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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第8章 王都の魔法使い
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【5】 政治交渉と暗躍

聖トマソ教会。

王都における神秘術、聖術、魔導などの総本山であり、研究者、聖女、魔術師を発見し、教育し、そして養成する期間でもある。

その内陣奥深く、各分野における研究所がいくつも設けられている。

その中の一つ、魔導官星室。

研究を行う室と、文書庫、講義室とともに、会堂があった。

普段は集会など用いられているが、午後からは、魔導官高位のものしか使えなくなる、選ばれた部屋である。

その会堂で今、若い男がいくつかの報告を受けていた。


「ほお、エギュピタスの者たちが来ているのですか」

「そうだ。その中にこの前言った宝玉を秘めた娘がいるはずなのだ」

報告を受け取った男の傍らで椅子に腰かけて、それを聞いていた中年男が会話に割り込んでくる。

その発言には取り合わず、若い男が報告を持ってきてくれた官吏に言う。

「ありがとう。以後この件についてはわかり次第詳細をお願いします」

その若い男、魔導官ラメンタインは報告を寄越してくれたその官吏を下がらせた。


「さて、ガルニエ殿、どういたしますか?」

官吏が退室した後、ラメンタインは暗殺教団の実質上の指揮を執っているガルニエに問う。

地位としてはラメンタインの方がほんの少し上。

しかし部署が違うことや、年齢が大きく離れていることからラメンタインの丁寧な敬語での話に対して、ガルニエは対等のもの言いをする。

もっともラメンタインは丁寧に話しながらも、どこか冷笑的である。


「ふん、言った通りだろう」

と、それに対してイヤミのつもりでガルニエは言うが、どこか気圧されている。

「望むことは一つ。あの中に宝玉持ちがいる。それも二人。我々はそれを回収する。それの手助けと黙認だ」

「黙認は...そうですね、あまり派手な暗殺とかにならなければ構いませんが、人でを出すというのは」

「人は出せない、と?」

「そうは言いませんが、エギュピタスの再興が始まるので、私どももこれからたぶん忙しくなりますから」

「む」

唸るようにガルニエがラメンタインを睨みつけた。

それを見てラメンタインは少し表情を崩しながら、

「そうですね、それでは二人ほど出しましょう」

そう言って、壁面に備え付けられている伝声管にあることを伝えた。

「二人? たった二人か?」

ガルニエは憤りを隠せない。


ほどなくして、ドアをノックする音が聞こえ、二人の男女が入ってくる。

その顔を見て、ガルニエの緊迫していた表情が少し緩んだ。

「この二人でも御不満ですか?」

「い、いや、シモンが加わってくれるなら心強い」

それを見てラメンタインが二人に命ずる。

「シモン、クララ、特命だ。このガルニエの指揮下に入って、仕事を手伝え」

シモン、クララと呼ばれた男女が無言で敬礼をする。

二人とも生気のない無表情な顔をしているが、これこそが二人の特質。


「だが一言言っておきます。ガルニエ」

「ん? なんだ?」

「この二人をお貸しし、あなたの指示には従わせますがあなたの部下ではない。あくまで私の配下であることをお忘れなく」

「当然だ。仕事さえしてくれれば、所属がどこかはどうでもいい」

ラメンタインが二人に向き合い、

「おまえたちはこのガルニエの指揮下に入るが、私にも詳細は報告すること」

ガルニエの表情が少し曇ったが

「御心配なく。外部にもらすことはしません。私に暗殺命令を出されては困りますからな」

「そんなことはせんよ、用心深いな。私の目的は国内の政争とはまったく関係ない」

ガルニエの言葉で秘密裏に会談が終わり、4人は解散する。

シモンとクララはガルニエの背後についていきながら。



タイスとアニトラが率いる器の少女たちの一隊が王都目掛けて移動し始めたのは、ゲルン達が移動してから五日後だった。

つまりその間、捜索を続けていたわけだが、その間タイスは王都からの通信を受け取っていた。

キャラバン隊の移動馬車は何台かに分かれていたが、そのうちの一台、アニトラ、ミーヴァ、ライラ、ノクトゥルナ、レモナの五人が乗る馬車。

「タイスが何か連絡を受けているみたいだけど」

ライラが伝書鳥の通信に気づいてもらすと、

「たぶん王都からの通信でしょう。タイスの上司からのね」

「ミーヴァはその辺のとこ、詳しいの?」

ライラが問うが、ミーヴァは否定する。

「いいえ、私をスカウトに来たとき、それっぽい人が一緒にいただけよ。詳しくは知らないわ」

ふうん、と沈黙した後に、傍らではレモナがノクトゥルナに問いかけている。

「あなたの目なら文書の中身を読めるんじゃないの?」

ミーヴァはこれを聞いて少しドキリとしたが、

「読もうと思えばできるけど、あまり波風は立てたくない」

とノクトゥルナがやんわりとかわしている。

「そうだな。タイスだってノクトゥルナが覗けることは知っていてあえて伝書鳥で通信しているんだろうし、時期がきたらたぶん伝えてくれるさ」

ミーヴァが少し安心して言った。


馬車に揺られながら、ミーヴァはこの弱々しく話す小柄な少女が来た頃のことを思い出していた。

タイスが帰郷した折に見つけて来た、タイスの同郷の孤児、ということだったが、とても魔力持ちに見えなかった。

だがレレカが宝玉持ちに指名された後、タイスが

「おまえとレレカ、ノクトゥルナの三人の魔力が頭抜けていたので、そこから出るとは思っていたがな」

と何かのはずみでポロッともらしたことがあった。

だがその時は、たぶんそうなのかな、と言った程度にしか感じられなかった。


ノクトゥルナの力は戦闘向きではない。

それゆえ、彼女の魔力の強さについては最初どうにもピンとこなかった。

だが実際に戦闘時のバックアップをしてもらうと、その力のすごさが少しずつわかってきた。

彼女の「見る」情報は、たとえようもないくらい貴重である。

ほとんど司令塔と言ってもいいくらいなはたらきなのだが、彼女自身は決して上に出ようとはしない。

かと言って言われることだけをやるお人形のような存在か、と思うとそうではない。

今みたいに、不必要なことを選別する判断力もあり、話してみると頭もよく回る。

なにより自分が戦闘向きではないこと、体力的にひ弱であることなども認識している。

その頭の良さからだろうか、ミーヴァにとってはこの小柄な少女と話をするのはかなり楽しかった。

もっとも、話題を切り出すのは常にミーヴァの側からだったが。


力の相性というこで、ノクトゥルナは空間跳躍者レモナと組まされることが多かった。

レモナはノクトゥルナと対称的に女子としては大柄な体躯で、明るく陽気だった。

ノクトゥルナと組むときもよくしゃべるので、彼女の方がノクトゥルナを気遣っていたのかと思っていた。

しかしそうではなく、実はノクトゥルナの方が彼女にうまく合わせていたのだ。

恐らく自分も彼女から「合わせて」くれていたのだろう、と考えるようになった。

だがそれでも、口数が少ないにもかかわらず、彼女としゃべるのは楽しかった。


『孤児』としか紹介れていなかったノクトゥルナだが、その聡明さはかなり高い教育を受けたようにも感じられた。

いったいどういう出自なのか。

彼女自身からは決して語らなかったし、無理に詮索するのも少し気が引けたのでそういう話題にはならなかったけど、気にはなっていた。


タイス一行が王都に着いたときには、既にスヴォロ村で戦ってからかなりの日数が経過していたが、エギュピタスはまだ王都に滞在していた。

交渉が難航している、というよりも、手続きが難航していたからだ。

王城近くの地に鎮座する聖トマソ教会近くに宿を用意してもらった一行のうち、タイスとミーヴァが代表としてタイスの『上司』に呼び出された。

「なぜ私も? タイスだけで十分じゃなかったの?」

ミーヴァがこう尋ねると、

「我々の中で、ラメンタイン様と対面したことがあるのはおまえさんだけだしな、それに...」

そう言って少し言い淀んだので、続きを促すと、

「こういうことはあまり言いたくないのだが、お前さんが一番高位の身分だから、というのもある」

それについては答えることなく、ミーヴァはタイスとともに、聖トマソ教会へ向かっていった。



エギュピタスと王国王都との交渉は難航していた。

旧エギュピタスの土地を、旧臣民に返却することについては、王都側も認め、簡単に決着がついていた。

エギュピタス側も報復戦争はしない、という点で意見の一致をみていた。

さらに王都からはるか南方にある土地で、中央からの統治が難しく、言語も民族も違うため、いろいろ軋轢もあった。

はっきり言って王都側から見てもお荷物だったのだ。

だがいざ土地の譲渡となると、この十年の間にいろいろと利権も生まれている。

それをどうするか。

既にその土地に住んでいる非エギュピタス人をどうするか。

言ってみれば事務的な難航だったのだが、それだけに簡単に切り上げることもできなかった。


エギュピタス側から交渉に臨んだのは、ブレンダ、エレオノーラ、ブルーノ、そしてときどきラーベフラム。

ブルーノはエギュピタス人ではないので最初は固辞していたのだが、ブレンダの熱心な頼みで、最後には折れた。

そして交渉ではこの人事があたり、ブレンダ達では気づかないところにもいろいろ目を配ってくれた。


「今のところは順調にいっているようですね」

ブレンダの宿舎に招かれたゲルン達は、ブレンダから直々の報告を得て、情報交換していた。

「そちらの方もなんとかなりそうですね」

そう問われたので、ゲルンが

「なんとか光明が見えつつあります」

と答える。

両者は千里眼と空間跳躍者の対策を完成させた後、それぞれの故郷へと帰還するつもりだった。

両者はまだ、大きな力が迫りつつあることを、そしてこの王都にその首魁が潜んでいることをまだ知らない。

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