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リリィの幸せな生活

作者: あんぬ


私リリィは幼い頃から身寄りがなかった。

と言っても、ずっと不幸な人生であったわけではない。


まだ記憶もない赤子のうちに孤児院に預けられた私は、家族を想って恋しくなる感覚を覚える前だったからその面では幸運な方だと思う。まだ言葉も話せないような赤子だった頃に私はこの孤児院に預けられたらしい。シスターたちも詳しい事情は知らないんだとか。

ただ門の前に子供の入ったバスケットと手紙、幾らかのお金と小さなブローチが置かれていただけで、どこの子なのかなどが分かるものはなかったらしい。

唯一分かったことは名前がリリィということだけだった。

ブローチには特に家紋などもなく、ただのリリィとして生活している。

孤児院の外で見かける家族の姿にあこがれる気持ちや貴族や裕福な家庭に引き取られていく子供たちを羨ましいと感じる気持ちもあったけれど、この孤児院での生活にとても満足していた。

しかも、公爵家のお貴族様が自領にあるからと十分な支援をしてくださっていて、シスターたちもとても優しくて、血のつながりはなくてもみんなが家族のような存在だった。


そんな私がさらになんと幸福なことに学園に通う権利を得られた。


学園は普通貴族にしか通う権利を与えられていない。

けれど、生活は近年国王の尽力もあり平民たちも豊かになりつつある。だけれどそれを許せない貴族が平民を虐げることが増えているのが現実だ。

あくまでも平民たちは自分たちの領を支える大事な人材であることを理解させるため、そして今後は能力のある者を正しく評価する社会にしていくため、学園から徒歩圏内に住む16歳を迎える子供を対象にと無作為に選ばれた1人が私だった。


選ばれたとはいえ、周りは皆貴族。

入学前に3ヶ月程基本的なマナー講習があった。


折角の機会だから、私はそれはそれは真剣に教育を受けた。

学園側もこの特別枠入学の生徒からは学費は取らないが、代わりに一定の成績を収めることを義務付けた。その中でも優秀な成績を収めたものには将来の働き口を紹介してもらえるというなんとも好待遇だ。

初めは試験的に私を含む10名だけど、今回のことがうまく貴族子息子女にも平民にも作用するようであれば継続的に行われることになっている。

私たちはみんな自分のため、そして次の子たちのためにも死に物狂いで勉強に励んだ。


そして3ヶ月後。私たちはついに学園に入学することとなった。

とはいえ高位貴族の方々と同じ教室で過ごすわけにもいかないから私たちは男爵位・士爵位の方々と同じ教室で過ごすこととなった。

この国では元々男爵位の方もいれば、何かしらの褒美として準男爵位を与えられることがあった。

士爵位も今は戦争はほとんどないとはいえ、まれに騎士団員に与えられる爵位だ。

褒美として与えられた人たちは基本的には一代貴族だけれど、中には永久的に爵位を与えられる場合もある。

だから男爵位の人は半数近くが元々平民のため大きな差別はないだろうと判断されたためだ。


孤児院での生活ももちろん楽しかったけれど、学園での生活は本当に刺激的で充実していた。

初めのうちはやっぱり高位貴族令息や令嬢にいい顔はされなかった。

けれど、私たちの学ぶことへの貪欲さが返って好印象を与えたようだった。


貴族の中でもやはり、お金で簡単に入学だけはできてしまうこの学園には堕落した考えを持つ人もいるらしく、学ぶことを愚かだと考える人も一定数はいるようだった。

けれど将来責任を問われる身分になる方々は人前でその姿は見せずとも、とても努力をされていた。


私がいた孤児院がある領を治める公爵家の御子息と御令嬢もそうだ。

以前から何度か奉仕活動として孤児院にいらしたときは貴族の人は綺麗な服をきていつも美味しいものをたくさん持ってきてくれてとても素敵な暮らしをしているんだろうなと思っていた。

だけど、一度見学をさせてもらった高位貴族の授業は本当に難しいものばかりだった。

学園を卒業した後に即戦力になるようにと次期王妃として、次期国王として、それぞれが将来の立場を確実なものとするためにそれぞれの想いをもって日々努力されているんだと改めて実感した。。



「はぁ…。」


充実した生活を過ごしているとはいえ、やはり突然の生活の変化に体は疲労してしまう。


「お、珍しいこんなところで休憩なんて。」


彼、ニックは私と同じ特別入学で、お父さんが騎士団におり自分も学園を卒業したら騎士団に入団する予定だと教えてくれた。

栗色の柔らかな癖毛に頬に浮かぶ雀斑、お父さんから師範を受けていたからか今まで周りにいた子たちよりも一回り大きな体をしているが、人好きのする笑顔でみんなから弟のようにかわいがられている。


そんな彼は私のこともいつも気にかけてくれている。

特別入学生の中でも私が唯一身寄りも後ろ盾もない特に異質の存在だからかと思っている。


「少し疲れちゃって。休憩をしていたの。」


「まぁ、ここにきてからずっと勉強勉強だもんなぁ。それにリリィは淑女教育?も受けてるだろ。他の貴族令嬢との授業は気が滅入るよなぁ。」


「それを言うならニックだって。剣術とか武術も習っているんだから余程大変でしょ。」


「僕は小さい頃から父さんに習っていたし、騎士団の人たちにも指導をしてもらったりしてたから慣れてるから。」


彼の言葉に癒されてしまうのはきっと彼の屈託ない笑顔が素敵なせいだけではないと思う。


「でも、学ぶことは楽しいわ。世界はとても広いんだもの。私のような孤児にも希望を与えられるような存在にならなくっちゃ!」


リリィは偉いなぁと優しく頭を撫でてくれる彼にも、きっといつかこんなすごい友人がいたんだぞと言ってもらえるように努力をしたい。誇れる存在になりたいと思う。


「じゃ、私は今日も偉いので帰って勉強に励みます。ニックも体調管理には気を付けてね。」


私のお道化た口調にニックも笑いながら訓練場に戻っていった。


有難いことに特別入学生は全員学園の寮で生活をしている。

より勉学に集中できるようにという配慮と高位貴族を脅かす情報を外に漏らさないようにという打算があるとマナー講師の先生が冗談半分に教えてくれた。

長期休暇や特別な用事等がない限りは基本的に学園の外へは出られない。

簡易的なベッドとクローゼット、机と椅子にミニキッチン、トイレやシャワーまでそれぞれの部屋にあって孤児の私には十分すぎるほどの設備がそろっている。

キッチンでお茶を沸かして勉強に専念することにする。


勉強をしているとあっという間に時間は過ぎていく。

文字や簡単な計算はシスターに習っていたけれど、学べば学ぶほど知識は豊かになるしもっと学びたいもっと知りたいという欲求が芽生えてくる。


「あぁいけないこんな時間。もう寝ないと。」


気が付けば時計に針は23時を指そうとしている。

この寮は23時にはすべての部屋が完全に消灯してしまう。

電気を自由に使えることに感謝しつつリリィは眠りについた。


__________



ある日学園のバラ園を散策していた。

すると遠目に第二王子殿下がこちらに向かってきているのが見えた。


学園内は基本的に平等とはいえ、ある程度のマナーは重視される。

流石にこの場で第二王子殿下のお目を汚すことは憚られる。

足早にその場を退散することにした。


この学園の学園長は王弟なのもあって王族だけでなく高位貴族の子息令嬢もこの国のほどんどが在籍しており、特に私たちの年代には第二王子殿下だけでなく王太子殿下もいらっしゃるから少しでも王族の目に留まるようにと奮起していると聞く。

私たちのような特別入学生は王族の目に留まったとしてもあまり旨味がない。

他の子息令嬢たちに要らぬ反感を持たれては良い就職先にありつけないだろうし、仮に高位貴族の立場を脅かしたところで私たちの命はとても軽い、簡単になかったものにされてしまうだろう。

だからあくまでも男爵や子爵、頑張って頑張って伯爵位を継ぐであろう子息令嬢の目に留まれば万々歳だといえる。


(変に王族の目に留まって愛妾とかになってもいやだしね)


今の王様には妾がいる。

元男爵家の一人娘だったらしい。身分が足りないので妃になることもできず、愛妾とされていると聞いた。

どういうわけか王妃様とは仲が良いと聞くけれど、私は夫を他の人と共有はしたくないと思ってしまう。

平民でも政略結婚はあるけれど、仮にも私は孤児だし結婚したところで相手のお家以外には特に迷惑をかけないから政略結婚なんて無縁だし、大好きな人と結婚して浮気とか妾とか関係のない生活をしたいと考えてしまう私は贅沢者なのかもしれない。



「リリィ、こんなところにいたのね?探したのよ」


彼女は友人のロジータ。元々は平民だけれどお父様の事業が成功して準男爵位となっている。本来であれば一代貴族だけれど、子爵位のダンテ様と結婚が決まっているから将来は子爵夫人になるらしい。すごい。


「ロジータ、どうしたの?」


「もう、忘れちゃったの?今日は騎士団候補生の公開演習、一緒に見に行くんでしょう?」


「そうだった!ごめん忘れてたわけじゃないの!」


「勉強はできるのにそれ以外は抜けてるんだから…。早くいかなきゃ見やすい席は埋まるわよ?」


怒られない速度で急いで訓練場に向かうことにした。


「よかった、いい席にまだ空きがあって。」


「本当に。ごめんね急がせて。」


「いいのよ。私は弟の応援だもの。でもリリィは違うでしょう?」


ロジータには私がニックを特別視していることがバレている。

まぁ、普段行動を共にすることが多いから仕方がない。

ロジータのお兄様はすでに学園を卒業されていて、準男爵から男爵位になれるようにとお父様と奮起しているらしい。

弟のテリーは剣術に覚えめでたく、このままいけば騎士団に入団できるのではないかと言われている。


「でもテリーのことも応援しているでしょう?あ、そういえば今日はダンテ様は?」


「もう寮に戻ってるんじゃないかしら?剣はからっきしだし、自分にできないことを私が喜んでみているのが焼けるから見に行かないって言ってたから。」


「罪な女ねぇ。」


ダンテ様はロジータにぞっこんだ。

2歳上のダンテ様が入学したばかりの頃のロジータに一目惚れをして、猛アタックの末ロジータもころりと落ちてしまった。

口ではつれない態度をとるけれど、なんだかんだでダンテ様のことが大好きなのが顔に出ている。

ダンテ様もそれが分かっているからつい重たいと思われるような口をきいてしまうとこっそり聞いたことがある。昇進正目の相思相愛カップルだ。


「あ、ニックよ、そんなにやにやしてないで愛しの騎士様をしっかり見てなさい。」


照れた顔を隠しながら無理矢理前を向かされた。


「愛しの騎士様って…そんなのじゃないってば…。」


そういいつつも結局目ではしっかりとニックを追ってしまうから私も救いようがないなと思う。


ニックの対戦相手は2年生のとても体格のいい人だった。

とても力強く剣を動かしていて、ニックは防戦一方かと思われたけれど、気が付くと相手が地面に倒れていた。


「…彼、強いのね。」


ニックはいつだってピンチをチャンスに変えるのが上手い。

隙を突くのがうまいとも言おうか。


「ニックはそんな簡単に負けないわ。努力を惜しまないのはもちろんだけど才能に溢れているもの。」


「貴女…ぞっこんじゃない…。」


「う、うるさいわよ…。」


ニックはそのあと3回戦まで勝ち抜いた。

だけど4回戦で現騎士団長の長男と運悪く当たってしまい、敗退に終わった。


「ニック、お疲れ様!すごいのね!」


「リリィ、ロジータ様、ありがとうございます。いやぁ、当たりが悪かったよ、でも学べるところがたくさんある試合だった!中々高位貴族の御子息様と手合わせなんてできないし、すごくいい機会だった!もっと頑張るよ。あ、じゃあこれから反省対策会があるからまたね。」


私の頭に軽く触れ、さわやかな笑顔で走り去っていった。


「…彼のことが好きになる理由が分かったかもしれないわ。」


「…っ!?だめよ!」


「理由が分かっただけよ。私の心はダンテのものだもの。」


「…ロジータがそんな言葉を言うほど衝撃だったのね…。」


彼はずるい人だ。

騎士団長子息と当たったことに文句も言わず、寧ろいい機会だったというし、当たり前のように私の頭を撫でていく。

こんな素敵な人を好きにならない理由がない。


「…でも、私はニックとどうこうなりたいとは思わないの。」


「どうして?ニックもきっと貴女のことが好きと思うわよ?それにとってもお似合いだし。」


「…ありがとう。そうは言っても私は孤児だし、お付き合いはいいにしても結婚ってなった時にニックのお家になんの旨味もないわ。お金もないし後ろ盾もない。手に職があるわけでもないし。」


「そうはいっても、ニックも爵位はないし難しく考える必要なんてないと思うのだけれど。今あれこれ考えていても仕方がないでしょう?実際に話してみないと分からないことの方が多いんだし。付き合ってみて、やっぱり違うなってなることだってあるのよ?まだまだ私たち若いのよ。後悔しない選択をすべきだと思うわ。」


「…そうね。ありがとう。ロジータ様様ね。」


後悔しない選択。

たしかにこの気持ちを伝えずにいることはきっと私にとって後悔する選択なのかもしれない。

だけど、伝えてしまったことで後悔することもあるかもしれないと思ってしまう私は自分で思っていたよりもずっと臆病な性格だったのかもしれない。


**********


なんの行動も起こせないまま2年生になった。

私たちの存在がいいように生徒たちに作用すると判断されたらしく、16歳の一般市民の子供たちもこの学園への入学が許された。

とはいえ、私たちと同じように3ヶ月の学習期間を経て、一定の学力・マナーを身に着けたものだけだった。

あくまでもこの学園の主体は貴族。彼らを優先させるのは当たり前のことだ。

平民の子供は多いけれど、学園に入学できるのは10人前後が限界のようだった。


ニックと私の関係は特に進展のないままだ。

相変わらずニックは私に対して距離感が近い。

この一年で気が付いたことは、意外と誰にでも距離が近い訳ではないということだ。

男性に対しては距離感は近いものの、私にするように頭を撫でたりはしていないし、女性に対してはむしろ一定の距離感を保っているように思う。

…私が特別なのではないかと考えてしまうのは自惚れなんかじゃないのではないか、そう考えてしまう。


「あれ?リリィも今日はおでかけ?」


「うん。少し暇だからお祭りにでも行ってみようかと思って。孤児院も出店してるはずだから見に行きたくて。」


今日は春の訪れを祝うお祭りが王都内で行われている。

この日ばかりは特別入学生も学園からの外出が認められている。

この国は王が優秀でとても豊かである。年に何回かこうして大きなお祭りがあり、国の一大イベントとして貴族も市民も全員が参加するといっても過言ではない。


私がいた孤児院もシスターと一緒に子供たちがお菓子や刺繍、木のおもちゃなどを作ってバザーを行っている。チップをはずんでくださる方もいて、そのお金は寄付金として有り難く孤児院の運営費や生活費に賄われている。

差し入れでお菓子や食べ物をくれる人もいて普段は食べられないような味付けの濃いお肉や彩の綺麗なお菓子にありつけるから子供たちも一生懸命におてつだいをする。

子どもながらにとても楽しかった記憶だ。


ロジータはダンテ様とデートのようだし、他の友達も婚約者や恋人と出掛ける人が多い。

だから私は一人で出掛けようと思っていたのだか。


「なら一緒に行かない?僕も一緒に行く相手を探していたところなんだ。」


「え、いいの?」


「もちろん。去年は何人かのグループでいったけれど今年は僕一人じゃ不満かい?」


「そんなことはないわ。嬉しい。」


「じゃあ行こう!」


そういうとなんのためらいもなくニックは私の手を取る。


「ニック!?」


「今日は人が多いんだ、はぐれないように…ね?」


どこか意地悪そうに頬を染めながら笑うニックに思わずときめいてしまう。


お祭りは孤児院時代の家族(シスター)たちや一緒に生活をしていて引き取られていった子たちも多くいて久しぶりの再会に会話を弾ませてしまう。

その間もニックはにこにこと話を聞いていたり、会話に混ざってくれたりと終始楽し気でいてくれて助かった。


「そろそろなにか食べようか?お腹もすいただろ。」


「そうだね!さっきシスターが教えてくださった出店を探してみる?」


「そうしよう。」


孤児院から学園に入学するときに、シスターがいくらかのお金を持たせてくれた。

さらに学園で教えられたマナーや食べ物のレシピ、新しい刺繍の図案を学園に許可をもらって私なりにまとめたものを送ったり外出した時に教えることでお給料をいただいている。

孤児の私にもこうしてお金にある程度困らないようにしてくれていることに感謝しかない。


シスターが教えてくれた出店は串焼きとフルーツジュースのお店だった。

値段はリーズナブルなのに、味がとてもおいしい。


「シスター、いいところを教えてくれたね。」


「本当だな。こんなに美味しいのにそんなに並んでもいないし、いいなぁ。」


ニックは肉串を数本おいしそうに食べている。

喜んでもらえてよかった。


「リリィは鳥にしたよな?こっちの牛もうまいから食べてみてよ。ほら、持ってるからかぶりついて」


差し出された串に躊躇いながらも口をつける。

こういうとき、ニックはずるいと思う。


「…美味しい。」


「だよなぁ!リリィの方も一口もらうよ?」


そういうと私の手ごと串を掴んで一口頬張る。


「鳥もいいなぁ!いい塩加減。」


恥ずかしくも、ニックの笑顔に目をそらせない。


「どうした?ずっと顔をみて。…ソースついてる?」


「ふふふ。ついてる。右頬。」


「取って?」


「しょうがないなぁ。」


持っていたハンカチで軽く拭う。


「ありがとう。リリィもちょっとついてるぞ?」


「え?恥ずかしい。どこ?」


ハンカチで拭こうとする私より早く、ニックが親指で口の端に触れる。


「ここだよ。おっちょこちょいだなぁ。」


そういいながら口に触れた指をなめとった。


「え!?ちょ、ちょっと、」


「あぁ、つい。」


あははと笑うニックは本当にずるいと思う。


それからいくつかの出店を回っていくとあっという間に門限の30分前になった。


「あっという間だね。」


「本当だなぁ。…最後にあの店を見てもいいか?」


指さす方向に目をやると、ミニブーケを取り扱うお店だった。


「あらいらっしゃい。どれにするかい?」


「百合の花はありますか?」


「あるよ、これはどうだい?」


「…いいですね。これ一つお願いします。」


「彼女へのプレゼント用かい?かわいい子だね。」


にやにやとしながら花束を包んでくれる。

彼女ではないからいたたまれない気持ちになってしまう。


「いえ、これから告白するんです。成功するように飛び切り可愛く包んでください。」


ニックの突然の言葉に思わず目を疑ってしまった。


「ははは!そりゃあいいね!きっとうまくいくよ!そんな顔してるもの!」


「ありがとうございます。じゃあ。」


私が唖然としている間にお代を払って近くの広場まで連れられた。


「リリィ?大丈夫?」


「え…ニック、えっと、告白って?」


「そのままだよ。…リリィ、僕はね、ずっと君のことが好きなんだ。いつも一生懸命に勉強しているところとか、優しいところなんかが。去年一年間僕はずっとアピールをしてきたつもりだったんだけど、伝わっていたかな?将来僕といっしょにいてほしいんだ。まだまだ何もない僕だけど、…どうかな?」


「…私だって何にもないわ。後ろ盾だって…。私でいいの?」


「リリィ、君だからいいんだ。僕はリリィが好き。後ろ盾なんて僕だってないよ。」


「私…私もニックが好き。ずっと好き。ニックとの将来を憧れるなんてしちゃいけないと思ってた。ニックは素敵な人だから。だけど、私もっと頑張るわ。貴方とずっといられるように。誇れる存在になるように。」


思わず泣きそうになってしまう。

ありがとう、小さくそういうとニックは優しく私を抱きしめてくれた。


__________


それから私とニックは正式に婚約者となることが決まった。

ニックのご両親も私のことを認めてくださった。

私が孤児であることは特に気にしていないらしい。自分たちに可愛い娘ができるだけだと言ってくれた。

ロジータは私たちが付き合うことになってとても喜んでくれた。

相変わらず口ではつんつんしていたけれど、そらした目が笑っていた。


学園を卒業した私は孤児院や教会で教師として働くこととなった。

以前から作っていたマナー本や図案をまとめた資料がとてもわかりやすいとほめていただき、学園からもぜひ子供たちの将来のために役立ててほしいとお言葉をいただいた。

ニックは無事に騎士団に入団することができた。

恵まれた体格に抜群のセンスで、入団して早々士爵位を頂戴するのではないかと言われているらしい。


---数年後、士爵位を頂戴し、かわいい二人の子供に恵まれ幸せな暮らしを送り続けるのはまだ未来の話


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