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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第8章 王都の魔法使い
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【7】 伝言

「ニレちゃん、あそぼ」

エギュピタス陣営の宿舎に間借りしているゲルン達のキャラバンに、一人の少女がニレを名指しで訪ねてきた。

赤髪に濃い赤目、白い肌がひときわ目立つ少女、プーペ。

たまたま今後の相談でゲルンを訪れていたラーベフラムが玄関口で目ざとくと見つけて

「プーペじゃないか。エーデルヴォルフの許可は得て来たのかえ?」

と尋ねると、

「うん、そうだよ。というかお師匠様からの伝言を言付かってきたんだ。そのついでに、ニレちゃんと遊んでもいいって」

「エーデルヴォルフからの伝言じゃと?」

プーペの姿を見つけてニコニコしていたラーベフラムが、はて? とばかりに首を傾げた。


「ゲルンって言う人と、お婆様に伝言だよ」

客室に招かれたプーペは、エーデルヴォルフの屋敷で見た時と同じように、くるくる舞うようにからだを動かし、中へ入っていった。

客間には、トルカやニレもいたのだが、

「ごめんねぇ、ニレちゃん。お師匠様はお婆様とゲルンさんに伝えてくれ、ということだったので、他の方は席を外してほしいんだ」

「うん、わかった」

と、ニレは頷いてすぐに退席したが、トルカは少し恨めしそうにプーペを見て

「私と剣士様は一心同体なんたけどなぁ」

などと言い出す。

「トルカ、すまないな」

ゲルンがそう言って宥めると、しぶしぶ退室する金髪の少女戦士。

それを見てプーペは

「ごめんねぇ、綺麗なブロンドのお姐さん」などと、軽く言い放っている。


二人が退室したのを見て

「でもねぇ、私の感じだと、あの二人にも聞いてもらう方が良いと思うんだけど、お師匠が指定したのはお婆さまとゲルンさんだけなので」

「何、かまわんよ。内容を聞いてからだけど、必要とあればあの娘たちにも伝えるから」

とゲルンが言って、その伝言の内容を促す。


「お師匠様がおっしゃるには、この王都で何やら不穏な動きが観測されている、らしい」

「不穏な動き?」とゲルン

「うん、不穏なだけだったらそんなに気にはされないんだろうけど、なんでもお師匠様の弟デシってのが関わっているらしくて」

「弟デシ? あやつに兄弟デシがおったとは初耳じゃ」

ラーベフラムがぼんやりと回想するようにもらす。

「うん、その人のことは私も会ったことないし、詳しくは知らないんだけど、なんでもその弟デシってのが、神泉の石についていろいろ探っているらしい」

「神泉の石?」

「なんかすごい魔力があるんだって。女の子の中にだけ宿ることができて、大昔、その中の4つが俗界に持ち出されたらしいんだけど」

4つ、大いなる魔力、持ち出された石。

これを聞いて、ゲルンもラーベフラムも、今はなきエギュピタスの宝玉のことだ、とわかった。

「それで?」

ゲルンが続きを促すと、

「お師匠様が言うには、その『神泉の石』を掌中に収めようとして弟デシさんが良からぬ連中と手を結び始めているらしい、ということなんだ」

「良からぬ連中って? まさか器の少女?」

「器の少女? ううん、お師匠様の口ぶりだと、なんかおっさん連中らしかったけど」


ゲルンとラーベフラムは顔を見合わせた。

「器の少女達とは別の、宝玉を狙う一味がまた現れた、ということでしょうか」

ゲルンはギデオを出て戦った、あの森の魔物達のことを思い出した。

「うーん、お師匠様も、東方の八卦とかっていう占星術みたいなので兆候を知っただけなので、まだ確信もないし、詳細もわからないって言うの」

プーペがいろいろとまくしたてるように伝えるが、どうやら伝言の正確な内容までは再現できかねるようだった。

「それで不十分な情報なので、前回来てくれた時に言うべきかどうか少し迷ったのだけど、お婆の話を聞いて、関係があるかも知れない、って」


しばらく考えこんでいたラーベフラムだったが、

「いや、ありがとう、プーペ。エーデルヴォルフには貴重な情報ありがとう、と伝えておいてくれるかな?」

「うん、お師匠様も少し困ったような顔つきだったんだよ」

そう言って、プーペは出て行こうとする。

「ゲルンさん、ニレちゃんと遊んでもいいよね?」

名指しされてゲルンは少し戸惑ったが、

「私、ずっとお師匠さまと暮らしているから、同年代の女の子の友達っていないの」

とプーペが言うので、

「そうか、ニレも同年代の友達がいないからちょうどいいかも知れない。ただし、宿舎から外には出ないように頼むよ」

「はーい」

と元気よく返事をして、廊下へと駆け出していった。

「ニレちゃーん、遊ぼう!」

背後に大きな声を残して。


「剣士様、どう考えます?」

「不寝番が殺されたこともあります。大いに関係があると見た方が良いでしょう」

「エーデルヴォルフの同門だとすると、そうとうやっかいな敵かもしれません」

「あの魔法使いの弟弟子とか師匠とか、見当がつきません」

「以前エーデルヴォルフから少し聞いたところによると、弟子は自分しかいない、ということでした」

そしてラーベフラムは自分の知っているエーデルヴォルフの素性について、少しずつ語り始めた。


エーデルヴォルフの師匠はヘッケルという伝説級の大魔法使いで、この王都でもいくつもの奇跡を起こしたことが伝えられている。

しかし極端な人嫌いで、滅多に人前に出ることもないため、容姿はもとより、年齢・出自等は一切知られていない。

弟子を取ることもなかったのだが、どこが気に入られたのか、エーデルヴォルフが幼い頃拾い上げられて、技の伝承を受けた、と聞いておる。

エーデルヴォルフも治癒術や錬成術などの方に才能があったらしく、ことさら人と競うことはしてこなかったらしいが、それでもその力のすごさは少し見たことがある。

その弟弟子、たぶん最近入門したのだろうけど、それが攻撃方面に進化しているとしたら、甚だ厄介な相手かもしれません。


「あのプーペの話を聞くに、他言が禁止されているわけでもなさそうですから、エレオノーラさんやフーゴ、ブルーノ達にも伝えておいた方がいいでしょうね」

話を聞き終わったゲルンが言うと、

「そうですな」

と言ってラーベフラムが腰を上げた。

「こちらも対処してみるつもりです。もし宝玉少女を狙っているとしたら、我々にも関係のあることですから」



宿舎の一室では、ニレとプーペが遊んでいた。

周りにはトルカやフリーダ、ルルもいて、二人がやっている卓上ゲームのようなものを見ていた。

「こうやって、王様を追い詰めて、行き場をなくしてしまったら、勝ち。これを『詰み』っていうの」

プーペが一通り説明して、卓上の盤の上に人や妖精、魔神をかたどったコマをパチパチと並べていく。

ゲームなどまったくしたことがなかったニレは、最初はよくわからず、てんで勝負にならなかったが、たまたまこのゲームを知っていたルルがいろいろと助言をして、なんとか勝負になるようになっていく。

トルカやフリーダも一緒になって、観戦する。

いろいろ考えなくてはいけなくて、最初のうちは戸惑うばかりだったけど、しぱらくすると相手の出方を考える、ということの面白さに気づき始めた。

「そうそう、ニレちゃん、呑み込みが早いじゃない」

などと、ルルも楽しがっている。


そこへラーベフラムとの会談を終えて、ゲルンが戻ってきた。

「ほう、シャッハじゃないか、懐かしいな」

ニレとプーペがやっている卓上ゲームを見て、思わずゲルンが声をもらした。

「剣士様もご存じでしたか?」

と、ルルが顔を輝かせている。

「ああ、子どもの頃に少しやったことがあるけど...」

と輪の中に入っていく。


しばらく二人のゲームを見ていたが、

「プーペ、さっきの話、みんなにするけど、いいよな?」

と、ゲルンが言い出した。

「うん、伝える相手を指定されただけで、言っちゃいけないってことじゃなかった。禁止の時は必ずお師匠さまはおっしゃってくれるから」

それを聞いて、ゲルンは先ほどの話、この王都に敵がいるらしいことを連れて来た一同に語った。



「ゴ主人サマ、スルト先程カラコノ屋敷内ヲさーちシテイルノハ、ソノ新タナ敵トイウコトナノデスカ?」

伝言内容の説明を聞き終えると、ニレが突然話し始めた。

目が赤く光り、魔焔公として語り始めたからだ。

「ニレちゃん、敵なの?」

トルカが湾曲刀を身近に引き寄せて、警戒態勢をとる。

ルルとメルシュも自分の槍を手に取ったが、ザックハーが胸襟を開こうとしているのを見てフリーダが

「ちょっと待って、ザックハー、あなとはここで、室内であれを出さないで頂戴」

慌てて制止する。


「さーちヲ潰シマスカ?」

とニレが魔焔公の力を全身に滾らせて言う。

「いや、それよりその索敵を行っているヤツの所在がわかるか?」

とゲルン。

「ヤッテミマス」

ニレがその赤く発光する瞳をゆっくりと周囲に向ける。

「強イ魔力反応ヲ発見シマシタ。東門ヲ出タトコロノ藪ノ中デス」


「プーペ、君はここで、フリーダ、ニレと一緒にいなさい」

そう言ってゲルンは魔剣をとり、トルカ、ルル、メルシュ、ザックハーとともに東門へと向かった。

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