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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第8章 王都の魔法使い
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【9】 時間差

「なにっ! ヨーダンがやられただと?」

聖トマソ教会近くの掘っ立て小屋に、4人の暗殺者と教会祭祀長ガルニエが一人の男を取り囲んでいた。

男の名はシモン。

教会の暗部をつかさどる大魔法使いラメンタインから、ガルニエの元に派遣されている二人の魔術師のうちの一人だ。

今、そのシモンがエギュピタス宿舎前でヨーダンが倒されたことを報告していた。

声を上げたのは祭祀長ガルニエ。

「斥候を頼んだだけだったのだが」

ガルニエはよろよろ椅子に座りこんだ。

この掘っ立て小屋は、教会に出入りする工夫や神具職人が寝泊まりしたり控室とするために使っていて、きわめて粗末なつくりだ。

窓の位置も小さく高いため、昼間なのにかなり薄暗い。

「やられた、ということなら戦った、ということですな」

初老の魔術師グルーディオがガルニエに言い、シモンに確認を求める。

シモンが頷くのを見て

「ということは、やつの蜃気楼の術が通用しなかったということか」

今度は誰に言うともなく呟くように言った。


シモンが続ける。

「私が見たのはエギュピタスの者たちではなく、同行している魔王軍の魔術師どもでした」

「と言うことは東側の小さい方の宿舎は魔王軍が使っているということか」とグルーディオ。

「魔術師ども、ということは複数か。何人いたのだ?」と、ガルニエ。

「私が見たところでは、5人。その内湾曲した剣を持つ女と、黒い刀身の剣を持った男に倒されたようです」

ここまで言うと、黙って聞いていた暗殺者の一人、中年のクジョーが語気荒く詰問する。

「おまえ、ヨーダンがやられるのをじっと見ていたのか?」

シモンが顔色一つ変えずに

「あの5人の輪の中に飛び込んでいくほど無謀ではない。私の術は多人数を相手にするものでもないしな」

と答えると、クジョーは沈黙する。


「あなたの連れはどうしたの?」

それとは別に、別の魔術暗殺者の女ブラーカが尋ねた。

「クララのことか? あれはエギュピタスの方を探っている。もちろん魔王軍も視野には入れているが」

相変わらず表情を変えずに、シモンが答える。


「どうする? もう少し人員を追加するか?」

こうガルニエが言い出すが、グルーディオが拒絶する。

「ガルニエ殿、もう少し待っていただきたい。我々はまだ戦ってもいないし」

「ふむ、そういうことならお前らに任せるが、ヨーダンがこうもあっさりやられたことをしっかりと胸に留めておけ」

そう言われて一同黙り込むが、トペルニータが

「グルーディオの言う通りです。私たちに一度戦わせてください」

それを聞いてガルニエはニヤリと笑い、

「そうだな、どうやら我々の情報もかなり漏れているようだし、すぐに動いてくれ。ただし目的は神泉の石であって、魔術対決ではないことを忘れるなよ」

そう言ってガルニエは小屋を出ていった。



トマソ教会近くで最初の暗殺失敗の報告がなされていた頃、エギュピタスの宿舎にもゲルンから報告が入っていた。

ブレンダ、ブルーノ、ラーベフラム、エレオノーラ、フーゴと言った主要メンバーが対王都交渉の相談をしていた時、

「姫さま、おばばさま、ゲルン殿が参られたようです」

と、ペリオラ配下の若い女が告げた。

「わかった、すぐに通してくれ」

遠征隊のうち、娼婦組織をまとめていたペリオラがその女ソロムカに言う。

ソロムカがゲルンを迎えに出ていくと、エレオノーラがペリオラに聞いた

「あれはたしか、あなたの隊のソロムカだったか?」

「ええ。遠征隊には加えてなかったけど、こちらに戻ったので家事とかで呼んだのよ」

エレオノーラとペリオラが娼婦隊のメンバーについてあれこれ話していると、ほどなくしてゲルンがソロムカに付き添われて入室してきた

剣士が突然来訪の非礼を詫びて入室すると、ソロムカは退出する。

「剣士殿、急にいかがなされました?」

ブルーノがこう言ってゲルンに椅子を勧めると、ゲルンは着席するや、魔王軍側宿舎に起こった事件について報告した。


「暗殺者ですか...」

報告を聞いてブレンダがポツリともらす。

「男だった、ということは、例の『器の少女』達ではないと言うことですね?」

エレオノーラも少し考えながら聞く。

「正体についてはまだはっきりしません。持ち物などはまだ調べている途中なので」

ゲルンの答を聞いて、今度はフーゴが、続いてエレオノーラが発言した。

「話を聞く限りだと暗殺者と言うことで間違いないようだな。」

「『器の少女』との関係はわからないけれど、役割はそれに近いと見るべきね」

器の少女の仲間か、それとも新たな別勢力の敵が宝玉少女を狙っているのか。


それに対してブルーノが私見を述べる。

「おばば様の元に来たプーペという少女が教えてくれた、魔法使い殿の弟デシ、というのが関係しているのでしょうか」

「相手の正体がわからないと、狙われているとわかっても対処ができず、厄介なことです」

ゲルンがこう告げると、ブレンダが

「これまで以上に連絡を密にするべきですね、おそらく狙いは...」

と言いかけると、一同、その意味するところがわかって、大きく頷いた。


「恥ずかしながら、我々のところではそういったわけで対処の方法が思い浮かばず、こちらに報告かたがた智恵も借りに来たのです」

「それについては、私たちの方でも少し考えがあります」

ブレンダがこう言ったので、ゲルンがそれを問うが、

「いえ、申し訳ありませんが、今はまだ思い付き程度のことなので、しばらくお待ちください」

とブレンダが答えたが、その瞳にはなにかの決意らしきものが浮かんでいた。


「もう一度エーデルヴォルフに会ってみるかの」

と、ラーベフラムが王都の魔法使いの名を挙げた。

「緊急に使いを出してくれたのは、まだあやつの方でも細かなところまではつかみきっておらぬからだとは思うが」

「そうですね。その弟デシというのが私たちに敵対するのなら、エーデルヴォルフの立場も微妙になってくるかもしれませんし」

ブレンダがこう告げて、翌日再びエーデルヴォルフの元を訪問することを示した。

エレオノーラがエーデルヴォルフの元へ使いを送り、翌朝の訪問を伝える手はずを整える。

「それではここで解散しますが、剣士殿もニレさんの警護をよろしくお願いします」

ブレンダがゲルンを見て、にっこりと笑みを浮かべてみせた。

自身こそが狙われているのに、ニレの心配をしてくれる。

ゲルンは一族を率いるこの少女の胆力に、少し驚いた。


ブレンダの警備体制は、考えられる限り万全だ。

そして暗殺者の方もブレンダを狙っている可能性の方が高い。

だが宝玉少女であれば、ということならニレが狙われる危険性も同程度。

そのことを改めて肝に銘じて立ち去りかけようとすると、

「たいへんです、姫様、おさま

と、恐怖の表情を浮かべながら、キャラバン隊の曲芸少女パスカラが飛び込んできた。


「パスカラ、どうしたのですか?」

ブレンダが尋ねると、パスカラは唇を紫色にして、詰まりながら言う。

「犠牲者が出ました。蔵の裏手で、死体が...」

死体、という言葉に、一同緊張の顔になる。

「誰がやられたの?」

エレオノーラがパスカラの肩をつかんで詰問するように問う。

「それが...ソロムカの死体が」

それを聞いて、一同は仰天し、部屋を飛び出していく。

パスカラに先導されながら、フーゴがペリオラに尋ねている。

「ソロムカはついさっきまで我々といたじゃないか。この短時間の間に殺された、ということか?」

「わからないわ、とにかく死体を見てみないと」


宿舎を出て蔵の裏手に回ると、既に何人かの曲芸少女達が死体を検分していた。

「あ、姫さま、おばばさま」

何人かの少女が一同の到着を見て声を上げる。

死体には藁がかぶされていたのでそれをどけると、確かにほんの先程相談していた部屋に、ゲルンの来訪を告げた娘のようだった。

スーディアが涙を流して興奮気味に

「姫さま、姫さま、ソロムカが...」

と言葉にならない声を出して、泣いている。


フーゴが死体に近づき、首、頭部、頸部などを検分すると

「今度も毒針のようだ」

と言って、右の首筋を指さす。

今度は髪の毛ではなく、細く銀色に光る針が刺さっていた。

だが同時にフーゴが疑問を呈する。

「しかし、変だ、おかしい」

「どうしたのですか、フーゴ殿」

ブルーノが尋ねると、フーゴは再び死体の腹部などに触れながら、

「この死体、死んでから1日以上は経っている」


フーゴの言葉を聞いて、一同ギョッとして固まってしまった。

「そんなバカな。私たちはついさっきまで生きているソロムカを見ていたじゃないか」

ペリオラが興奮してフーゴに詰め寄る。

「フーゴ、仮に毒だとして、その毒の性質、影響で死後の経緯が急速に進行する可能性は?」

このブルーノの問いには、横から出てきたラーベフラムが否定する。

「いや、ブルーノ、これを見なさい。毒は全身に回ってからも、既にかなりの時を経ている」

ラーベフラムは動脈の上を指でなぞっていくが、既に肌にはまったく弾力が失せ、血管の色も外からわかるくらいに変色している。


この会話を聞いていたスーディアが

「フーゴさま、一日経ってるなんてありえません。私は今朝もソロムカと会いましたし、いつもと変わらぬようにお喋りしたりしてました」

「しかし...」

フーゴは言葉に詰まってしまった。

死体がそれだけの時を経過しているのはあきらかだ。

死後硬直も既に終わっていたし、ラーベフラムの言うように、毒がカラダに回ってからもそれくらいの時間が経っていたのは明白だったからだ。

なによりもう死臭を放ち始めているではないか。

「それじゃ、私たちが会っていたのはソロムカの亡霊だった、ていうこと?」

ペリオラが震えるように言った。


この会話を聞いていて、ブルーノがポツリと言う。

「いや、そんな亡霊なんてことじゃないと思います」

そう言いながらも目は自信がなさそうで、ゲルンの方をチラリと見た。

ゲルンはここで自分の考えを言っていいものかどうか逡巡していたが、

「私も亡霊などではないと思います。ここに死霊術師はいないのでしょ?」

尋ねられたラーベフラムは

「儂らの中に、死霊術師はおらん」と答える。


「私はこの方とは今回初めて会ったように思います。ここに到着したとき案内をしてくれましたが...」

ゲルンは自分の考えを述べ始めた。

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