最初の出来事
さて、こちらに来てからどれくらい経ったのだろうか。
正直な所、この世界にはっきりとした四季が存在しているのかも知らないし、数えてもいなかったのではっきりとはわからない。恐らく二ヶ月ぐらいではないだろうか。髪の伸び具合から推察しただけだがそこそこ合っていると思う。
こちらに来る前に患っていた皮膚病が何故か治っていてそこまで気になっていなかったが、前髪が目にかかり始めている。あの人にお願いすれば切ってもらえるのだろうか。明日にでも確認してみよう。
二ヶ月。最初の数日はさすがにバタバタと動きまわざるを得なかったが、それ以降はほとんどこうやって手に入れた家に引き籠もって寝るなり本を読んで時間を潰している。体を動かすために散歩にも出ているが、本当に歩いているだけなので特筆するような出来事は何も起こっていない。食事や洗濯などの家事も特に苦労せずにこなせるようにしているから時間が経っているのを感じにくい。
正直に言って、元の世界で毎日通勤して朝から晩まで働いていた頃よりも充実はしていないが楽に生活を行えている。娯楽的なものも日々の散歩でそこそこ消化できている。
つまりは、人によってはこちらのほうがいい生活を行えていると言っても過言ではない。
まぁ、生活資金はどうしているんだ?とか、異世界でも仕事をしてないのはおかしいだろとか。
そこについては、どうせこれから家の中に殴り込んできた奴に説明させられると思うから、聞きたければ一緒に聞いてほしい。
「あなたね、異世界から召喚されて行方不明になっているっていう役立たずは」
鋭い目つき、甲高い声、自信に溢れピンと伸びた背筋。ドアの前に立ち太陽の陽を背中にし、風に揺られている長い金の髪はよく手入れされていることがよく分かるほどに煌めいている。
服装はどちらかと言えば街の中で見かける冒険者のそれに近い。少なくとも城からの追って的な感じには見受けられない。傲慢で権力至上主義の塊だったあいつらに冒険者を雇って俺を探させたとは考えにくい。とはいえ
「王様から探せって言われた?」
一応聞いておいたほうがいいか
「違うわよ。この国の人族が私に依頼なんて出すわけ無いでしょ」
「?」
相当アホな表情をしてしまったんだろう。呆れと諦めが入り混じった顔を隠すこともなく見せてから耳にかかっていた髪をかき分けてその耳を見せてきた。
ああ、なるほど。
「エルフ?」
「ハーフだけどね。だから早くこの国を離れたいのよ。あなたを連れてね」
どうやら、召喚されて以降久しぶりにやってきた厄介事らしい。