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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第8章 王都の魔法使い
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【10】 ブレンダとテトロ

「今日、我々が会っていたのは、ソロムカさんではなかったのではないでしょうか」

ゲルンがゆっくりと、確認するように言った時、エギュピタスの面々はそれが何を意味しているのかを悟り、ハッとして顔を上げた。

「つまり、誰かがソロムカに化けていた、と?」

直接の上司に相当するペリオラが恐怖の感情を見せながら、これまたゆっくりと尋ねた。

「そうです。ソロムカさんは昨日以前に既に殺されていて、今日我々が会ったソロムカさんはその別人の変装だったのではないか、と」

ゲルンがここまでいいかけた時、スーディアが叫ぶような鋭い声で抗議した。

「そんなはずないわ!」


皆の視線が自分に集まったことを自覚して、スーディアは少し声の調子を落としつつも、

「そんなはずありません。私が今朝、話をしていたソロムカは正真正銘、本物のソロムカでした。お互いの故郷の話をしたり、家で飼っていた黒牛の話をしたり」

「ふむ、誰かが変装していただけなら、そういった事柄は話せない、というわけじゃな」

ラーベフラムが興奮したスーディアを宥めるように言う。

「しかし、その人しか知らないことを語る、というだけなら、殺したあと、あるいは直前に、頭の中を読み取る魔法だってある」

「そんな...そんなことって...おばばさま」

今にも泣き出しそうなスーディアの声を優しく労わるようにラーベフラムが続ける。

「残念だが、儂には剣士殿の推測が一番筋が通っておるように感じる」


それを聞いて、スーディアが顔を覆って泣き崩れた。

「そんな...そんな...ソロムカ...」


「しかし、そうだとして、その変装したやつの目的は何だったんでしょう」

ブルーノがゲルンに問うように言った。

「殺害が目的だったら、殺した後その人物に化けて残っている必要はありません、残っていたのには何か目的があったはずです」

「それは...」

と言いかけて、ゲルンは口ごもった。

はたして言っていいものかどうか、逡巡してしまったからだ。

だが、その迷いを察してか、ブレンダが言葉をつなぐ。

「ゲルン様、お気遣いはいりません」


ブレンダは視線を高く上げ、宣言するかのように言う。

「宝玉を身に宿す者、つまりわたくしを探っているのでしょう」

既に一人、不寝番が殺されている。

千里眼を持つ器の少女達と違い、宝玉少女が誰なのか、同定に手間取っているのだろう、と言うのが、ブレンダ、ゲルンの意見だ。

「ですがそのために、エギュピタスの同胞が二人までも殺されました」

そう言ってブレンダは顔を両手で覆ってしゃがみこんでしまったスーディアの肩を抱きながら

「二人は私のせいで死んだのかもしれません」

スーディアはこれを聞いて顔を上げ

「いえ、姫様、私はそのようなつもりでは」

「わかっています。あなたは優しいですものね」

ブレンダがスーディアを抱きしめた。

「私もはらわたが煮えくり返る思いです」


「で、これからどうなさるおつもりですか?」

少しの間をあけて、ゲルンがブレンダに尋ねると、

「そうですね」

としばしの間思案するようなそぶりの後、ある提案をした。

「一案があります。フーゴ、それにゲルン様、エギュピタス復帰交渉に同行してくれませんか?」

「しかし姫、私はそう言った政治交渉はとんとわからないのですが」

フーゴがしり込みをすると、

「いや、フーゴ殿、ブレンダさんは我々に護衛と謎の敵の排除をご希望しておられるのだ」

とゲルンがブレンダを見ながら言った。

「そうです。フーゴ。ソロムカを殺した敵は、単に情報収集だけでなく、あきらかに我々に敵対しようとしています」


「そうね、私も姫様の案に賛成だわ」

エレオノーラが会話に入ってくる。

「一方的に攻められて守るだけ、というのは性にあわないわ。それに」

そう言ってフーゴとゲルンを強い視線で見つめる。

「私たちも元々は、守るより攻める方が得意でしょ?」


「決まりですね。ゲルン様も、私たちの警護兵という名目で同行していただきますが、かまいませんか?」

ブレンダの言葉に大きく頷くゲルン。

「それではわたしどもはエーデルヴォルフの元へ向かうことにいたしましょう」

ラーベフラムがそう言って、同行者にブルーノを指名する。

ブルーノが快諾して、この会議は終了し、おのおの各自の持ち場へと戻ろうとするとき、ゲルンがブレンダに声をかけた。

「ブレンダさん、いや、姫とお呼びした方がいいのかな。ひとつ伺いたいことがあるのですが」

「さんづけでかまいません。で、要件は?」

「スーディアさんに一つ確認したいことがあります」

「スーディアに?」

ブレンダは少し不思議そうな顔をしたが、退室しようとしていたスーディアを呼び寄せて、会議室の片隅に椅子を持ち寄って、座り込んだ。


「あの、剣士様、私に質問があると伺ったのですが」

まだ涙の跡が残る顔で、スーディアがこわごわゲルンの前に座った。

「心中お察しします。その中でたいへん申し訳ないのですが、一つ確認したいことがありまして」

「はい」

曇った表情のスーディアだったが、居住まいを正し、涙の跡を拭きながら、向き合った。

エギュピタス曲芸団の中でひときわ輝くその愛らしい表情。

悲しみに曇っていてもその美質が失われることなく、むしろ悲しみによって魅力が増しているようにさえ感じる小柄な少女だ。

その愛らしい顏をきりりと引き締め、しっかりと対応しようという決意があふれていた。


「ブレンダさんにも同席していただきます。どうか答えにくかったら拒否してください」

そう断って、ゲルンは先ほどのやりとりで気になっていた疑問をぶつけてみた。

「私はソロムカさんと今日初対面でしたのでよくわからなかったのですが、そんなに似ていたのですか? いえ、そんなに本人そっくりだったのですか?」

スーディアは質問の意図を測りかねて、少し考えるような間をとってから答えた。

「今でも信じられません。今朝洗面所であったソロムカは、いつものソロムカでした」

「会話の内容も、ソロムカ本人でないと言えないような内容だったのですね?」

「はい。ソロムカの実家のこととか、母方の叔父さんが近々結婚するらしいとか、実家の黒牛のこととか」

「ふむ」

と言ってゲルンは目を閉じて考えこんだ

「剣士様、それが何か?」

ブレンダが少し不安になって尋ねてみる。

「ブレンダさん、スーディアさん、下手に混乱を招きたくないのでここだけの話にしておいてほしいのですが」

そう断ったあと、考えを述べる。

「かねてよりよく知っていたスーディアさんに疑問すら抱かせないほど完璧に化けていたのだとしたら、それはその人物の魔法、あるいは特殊技能かと考えられます」

「はい?」

「つまり、その人物は誰にでも化けられる可能性がある、と言うことです」

聞いていた二人の顔に驚愕の表情が浮かぶ。

「そんな...そんなことって」

スーディアが恐怖に顔をひきつらせながら立ち上がりかけると

「落ち着いてください、スーディアさん。可能性の話です」

「確かに、ここだけの話にしないといけませんね。皆が疑心暗鬼にとらわれるでしょう」

ブレンダが冷静に言うとスーディアも落ち着いてきて、

「はい。申し訳ありません」

と言って座り直した。


「しかし、それではどうしたら」

とブレンダが言ったのでゲルンが続ける。

「私たちにはニレがいます。偽物が出現する可能性があるとわかっていれば、あの娘が看破してくれるでしょう。宝玉の力で」

最後の一言に力を込めて行ったので、ブレンダがその意図するところを察した。

「しかし私はまだ宝玉の力をコントロールできません」

「いえ、できるはずです」

ゲルンが少し説明する。


宝玉の力を継承するのは、女子ならば誰でもいいというわけではない。

そこにしかるべき魔力が秘められ、かつ適性も求められる。

ニレにせよ、敵方のレレカにせよ、宝玉の取り込みと、力の発現は自覚的だった。

ところが魔女姫ブレンダだけはほとんど無意識のうちに体内に取り込んでいた。これは適性が異様に高かったと思われる。

従って、ニレやレレカのように、外からの強制的な魔神融合ではなく、自身の力で発現できる可能性を感じる。


ここまで言って、ゲルンは言葉を切った。

「わかりました。やってみます」

ブレンダがゆっくりと言った。

「それに、宝玉の発現に関しては、助言者は案外近くにいるのではないですか?」

ゲルンがこう言うと、ブレンダは何のことかわからず首をかしげている。

「くれぐれも敵の変身能力についてはここだけの話にしてください」

と重ねてことわったうえで、エギュピタス・キャラバン隊についてきていたある魔物を呼び出してもらった。


曲芸団の何人かが、大きな止まり木ごと、その魔鳥を運んでくる。

「あーら、剣士様が私をご指名だなんて。まさか決闘だ、とかではないでしょうね」

虹色の輝く翼をブルッと震わせながら、その鳥、テトロが言った。

「エギュピタスの姫君、あなたが魔王軍と組んだってのを聞かされた時はびっくりしたけど、こうやって一緒に私を呼び出したところを見ると、本気なのね」

キョキョキョキョキューン、と特徴的な笑い声を出しながら、虹色の瞳と虹色の羽毛を持つ鳥が甲高く笑った。

「でも契約を忘れていないでしょうね。あんたたちは私を同行させ、守る義務があるのよ」

「もちろんよ、テトロ、あなたに来ていただいたのは、そんな物騒な話ではありません」とブレンダ。


「テトロ、とか言ったな。確かうちのセルペンティーナの旧知だったようだが」

「そうよ、セルペンティーナがあんたたちのところへ行く前から知ってるわ。つまり私の方があの娘との付き合いは長いの。それが何か?」

「いや、セルペンティーナのことではなく、おまえさんに頼みがあるんだが、聞いてもらえるだろうか」

「そんなの話の内容によるわ」

「そうか、これは失敬。実は宝玉のことについて教えてほしいんだ」

「宝玉? あんたんとこのあのちびこいのが身に宿しているってアレ? そんなのセルペンティーナやあんたの方が詳しいんじゃないの?」

「あいにくとセルペンティーナはここにはいない。そこで彼女と同じくらい知性が深いとお見受けするあなたに教えを乞う次第なのだ」

いつになくゲルンが下手に出ているように見えて、ブレンダは彼の意図が少しわかってきた。


「私の知性? ふっふーん! あなた、あの小蛇の仲間にしてはよくわかってるじゃないの」

得意げに胸をそらすテトロ。

「それでここにもう一人、宝玉持ちがいることは知っているな?」

「そうね、前ここのお婆さんが説明してくれたっけ」

「私はまだこの宝玉を扱えません。どうしたら扱えるようになるか、それを教えていただきたいのよ」

ブレンダもゲルンにならって、いくぶん下手に出ている。

「あれ、知ってたんじゃないの? 魔神を取り込めば良いのよ。それだけ」

「それ以外には?」

「ないわ。少なくとも私が知る限りでは」


「取り込むのは魔神でなくてはいけないのか?」

「そうよ。魔神。その強い強い魔力こそが宝玉を開く鍵となるのよ」

ゲルンの問いかけに、翼を広げながら、大げさな身振りで答えるテトロ。

「魔神ではなく、強い魔力を持っている、という存在でもできるのか?」

「大きな魔力を持っていれば、そうよ。でも太古の信仰を無くしたこの町、王都には、魔神なんかよりつかないわ」

「私たちは、彼女のカラダの中に埋め込まれた宝玉を解放したい。それだけなんだが」

ゲルンがこう言った後、再び少し間を置いて

「きみならできるんじゃないのか?」

「はあ? 何を言っているの?」

虹色の瞳の色が目まぐるしく変化し、テトロは驚いたようにくちばしをパクパクさせる。


ブレンダも言葉を失っていく。

ゲルンがテトロと言う魔物を呼び出した時に、なんとなくその予感はあった。

しかしいざ現実にゲルンが言い出すと、やはりショックだった。

「できないのか? セルペンティーナに並ぶ君なら、可能だと思うんだが」

「ま、まぁね、できなくはないわね」

テトロは動揺していつもの皮肉めいた鋭さが失われている。

「で、でも、魔力があるったって、私が体内に入っても、宝玉を解放するのが精いっぱいで、解呪コードの代わりにはならないし、戦闘だってできないわよ」

「それで十分だ」

慌てるテトロに対してゲルンは一言で答える。

「それで十分なんてだよ、テトロ。我々はブレンダさんの中にある宝玉を活性化したい。それだけだ。何も戦ってほしいわけじゃない」

「え、でも、私がその女の中にずっと封じられたままになってしまうのは嫌だわ」

「すぐに出て行ってくれてかまいませんわ」

気を取り直してブレンダが交渉に参加してくる。

「一度活性化したら、貴女が出て行っても持続するのでしょ?」

「そうだけど。そうだけど。うーん」

予想していなかった展開に、テトロは迷っている。

だが次のブレンダの言葉が彼女の背中を押した。

「宝玉の中身を見てしまってもかまわないのよ」

今度はゲルンの方が何を言っているかわからなくなった。

「宝玉は知識の源でもある、と聞いています。その中にある無限の詠唱術式や太古の智恵、それを見る権利をあなたに貸与します」


この一言が決定打となり、テトロはブレンダの中に入って宝玉の活性化に協力することとなった。

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