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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第8章 王都の魔法使い
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【8】 魔術暗殺者ヨーダン

魔王軍との宿舎はエギュピタス陣営の本陣東側にあり、離れのような小さな建物だった。

その東玄関口はぴったりと扉が閉められており、その外側にはさらに東に向かって、外庭を横断するように敷石が並べられている。

宿舎全体の東側門扉はその先にあり、ニレの言った門のあたりの藪、というのはその門扉の外側に茂っている藪のことだろう。

つまりそこへ行くには玄関扉と東側門扉をこえなければならない。

玄関口にたどり着いたゲルンはここで足を止める。


威勢よく玄関口から飛び出して一目散に藪へ突っ込もうとしていたトルカが

「剣士様?」

と足をとめて不審そうに尋ねる。


「まず私が一人で出てみる。お前たちはここで様子を見ながら待機していてくれ」

「え? 全員で取り押さえた方が確実なのでは?」

トルカが重ねて疑問を発すると、

「索敵術が使われたことを考えると、恐らく相手も魔術使いだ。慎重に行こう。何人かかもわからないし」

「どうやって?」

と今度はルル。

「こいつであぶりだしてみる」

と、そう言ってゲルンは黒の魔剣を鞘の上からなぞる。

「俺が合図したら、すぐに加勢してくれ」

そう言って、ゲルンはゆっくりと玄関扉を開ける。

部屋着のまま、腰に魔剣を佩いたゲルンがゆっくりと外へ出ていく。



「大丈夫でしょうか」

あまり口数が多い方ではないザックハーが心配そうに言うと、

「なに、大丈夫だろう。エギュピタスの本宅ではなくこちらを索敵したと言うことは、まだどちらに宝玉少女がいるのか把握しておらず、斥候の可能性だってある」

こう言ったのはメルシュで、じっとゲルンを見つめている。

「でも連中がニレちゃんの方を狙っている可能性も」

ルルが心配そうに言うが、

「もし目当てがニレ様の方で、そちらを狙ってて、かつ確実にいるとわかっていたら、索敵なんかしないさ」

と言って安心させる。

「まぁ、見ていよう。我々が飛び出していくタイミングをしっかりみてな」

と言って、一同ゲルンの方に視線を向けていた。



昼の太陽の下、玄関を出たゲルンがゆっくりと外庭を進んでいく。

敷石の上に歩を進め、散歩でもしているような速度で東側門扉に近づいていく。

大きくのびをして、宿舎を、そして門扉を見つめる。

やがて門扉に到着すると、そこの閂を下ろし、ゆっくりと門を開ける。

半開きにしたまま、外側の藪を見るや、スラリ、と剣を抜く。

黒の魔剣はその名の通り、刀身が漆黒で、深夜の戦いでは相手の視線から逃れる効果もあるが、今は昼。

その黒い刀身がはっきりと輝いて見える。

ゲルンは剣を中段に構えたまま、止まる。


なにげなく剣を構えているようだったが、魔剣からは膨大な『気』が放たれる。

藪や雑木林にいた鳥やネズミ達が驚いて騒ぎ始める。

魔力を通された魔剣が放つ強烈な殺気。

その殺気に驚いて、ねぐらを飛び出してくる。


鳥達の騒ぎがいっそう大きくなり、昼日中、周辺から無数の鳥が飛び立つ。

ゲルンはゆっくりと剣を上段に構え直し、なお『気』を放っていた。

「カッ!」

ゲルンが『気』を放出したまま、剣を振り下ろす。

強い殺気で藪から飛び出してきたネズミが何匹か失神し、鳥の声が騒ぎの声から悲鳴に変わっていく。


「なるほど」

こう呟いて、ゲルンは藪の前に立つ。

(ニレの逆探知は正確だったようだな)

こう思いつつ、懐から短刀を取り出し、藪の中に投げつけた。


藪の中から飛び出す一つの影。

それは白い肉の塊に見えた。

藪の前に立った男は、頭頂部が完全に禿げ上がっており、肌の色が白墨のように白く、でっぷりと肥満した男だった。

「へ、へ、すごい殺気だな」

そう言いつつ、その白い肉の塊のような男が言った。

からだにぴったりと張り付いたような白い衣装で、見事に肌の上に溶け込んでいる。

だらりと下げた両腕は拳が握りしめられていたが、その指の間には、恐らく投擲用だろう、小さな剣先が数本光っている。


「何用だ。どうやら穏便な客というわけではなさそうだな」

ゲルンが剣を構えたまま問うと、その白い禿げ頭は言った。

「斥候のつもりだったんだが、おまえ一人ならここで決着をつけてもいいな」

声音は薄ら笑いを湛えているようなのに、顔の表情はほとんど変化がない。

「聖トマソ教会の者か?」

ゲルンが探りを入れてみると

「こいつは驚いた。初対面のはずだが、お前たちの情報源はいったいどこだ?」

と言って、殺気が漲って来る。

ゲルンは集中したまま剣を構え、相手を睨むように見ていた。

恐らくあの投擲用の短剣で攻撃してくるのだろう、と思っていたが、その白い男はその攻撃を選ばなかった。


門柱を背中にして、白い男の両眼が一瞬光ったかのように見えた。

深い青色を秘めた、冷たい死の色だ。

するとどうだろう、男のからだ、その白い色がどんどん薄くなっていく。

やがて、門柱の中に溶け込むかのように、その姿が消えてしまった。

まるで南方の森林地帯に生息するある種の蜥蜴が、周囲の色に合わせて自身の体色を変化させるように消えてしまった。

(保護色か? それとも魔術か何かで門柱の中に溶け込んでしまったのか?)

いずれにせよもう戦いは始まっている。

姿を隠して視界の外から不意打ちを仕掛けてくるであろうことを考えて、ゲルンは全身に気を張り巡らせる。



玄関扉の隙間からしっかりとこのやりとりを見ていたトルカ達。

「妙だわ。剣士さまはなぜずっと動かないの?」

トルカが疑問を口にする。

そう、トルカ達のいる場所からは、白い男は消えてはおらず、ゲルンの真正面にいた。

そしてその白い男がゆっくりとゲルンの左側に移動していくのに、ゲルンはそちらを見ようともせず、一心不乱に門柱を見つめている。

「何か術をかけられたのかしら」

トルカがゲルンを凝視しながら、こぼす。

「からだを動けなくされているようではありません」とザックハー。

「何か作戦あってのことか?」とメルシュが言うが、

「そんなわけなさそうだぞ。既に何かの術中に陥っているんだ」とルル。


「禿頭が剣を抜いたわ」

白い男が右手で拳を握りながら短剣を構え、左手で剣を抜いた。

「もう我慢ならない。剣士様に何か作戦があるのか、それとも術中なのかはわからないけど、切り込んでみる」

トルカがそう言うと、ルルが

「よし、私があいつ目掛けて槍を打つので、そのスキに」

そう言って、槍を構えた。



ゲルンは消えた相手がおそらくもう目の前の門柱から移動していることは確信していたが、体勢を変えたスキに切り込まれるのを警戒して、そのままの姿勢だ。

(逃げたわけではなさそうだ。必ず切り込んでくる)

そう確信して。

その時背後から急に殺気が現われた。

だがこれはかなり意識していた。

姿を消せるのなら、正面ではなく背後に回ろうとするだろう、と考えていたからだ。

振りむこうとして体勢を変えた瞬間、宿舎から槍が飛んできたのが目に入った。


背後にまわった白い男-ガルニエ配下の魔術暗殺者ヨーダンが、音もたてずに剣を抜き、ゲルン目掛けて切りかかった。

(術にかかった。こいつには俺が見えていない)

そう確信して、一刀のもとに切り伏せられる、と判断していた。

だがその時。

剣士が出てきた宿舎玄関扉が開いて、そこから槍が飛んできたのだ。

的確に自分を狙って投げてきたものだ、とわかったが、難なくかわすことができた。

しかし虚をつかれたこともあって、ゲルンにかけていた術が途切れ、姿を現すこととなる。

ゲルンも背後に現れたその姿を視認するや、俊足で切り返した。


ヨーダンは体勢を崩しつつも、切りかかってきたゲルン目掛けて、右手で握っていた短剣を投げつける。

ゲルンの方もこの短剣を自身の魔剣で弾いてよけたため、ヨーダンを切り捨てられなかった。

体勢を整えて再び向きあう二人。

そこに新手、と言ってもいいように、玄関からトルカが突っ込んできた。


ゲルンと向き合っていたヨーダン目掛けて、宙を舞うかの如く跳躍して、頭上から切りかかる。

ヨーダンはこれを抜いたばかりの剣で受け、後方へ飛びのく。

やがてメルシュ、ルル、ザックハーも駆けつけてきた。


「剣士さま」

ゲルンの傍らに、トルカが駆け寄る。

「お前たちの目にはあいつが見えたのか?」

ゲルンの言葉に驚いたトルカが

「玄関から見ていました。私たちにはずって見えていましたが、剣士様は視界を奪われていたのですか?」

そうか、消えたわけではなく、対象者の視界から消える術なのか。

ゲルンとトルカが相手の術のからくりを見抜き始めた時、ヨーダンの向こう側、宿舎とは逆方向にルルが、ヨーダンが出て来た藪側にザックハーが、そしてメルシュが背後に陣取る。


五人に取り囲まれた形になったヨーダンだが、まったく焦る素振りは見せず、

「そうかい、別のところから見ていたのがいたとは計算外だった」

と言って、背後のメルシュ、左右に多々ルルとザックハー、をじろりと見まわした。

(あれか? あの目の光か?)

ゲルンはヨーダンが3人を見るためにわざわざ体を反らしたのを見て判断した。

そして最後にゲルンとトルカを見ようとしたとき、ゲルンは魔剣の刀身・背側を額にあてた。


またしてもヨーダンの姿が消えた。

メルシュ、ルル、ザックハーは、先ほどゲルンが体験したことを自身の目で体験した。

ヨーダンのからだが薄れていき、空気中にとけこむように消えてしまったのだ。

「え?」とルル。

メルシュは視界からヨーダンの姿が消えるや否や、そのいた場所へ切り込んだ。

「ダメだ、メルシュ、そいつはもうそこにはいない」

メルシュの剣は空を切り、ヨーダンが元いた地面につきささるのみ。


最後にゲルンとトルカにも一瞥を与えていたので、トルカの視界からもヨーダンの姿は消えていた。

しかし魔剣の力でヨーダンの魔術を半分くらいは跳ね返せていたゲルンには、視界からは消えていても、ユーダンの放つ殺気の所在は判明していた。

ゲルンはトルカの背側に立ち、肩に左手を置いて、耳元でささやく。

「トルカ、あいつの殺気を伝える。二人で切り捨てよう」

この言葉にトルカの頬が紅潮し、

「はい、ゲルン様」

と言って、湾曲刀を投げる体勢に移る。

「おまえの得意な二段構えの攻撃、あれをお前の湾曲刀と、私の魔剣でやる」

こう言って、ヨーダンの気配を探った。


ヨーダンはルルとメルシュの間を抜けて、逆にメルシュの背後に移動した。

その殺気の場所をトルカに伝えるゲルン。

トルカはその指示を受けて、空高く湾曲刀を投げ上げる。

そして魔力を使い、湾曲刀をコントロール。

今まさにメルシュに切りかかろうとしていたヨーダンの真上に、湾曲刀を速度を上げて落下してくる。


「なに!?」

ヨーダンは頭上から正確に自分めがけて落ちてくる湾曲刀に驚いて、術を解き、そのトルカの湾曲刀を受けた。

激しい金属音がしたその瞬間。

ゲルンがヨーダンの懐に飛び込み、魔剣がその胸を貫く。


「ぐっ、くっ」

心臓を貫かれたヨーダンがくぐもった声を出して、持っていた剣を落とす。

ゲルンが剣を引き抜くと、膝をつき、大量の血を流しながら、その場に倒れた。

「やりましたか?」

と駆け寄るザックハー。

「生かしたまま捕えて、背後に誰がいるのか知りたかったが、そんな余裕はとてもなかった」

と漏らすように言うゲルン。

メルシュが宿舎主屋に走り、エギュピタスの者たちに伝えにいく。

連携技で暗殺者を排除したトルカは、少し嬉しそうにゲルンの背中に顔をうずめていた。

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