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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第9章 王都の戦い
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【2】 撃退

魔法使いエーデルヴォルフ邸からの帰路、馬車の中。

「なんとか事態は好転しそうですね」

ブルーノがラーベフラムに話しかける。

「そうであればよいがの」

明らかに魔法使いとの対面はうまくいったのに、ラーベフラムの顔が曇っている。

「どうしたの、おばば

その様子が気になったのか、エレオノーラが声をかける。

「確かにうまくいっているように思える。しかし返ってそれが心配だったりもする」

「まぁそうね、用心に越したことないわね。敵勢力は未だ健在なわけだし、現時点ではまだ何もわかっていないし」

ブレンダがつぶやく。


だが、ここで馬車が突然止まった。

「どうしました?」

急停止の衝撃に、少し体制を崩したブレンダが御者に尋ねる。

「それが、急に男が前に立ちふさがりまして」

それを聞いて、ゲルンがひょいと御者窓から前方を見る。

ゲルンの顔色がサッと変わった。

「ブレンダさん、以前宿舎を襲撃してきた男です」

「ゲルン、あの暗殺者か?」

「エルゼベルト、おまえも見てみろ」

ゲルンに問いかけた魔王の娘に、ゲルンが声を返す。

エルゼベルトもゲルンにならって馬車の前にいる男を見る。

「この間、王城交渉の護衛に行った帰りに戦った男です。敵と見て間違いありません」

エルゼベルトがブレンダ以下のエギュピタス要人達に振り返り、こう告げた。


「よし、私が出てみる」

そう言ってゲルンが馬車から降りた。

街道途中。

しかしもう宿舎と指呼の間。

遠目に門が見えている。

それを見て馬車の中ではエルゼベルトがブレンダに、

「ブレンダ、ゲルンが敵を引き付けてくれるはずだ。我々は馬車を宿舎に入れてしまい、それから迎え撃とう」

と言ったが、ブレンダは首を横に振った。

「ダメです。敵は一人ではありません」

「姫、わかるのですか?」

エレオノーラが尋ねると、こめかみを押さえながらブレンダが答える。

「たぶん宝玉の力でしょう、魔力反応が検知できます。あと二人、いえ、三人?」

ブレンダはまだこみかみを両手で抑えているので、なにやら頭痛をこらえているように見えたが、そうではないらしい。

慣れぬ感覚になじませ、必死で索敵をしようとしているのだ。


「ならば私も出てみよう」

と言って、エルゼベルトもゲルンに続いた。

「もしこちら側が襲われたら、教えて頂戴。すぐに戻るから」


馬車の前に立っていたのは、以前死霊を操っていた女の後ろにいて、奇妙な幻術を使っていた初老の男。

「おやおや、あなたも同乗されていたのですか」

初老の男、ガルニエ配下のグルーディオがこう言って、ゆっくりと近づいてくる。

「改めて挨拶にまいりました。馬車の中の宝玉持ちを渡していただけますか?」

「挨拶? 戦いに、の間違いだろ」

そう言ってゲルンが剣を構えると、後ろからゆっくりとエルゼベルトも降りてくる。

同時に、グルーディオの背景に、いくつか光の乱反射が見てとれた。


以前この男は幻像を使った。

たぶんそれを既に発動させているのだろう。

そう考えてゲルンは黒剣を抜きながら、周囲の気配を探る。

「ゲルン、他にも2~3人いるみたいよ」

エルゼベルトが後ろからこっそり耳打ちする。

「わかった」

ゲルンはそう言って、周囲の気配も探る。

そして同時に、黒剣を通じて周囲に殺気を放った。


周囲に霧が差し込み始める。

自身の気配を隠そうとしてのことだろうが、街道での戦が人目を避けられるのでかえって都合が良い、と考えてゲルンが殺気を放ち続ける。

するとそれへの反応を察知して、エルゼベルトが小さな氷剣をいくつかの場所へ放った。

藪の中、並木の中、そして馬車の影。

そこから3人の男女が現れる。

一方、ゲルンの方はどこからともなく襲ってくる毒針を叩き落としていた。

霧の中からの攻撃なので、撃った場所がわからない。しかし既に一度体験した攻撃だ。

この程度なら躱せる。

そう判断して、毒針を弾きながら、周囲の気配に気を配っていた。

相手が移動しながら撃っていた毒針だったが、徐々にその位置が絞られてくる。

黒剣に殺気を上乗せしたまま、その位置を割り出すべく、走り回りながら毒針を叩き落していく。

そこか!

毒針を放つ者の位置に追いついたゲルンがその場所へ切り込んだ。

霧に隠れたひと隅、そこからグルーディオが飛び出した。

そして元いた場所の幻像は、紙片が引力に惹かれていくように、へなへなと地面に落ちた。


「見事ですな。索敵魔術を使わず、殺気と気配だけで見破りましたか」

そう言ってグルーディオはゲルンと向き合ったあと、次の魔術へと移行する。

四方を取り囲むように、まったく同一の映像が現われ、同じように口元の筋肉を動かしながらしゃべっている。

「しかし逆に言うと、毒針を飛ばさなければ、あなたは私の所在がわかりますまい」

「だが貴様はどうやって私を攻撃するのだ?」

毒針を撃たない、ということは、別の攻撃手段があると言うことだろう。

そう感じて、ゲルンは相手の初撃を躱すべく、精神を集中した。



三人の男女に取り囲まれたエルゼベルトの方は、

「誰かが私の相手をしてその間に馬車を襲う算段かと思ってたけど、全員で相手をしてくれるのね」

と言って、三人を見渡す。

「もちろんです。我々はあなたの力を過小評価したりしていません。山の魔王の御令嬢」

その中の一人、最年少と思しき若い女、ブラーカが言った。

「仮にそうしたとしても、おまえさんは戦いながら馬車へ向かった者にも攻撃をしかけられるんだろ? だったら最初に総力を挙げてつぶした方がいい」

と、今度は中年男のクジョー。

手に何か丸めたものを持ち、それを放つ機会をうかがっている。

「嬉しいねぇ、そこまで私を評価してくれるなんて」

エルゼベルトがこう言って、何かの詠唱に入る。


霧の中、少し風が出てきたように感じる暗殺者三人。

「風を吹かせてこの霧を払うつもり?」

「まさか」

ブラーカの問いかけに、かすかな笑みを浮かべながら答えるエルゼベルト。

「この霧は私にとっても都合がいいもの」

エルゼベルトの答えに警戒を強める暗殺者達。

すると鋭利な音がして、彼らの衣服が、むき出しになっている肌の部分が、切り刻まれていくのがわかった。

三人は同時に後ろに飛びのくが、風が旋回し始め、その中に潜ませた小さな氷刃が、三人を追撃した。

「魔術、氷霧」

エルゼベルトが呟きながら、三人を追い詰める。


どこまでも追ってくる氷刃に対して、まずクジョーが反撃に出る。

手に持って丸めていた者を、ファサッと投げ出す。

すると彼目掛けて跳んできた氷刃が、空中で制止し、パラパラと落ち始めた。

絹糸のように細い、ほとんど無色に近い黄色の糸を空間に張り巡らせれて、氷刃を止めたのだった。

クジョーは氷刃攻撃を防いだのを確認したあと、高速詠唱をして、その糸を視界から消す。

そしてそれをエルゼベルト目掛けて走らせた。


「うっ?」

エルゼベルトは突然、四肢が何かにからめとられたのを感じた。

身動きができない。

「うまいぞ」

若い女ブラーカが、氷刃の攻撃が止まったのを見て反撃に出る。


それは最初、ただの土埃に見えた。

しかしブラーカの周囲に立ち上がったその土埃は、徐々に大きくなっていき、壁のように立ち上がる。

微細な粉末となって渦巻き、戦士達の周囲に動く土壁となる。

だが壁のように見えても、それは細かな塵芥である。

霧に変わってこの塵芥が渦巻き、包み込もうしている。


エルゼベルトはクジョーの放った細い髪の毛のような糸に絡まれて、身動きができないかのようになっていた。

さらにもう一人の痩せた女トペルニータは少し距離をとって、6体の血霊騎士を呼び出している。

クジョーが剣を抜き、エルゼベルトへと突っ込んでいく。

だが、魔王の娘は動じることなく、口元に笑みを浮かべている。


糸にからめとられたエルゼベルトの周囲にその塵芥が立ち込める。


突っ込んでいったクジョーと重なり合うような体勢になるが

「うっ、ぐっ」

といて、頽れたのはクジョーの方だった。

胸部に氷剣が突き刺さり、血を噴きだしながら倒れていく。

エルゼベルトはそれを見ながら、パリ、パリ、と凍り付いた糸をはがしていく。

「これで私を拘束できるとでも思ったの? 魔王の血筋もずいぶんなめられたものね」

これを聞いて、クジョーに続こうとしていたブラーカは足をとめ、身構え直す。


トペルニータは呼び出した6体の血霊騎士に攻撃を命ずる。

「我が名と契約において命ずる。あの女の体液を搾り取れ」

だが呼び出された亡霊のような騎士たちはゆらゆらと揺れるだけで、その場から動こうとしない。

「契約を実行せよ!」

トペルニータが強い口調で命ずるが、血霊騎士は動かない。


「無理よ」

エルゼベルトがトペルニータに向きを変えて言う。

「血霊騎士より私の血筋の方が格上なのよ。そいつらもそれをわかっているのね」

だがトペルニータはまだ命令を繰り返している。

「私の血を! なんなら私の魂も捧げるわ! おの女を殺して!」


依然として動かない血霊騎士の脇をすり抜け、エルゼベルトがトペルニータに向き合い、その胸に氷の槍を尽きたてる。

濁ったようなうめき声を出しつつ、トペルニータは絶命した。

だが、トペルニータが倒れても、血霊騎士は消えることなく、依然としてゆらゆらと動いている。

それを見て魔王の娘が命令した。

「契約者の死により契約は完了した。汝らの元いた場所へ戻れ」

それを聞いてようやく血霊騎士たちが退場していく。

一人、二人、と。


この光景を見ていたブラーカは、土煙の密度を上げて、自身の姿を隠し、逃走を図る。

「結局それは目くらまし程度にしか使えないわけね」

ブラーカの目が銅色に輝き、その土煙の中を凝視すると、若い女の姿が映った。

自身の所在を探られたことを察知してた、ブラーカが脱兎のごとく逃げ出そうとするも、エルゼベルトはそれを許さない。

「私たちの命を狙っているとわかって、見逃すわけないでしょ」

そしてその場から脱出しようとしたブラーカを背中から一刀両断。

土煙が消え、霧も晴れて元いた街道の風景に戻る。

「どうやら霧もあんたが張ってたってことみたいね」

呟くように言って、エルゼベルトはゲルンの対決場所へと戻っていく。

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