろう。二万ないし三万にはなるのだろうからさすがに少ないとは言わないだろう」

「なるほどな」


 自らの言葉に対するバルサスの反応に一応は同意したものの、ペパスのそれは上部だけのものだった。

 敵発見の伝令をグワラニーのもとに送り出すと、ペパスがバルサスともうひとりの将軍ナチヴィダデに目をやる。


「あのフランベーニュ軍の目的は何だ?」


「目的と言われても……」

「正確なところはわからないが、可能性があるものはとりあえずふたつ。クペル城救援とキドプーラ再奪還」


 戸惑い気味のバルサスに続いてナチヴィダデが口にしたその言葉にペパスが頷く。


「まあ、普通はそうなるな。だが、そうなると……」


「どの時点かもわからないし、その方法もわからないが、とにかく奴らは渓谷内の戦況を知っていることになる。知っていながら、来たのはたった一万なのか?」

「あれだけの大敗を喫していながらあまりにも少ないということか?」


「まあ、急いでいたということであれば、話の筋は通るが……ん?」


 ふたりと話ながら、さらにフランベーニュ軍の様子を眺めていたペペスはあることに気づく。

 いや。

 あるものに気づいたというほうが正確だろう。

 

「これはおもしろい」

「何がおもしろいのだ?」

「これだ」


 それを見た途端、漏れ出したペペスの言葉の意味が理解できずそう問いかけたバルサスにペパスが手渡したのは羊皮紙製の冊子である。


「これは?」

「言葉どおりフランベーニュ軍の軍旗表だ」


 ペパスの言葉どおり、表紙にはフランベーニュ語で「軍旗識別表」と書かれている。

 だが、悲しいことにバルサスとナチヴィダデは会話こそできるものの、フランベーニュ語の読み書きはできない。


「申しわけないが、書いてあることがわからないのだが……」

「そうか。では、仕方がない」


 ペパスはそう言って、バルサスから戻された軍旗表をパラパラと捲り、すぐに見つかった目当てのものを指さし、それから双眼鏡を渡す。


「あそこにこれと同じ旗があるだろう」

「あ、ああ」

「……同じものだな」


 双眼鏡越しに見えるものと、冊子に描かれている意匠を見比べ、納得するように言葉を口にするものの、実をいえば、ふたりにとってはその旗などより、ペパスから借りたその双眼鏡の方がはるかに興味をそそるものだった。

 だが、ペパスの言葉を聞いた瞬間、それらはすべて吹き飛ぶ。


「あれはアポロン・ボナールが率いる軍の軍旗だ」


「ということは、あそこに『フランベーニュの英雄』がいるということなのか?」

「いや。さすがにそれはないだろう」


 まずそう断言したペパスはその根拠となるものを説明する。


「ボナールは二十万人もの兵を擁しているそうだ。そのような大軍の将が僅か一万の兵とともに敵前に現れるとは思えぬからな。もちろん、ボナール自身をエサに我々を誘い出す手という可能性はあるが、さすがに『フランベーニュの英雄』をエサとして差し出すほどフランベーニュが人材豊富とは思えぬ」


「それと、もうひとつ」


「グワラニー殿が掴んだ情報によれば、奴の軍はブリターニャとの国境に配置されていた。それが一部とはいえ、ここに姿を現わしたということは、命令を受けたのは今日の話ではない。なぜなら、王都から見れば辺境だが、国境をがら空きで出来るほどフランベーニュとブリターニャの関係は良好ではないからだ」


 ……つまり、代わりの部隊が配備されて初めてボナールの軍が動けるのだから、渓谷内の戦いが惨敗に終わったことを知ってからではとてもそのような手配はできないというわけか。


 バルサスとナチヴィダデはペパスの言葉に欠けていた部分を自らの心の中で補う。


「つまり、こうやって渓谷内の戦いが終わった直後にボナールの軍が姿を現わしたのは単なる偶然というわけか」

「そういうことだ」

「ボナールなどという大物が増援部隊として、しかもこんなに早く現れたカラクリはわかった。それでどうする?あの程度の数なら、我々の手持ちでも十分叩き潰せるが」


 特にこれから大軍がやってくるのが確実なら、少しでも敵兵を叩き、兵数の差を埋めるというのは戦術的に間違ってはいない。

 だが、ペパスはナチヴィダデからやってきたこの提案をあっさりと否定する。

 このように。


「おまえたちも今日の戦果で分かったと思うが、グワラニー殿の軍才は我が国随一と言ってもいい。だが、ボナールも我々が知っているくらいの有名な将軍。そして、フランベーニュでは英雄と呼ばれている男だ」


「このふたりが全力で戦う様を見たいとでも言いたいのか?ペパス」

「そのとおり、よくわかっているではないかと言いたいところだが、そうではない。敵前に小出しに兵を出すほどボナールは愚かではないだろう。つまり、あれには必ず意図がある。そして、私はあれを罠と読んだ。もし、私がボナールなら最初の一万に敵が食いついたところを背後から襲う。ボナールならさらに巧妙な罠を仕掛けてくるかもしれない」


「軽々しく動くべきではない」


「つまり、我々がやるべきことは……」

「グワラニー殿に連絡すること」

「そのとおり」


「伝令を呼べ」


「グワラニー殿にこう報告せよ。現れた敵は軍旗から指揮官が判明。敵指揮官はフランベーニュの英雄アポロン・ボナール。ボナールの軍が現れたと」

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