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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第9章 王都の戦い
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【1】 誘導 

ゲルン達が王都の魔法使いエーデルヴォルフの屋敷を訪ねていた頃、魔王軍宿舎ではトルカが同行できなかったことをボヤいていた。

「なんでゲルン様は私を連れてってくれなかったのよ」

と、口をとがらせている。

「私たちにはニレちゃんを守る、という大切な仕事がありましてよ」

「そうだよ。魔法暗殺者の目的が宝玉少女らしいってのがわかったんだから、二人同時に外出っていのはまずいだろ」

フリーダとルルが交互にトルカを諫めている。

「そうだけどさぁ。そうだけど、納得いかない」


魔王軍精鋭の少女戦士3人が、宿舎の居間でやや穏便ならざるガールズトークにふけっていると、最年少のニレが申し訳なさそうに呟く。

「トルカさん、ごめんなさい。私がもう少し自分で自分を守れたら」

突然のセリフに驚いて、トルカが弁解する。

「あ、いや、ニレちゃんのことじゃないのよ、それは関係なくて、私が付いていきたかったというか」

「ほら、ニレちゃんにまで余計な心配かけさせちゃダメでしょ」

ルルが半ばからかうように口をはさむ。

「剣士様を困らせちゃってますねぇ」

フリーダはいつものように面白がっている様子。

「もう!」

とトルカはふくれ気味。

「ま、ほんとに貴女のことが好きなら、ついてこいっていうはずよねえ」

嬉しそうにフリーダが言うと、

「違うわ。私のことを大切に思っているからなのよ」

と返すトルカ。


ルルが二人のやり取りにけたけたと笑っていると、ニレが突然立ち上がる。

「ニレちゃん、どうしたの?」

それに気づいたフリーダが尋ねると

「強イ魔力ガコノ宿舎ニ放タレテイル」

それを聞いて、即座に居住まいをただす三人。

「剣士様が帰ってこられたってことではないのよね?」とルル。

「違イマス。敵意ガコチラニ向カッテイマス」

ニレの方は完全に魔焔公の力が立ち上がっている。


「ブレンダさんと剣士様がいないと知ってきたのだとしたら、狙いは...」

こう言ってフリーダはニレを見ると

「ワカリマセン。デモコチラニ敵意ヲ放射シテイルノハ明ラカデス」


「どうする? 迎え撃つか?」

とルルが言うが、フリーダが渋る。

「ダメよ。私たちにはニレちゃんを守る責務がある」

「ニレちゃんの力をここで解き放つわけにもいかないしね」

と言ってトルカがニレに確認する。

「相手の魔力人数はわかる?」

「タブン、ヒトリ」

「わかった。私だけ出てみる。二人はここで待機してて」

「私はエギュピタス側に連絡してくるわ。すぐに戻る」

ルルがこう言って出ていくと、トルカがフリーダとニレに言った。

「陽動の可能性もあるから、念話のチャンネルは常に開いておいて。もし万一こちらが狙いだったら」

「ええ、すぐに伝えるわ。貴女も気を付けてね」

「トルカさん...」

ニレが心配そうに幼い瞳を向けると、

「大丈夫よ。私は強いんだから」

そう言ってトルカも忍び足で部屋を出ていく。


魔王軍側の宿舎・玄関扉を音を立てずに開け、トルカがこっそりと出ていく。

いる。

確かに誰かいる。

だがニレのような強い索敵能力を持つわけではないトルカにはその気配を知るのが精いっぱい。

しかしそれが逆に警戒心を深めていく。

(私でもわかるくらいの強い魔力を放出しているってことは、やはり陽動なのかな)と。

宿舎を離れるのは危険だったが、トルカはこの魔力放射の源を確かめようとして、門を開け、外に踏み出す。


門を出て数歩。

傍らには先日侵入してきた禿げ頭が潜んでいた藪がある。そこに注意を向けるが、放射が出ているのはそこからではない。

(すると)

前方の道路へと続く並木道を見る。

確かにそちらだ。しかもかなり近い。


右手で湾曲刀を構え、左手で背中側に装備している短刀の柄を握りしめる。

道に入ってまた数歩進むと、前方に靄が見えた。

それが少しずつ大きくなり、やがてその中に一人立っているのがわかる。

「こいつか?」

身構えるトルカ。

その人影がやがて一人の人物の姿になる。

灰色の上衣に、これまた灰色のズボンのような下肢衣装。

そしてその上に乗っかった顔は青白く、血の気のまったく感じられない平凡な顏。

「魔王軍の者か?」

口唇だけを動かしてその男が尋ねる。

「ふん、そのつもりで私にもわかるように呼び出したんでしょ?」

「なら話が早い。お前たちの中にいる宝玉を秘めた少女をこちらに出してほしい」

「断る」

と、トルカは即答する。

「その少女の生命は保障する。私たちは少女の中にある宝玉が欲しいだけだ」

「あなた達、解除コードでも持っているっていうの?」

少しの間沈黙していたが、その男が

「解除コード?」

と言い出したので、明らかに口先だけだと判明した。


「私たちの敵と認定していいのね」

トルカはいつものように先制攻撃をかけてもいいのかどうか逡巡していた。

これまで戦ったことも会ったこともない相手、見知らぬ敵だ。

どんな技を使うのかわからない。

それに不気味なまでに表情が変わらない人形のような顔。

これらがトルカに先制攻撃をためらわせていた。

だが

「貴女が宝玉少女をこちらに引き渡してくれないのなら、敵ですよ」

と言うに及んで、トルカの心は決まった。


構えた右手から湾曲刀が放たれる。

刀は回転しながら、その表情の見えない男目掛けて襲い掛かる。

するとどうだろう。

男の姿が小さくなった。

いや、正確には遠眼鏡で調節する時のように、まるで遠方にいるかのように縮んだのだ。

湾曲刀の刃先が元いた男の場所を通過するが、むなしく空を切るばかり。

「え?」

トルカは手元に戻ってきた湾曲刀を握り直して、相手を凝視した。

縮んだように見えた相手はまたもとの大きさに戻っていた。

いや、小さくなった、大きくなったというより、縮尺が変化している感じなのだ。


「今度は私の番、ということでよろしいかな」

淡々と朗読するように男が言う。

このとき、トルカは相手に全神経を集中していて、最初に見た靄が自身から距離を取って八方から包み込みつつあったのに気づいていない。


「魔術、迷妄」

男がこう小さく呟いたかと思うと、周囲の景色が全て靄の中に包まれた。

靄の中に取り込まれるトルカ。

ここでようやくその靄を知覚しながらなお、相手を睨み続けている。

「さすがですね。注意をそちらに向けると危険、という判断ですか?」

男がこう言うと、トルカは湾曲刀の第二射を放つ。

最初の攻撃と同じく、男の姿が小さく縮んで攻撃を避け、またもとの大きさに戻る。

手に戻った湾曲刀を構え直して、トルカは考える。

(私を誘い出すのが目的だったのか? だとしたら全員でのこのこ出てこなくて正解だった)

トルカはシモンの目的がニレで、護衛の自分が引き離されたのだと思っていた。

しかし表情のない男シモンの目的が、ニレではなくトルカ本人だったことを、まだ彼女は知らない。



エギュピタスの宿舎では、ルルの報告を受けて数名の戦闘曲芸師が出てきた。

ルルがフリーダの元に戻り、ニレの護衛についていた頃、エギュピタス軍から3人がトルカを追っていく。

かつてゲルンと街道で戦った黒髪ポニーテールのシリア。

巨大な木馬使いロース。

人魂のような火炎術の使い手ジャッケル。

戦闘曲芸師の中でも、特に戦闘力の高い3人だ。


だが道を進むと、一面、靄に包まれている場所へ出る。

「なんだこりゃ?」

ジャッケルが言うと、シリアは

「魔王軍の娘が入っていったっていうのはこの中か?」

と言って警戒するが、やがて遠くから人が来るのが感じられた。

警戒態勢をとり身構える3人。


靄の中から現れたのは、小さな少女の人影。

けほけほ、と咳き込みながら出てくる。

「大丈夫? たしかトルカ、だったよね」

とシリアが駆け寄る。


「敵よ。でも逃げられた」

少女はそう言うと、少しくたびれたように膝をつく。

シリアに肩を抱きあげられて、その靄から遠ざかるように、トボトボと歩いていく。


門の中に戻ってきたトルカを見て、ルルが飛び出してくる。

「トルカ、無事だったんだね」

「うん、なんとか。でも逃げられちゃった。何をしたかったのか...」

ルルは帰還した少女の肩を抱きながら、宿舎へと戻っていく。


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