フランベーニュの英雄対魔族の救世主 Ⅰ
ボナールとリブルヌが他人には聞かせられぬ会話をおこなっていた頃。
ふたりに情報を送り届けていたフランベーニュの将軍は極度の緊張状態に置かれていた。
「やってきた二万人のうち、一万以上はクペル城の警備に当たらせたから残りは約八千。魔術師に至っては三隊に分けて我々のもとには三十人ほど。魔族と戦うには心もとない……」
「いや。こんなところで取り繕ってもしかたがない。始まれば一瞬だろうな」
「なにしろ相手は十万以上の我が軍兵士をあっと言う間に葬った者たち。一万など物の数ではないだろう」
「……私はそう思っているのだが、どうかな。アルボン殿、サベ殿」
その男エドメ・ジェネスルットが口にした言葉の先にいたのはふたりの将軍だった。
そのひとりが口を開く。
「そのとおりです、ジェネスルット殿。とは、さすがに言いたくはないところですな」
「せっかく戦場に来たのだ。少なくても、剣を振るうこともなく攻撃魔法一撃で終わるのは遠慮したい」
……まあ、手に入れられるだけの情報はすでにボナール様のところに送っている。最低限の仕事は終わっている。
……だが、ふたりの言うとおり、やられるにしても剣を交えたいものだ。
心の中でそう呟いたジェネスルットは、隣に立つ同格のふたりを見やる。
……それにしても……。
……死地に立っているというのに、いやに堂々としているな。このふたりは。
……怖くないのか?
……いや。
……これはそれとは別の感情から来るもの。
……余裕か?
……だが、戦場で敵と剣を交えた経験は私の方が多いはず。
「おふたりはこの状況でも随分と落ち着いているように見えるが、その秘訣を教えてもらえるかな。今後のために」
自らが持った疑問の答え。
それを手に入れる方法として、ジェネスルットが選択したのは、もっとも手っ取り早く、もっとも信頼できる方法だった。
そして、ふたりからやってきたその答えがこうなる。
「リブルヌ様からの助言」
「助言?それはどのようなものなのかな?」
再び先ほどの方法を使用したジェネスルットに対して、おもしろくなさそうにアルボンがそれを開示する。
「敵将はなかなかの切れ者。自分たちの圧倒的優位性をよくわかっている。おそらく小出しにやってくる相手をその度に叩くようなことはしない。なぜなら、相手が恐れ、やって来なくなれば、大部分を取り逃がすことになるから」
「つまり、我々が手出ししないかぎり放置する。攻撃を始めるのは全軍集結後。それがリブルヌ様の言葉だ」
「ということは、現在の我々には魔族は手を出さないと?」
「実際にそうなっているからな」
「ああ」
「……なるほど。たしかに」
そして、ジェネスルットが納得したリブルヌの言葉は真実を的を射ていたことは、魔族軍の動きからすぐに証明されることになる。




