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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第8章 王都の魔法使い
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【3】 魔法使いの智恵


王都市門からの入市は極めて事務的に進み、予想以上に簡単だった。

エギュピタスの曲芸師たちの多くが王都に住み、市民として登録していたためだった。

ブレンダやフーゴ、団長のエレオノーラも王都市民であり、ゲルン達はその客人扱いで入市。

あまりに簡単に入れたので、悪意を持つ潜入者がやってきたらどうするのだろう、と気になってしまうほどだった。

「なあに、市門の入場はたいしたことではありませんよ」

とエレオノーラが説明してくれる。

「王都の中枢は王城付近なので、そのあたりにさえ近づかなければ大して詮索はされません」

「そもそも入市を厳格にやりすぎると、宗教交流や商業、貿易に支障がでますしね」

傍らでゲルンとエレオノーラの会話を聞いていた曲芸師ポーラが明るく補足してくれる。


確かに市門を入ってもしばらくは馬車に乗り続け、中心街に来るまで時間がかかるほどの距離がある。

「剣士さま、あそこ」

御者台の後ろから、ルルが前方を指さした。

何もない丘のように見えたが、目を凝らすと遠くに城らしきものが見える。

「あれが王城です。今回は行かないと思いますけど」


かなりの距離があるように見えて、なるほど、これくらい遠いのなら、市門での検査は便宜上でもかまわないのかな、と思われた。

人口はギデオの方が多い、とは聞いていたが、市域はこの王都の方がはるかに広そうだった。


「儂らはお城の方へは向かいませんがな」

とラーベフラムが会話に参加してくる。


ほどなくして馬車は四辻に出る。そこでゲルン達はラーベフラムとともに下車した。

「お婆様、本当に護衛をつけなくて大丈夫ですか?」

降り際にフーゴが心配そうに声をかける。

「なに、勝手知ったる相手じゃし、そなたたちの人員を割くわけにはいかぬしな」

そう言ってゲルンの方を指さして、

「それにこちらには、魔王の剣士殿がおられる。万一のことになっても安心じゃ」

そう言って、ブレンダ達と別れを告げた。

ブレンダ一行は、そのまま王城へと向かい、エギュピタス再興の申請に向かったのだった。


「随分信用してくれて、感謝します」

ゲルンがラーベフラムに頭を下げた。

「なに、儂らはもう遺恨を捨てて、同盟となったのであろう? 儂の方こそそなたには感謝しておるよ」

とラーベフラムが返す。


とはいえ、老人の足である。

四辻から目的の家は近い、と言われていたが、なかなか着かない。

馬車を降りたのは魔王軍の六人、剣士ゲルン、宝玉少女ニレ、少女戦士トルカとルル、槍兵メルシュに吸血鬼使いのザックハー。

それにラーベフラムを加えた計七人である。


トルカとルルはゆっくりとした行進に飽きたのか、ニレを巻き込んでおしゃべりに夢中。

いろいろと王都の情報を伝えたり、町の感想を言い合ったりしている。

まだ午前中ということもあり、それほどの人出はない。

四辻から西へ向かって、商店街を抜け、さらに職人街へと入っていく。

服飾、金物、道具や、繊維商らが店を開けようとしているところ。

だがなんといっても目に着くのは神具屋の多さ。

幾多の宗派がひしめいていることもあり、それぞれの用途に合わせて、多種多様な神具が陳列されている。

「よくケンカにならないものですな」

メルシュがそれを見てポツリともらすと、

「そこら辺はうまくやっております。いろいろ嫌な歴史もございましたからな」

とラーベフラムが簡単に解説する。


ときどき休みを取りつつ歩くこと数刻。

職人街がとぎれそうなところで、ラーベフラムが足を止めた。

木造の古びた館の前で、ラーベフラムが門に取りつけられた呼び鈴をならした。

りん、りん、りん。

乾いた綺麗な音色である。

木造の屋敷は遠目にはかな立派に見えたのだが、近寄ると相当の古さで、門、館の玄関入り口扉などはきれいに清掃されているが、木材の古さは見て取れる。

待つことしばらくすると、

「はーい、エギュピタスのお婆さまですね」

と明るい子供の声が響いた。


門の向こうで閂が外される音がして、やがて、ギギギと音を立ててゆっくりと門が開いた。

門の向こうに立っている子供を見て、ニレはぎょっとした。

赤い短髪と褐色の肌。

粗末な麻のワンピースに身を包んだ女の子が立っていたのだが、何より目を引くのがその瞳の色。

燃え盛る炎のような赤い瞳。

赤い髪も、北方の人達のブルネットがくすんだような赤毛とは違い、鮮紅色の赤毛である。

その少女がぴょんぴょんと飛び跳ねるようにラーベフラムの周りを動き回る姿は、まるで地獄の小鬼のようだ。


勝気そうな釣りあがった赤い瞳、しかし目鼻立ちはよく整い、成長すれば躍動的な美少女になるのでは、と思わせてくれる。

背格好はニレより低く、見た目はニレよりも年下に見える。

ニレがおとなしすぎることもあってか、この少女は子供らしいはしゃぎように見えた。


「プーペ、エーデルヴォルフはおるかの」

ラーベフラムは顔なじみと見えて、このプーペと呼ばれた少女に取次を頼んだ。

「うん、お師匠様から聞いてるよ。でも随分いるんだね。連れは2~3人だと思ってた」

そう言って初めてゲルン達の方を見て後、飛び跳ねるように玄関口へと戻っていく。

「お師匠様がお待ちだよ、早くおいでよ」

玄関に入った後すぐさま門扉から顔を出して、招き入れる。


「ほ、ほ、少し度肝を抜かれましたかな。あれは魔法使いエーデルヴォルフの、そのなんというか弟子みたいなもんじゃ」

ラーベフラムが説明するが、ゲルンは何か不思議な者を見たような感覚になり、ある疑問がわいたのだが、それを言っていいかどうか迷っている。

そこでラーベフラムの耳元に口を近づけて聞いてみた。

「もし聞いてはいけないことでしたら、拒絶してください。あの娘はニンゲンではないのですか?」

誰にも聞こえないように配慮して聞いたつもりだったが、近くにいたニレには聞かれてしまい、ニレの瞳が大きく開く。

「まぁ、その辺は魔法使い殿に直接聞かれるがよかろう」

そういって 言葉を濁したラーペフラムに、それ以上つっこむこともなく、ゲルンはついていった。


玄関を入ると、湿った木材の匂いが鼻をついた。

決して不快な臭いではないのだが、とても人の住む館の匂いとは感じられない。

屋内は外見同様綺麗に清掃され磨かれているものの、材料そのものの老化、劣化は隠しようもない。

館の外観は二階建てのように見えていたが、どこにも階段はなく、天上が高い平屋だったようだ。

玄関を上がりしばらく歩くと、正面から三番目の部屋の扉が開いており、そこからプーペがまた顔をのぞかせている。


ラーベフラムを先頭にしてその部屋へ入っていくと、そこは応接室のようなところで壁や床の古さは感じたものの、適度に調度品もあり清潔感は維持されている。

石でできたテーブルが中央におかれ、その向こう側に毛皮に身を包んだ老人が座っている。

これがエーブルヴォルフか?

あらかじめ聞いておかないと、ごく普通の隠居老人に見えたことだろう。


「エーデルヴォルフ殿、私どもの訪問を認めてくれて、ありがとうございます」

と言ってラーベフラムが床に膝をついたので、ゲルンもそれに従おうか、としたが、その老人は

「いやいや、そんな他人行儀なことをされてもこちらが困ります。お連れの方も困っているではありませんか」

そう言って、ラーベフラムを立たせた。

「お連れの方もどうぞ気楽に。そこらにある椅子を使って下され」

と言って、ゲルン達に着席を求めた。


ゲルンが示された椅子に座ると、ニレ、トルカ、ルル、メルシュと続いて椅子に座る。

だがザックハーだけは

「すみませんが、わしはこの方が楽なので」

と言って、床に直接腰を下ろしたが、エーデルヴォルフは特に何かを言うわけでもなく黙認した。


「あの魔剣打ちの若者が来てくれないのは、わしとしては少し残念です」

何事もなかったかのように話しかけるエーデルヴォルフ。

そしてゲルン達の紹介を求められたので、それぞれが自分の名前を語る。

「ゲルンです。我々はフレーボムの北にある『山の魔王の宮殿』からまいりました。縁あってこちらのラーベフラム様に取次をお願いした者です」

と語り、それぞれの名前を言って説明する。


「ほう、フレーボムの魔王様ですか」

エーデルヴォルフが皺だらけの顔で遠くを見るようにこぼした。

しかしすぐに現実に戻り、

「それで御用件は?」

と尋ねる。


ゲルンがラーベフラムに目で合図をして話し始めようとしたとき、扉が開いてプーペが踊るようにステップを踏みながらお茶を運んできた。

「お師匠様、お客人のお茶をお持ちしましたー!」

威勢の良い元気な可愛いソプラノ。

くるくる舞うようにお茶を各人の椅子横にある手置台に置いていく。

床に座っていたザッハーには、その傍らにある椅子の手置台へ。

踊るように動いているので、こぼれないのか心配になるほどだったが、そんなことはなく、舞の中の一環であるように配っていく。


「プーペ...」

と呆れたようにため息をもらす老魔法使い。

「いいからさがっていておくれ」

その言葉を聞きながら、入ってきた時と同じように、陽気に退出していく。

「いや、失礼した」

とエーデルヴォルフは運ばれてきた茶をすすりながら言っていた。



少し話が中断してしまったが、ラーベフラムがゲルンを促して、説明をさせる。

しばらくゲルンの話に耳を傾けていたエーデルヴォルフが、ゲルンが話し終わってしばしの沈黙の後、話し始めた。

「つまり、千里眼の目から逃れ、空間跳躍者からの奇襲をさけたい、ということなのですか?」

「そうです。何か対抗策があればお智恵をお借りしたいと思ってまいりました」

再び沈黙したエーブルヴォルフが、考え名がら口を開く。

「申し訳ないが、空間跳躍者の奇襲については、私には対策の手段がほとんどない」

やけに慎重な言い方をしたので、ゲルンがそこのところを詳しく尋ねた。

「ほとんどない、ということは、まったくないわけではない、と考えてよろしいのですか?」

この言葉に少し驚いたように、老人が顔を上げる。

「ええ、まぁ...」

「ぜひお教えいただけないでしょうか」


「お話を伺うに、その空間跳躍者は媒介もなしに跳躍して現れるのですな?」

「ええ、その通りです」

「ならばその直前に空間の歪みが生じているかもしれません。それが感知できれば、あるいは」

この言葉に、少し希望が見えたように感じたゲルンは、メルシュやトルカの方を向く。

そして再びエーデルヴォルフに向き直り、

「ありがとうございます。その歪みが測定できる術者が近くにいればよいのですね」

「ええ、しかし残念ながら私の知り合いにそのような人がおりません」

「それだけでも十分です。測定者については心当たりがありますから」

それを聞いて、メルシュがはっとして顔を上げる。


「もう一つの方、千里眼封じはどうでしょう」

「そちらは対策がとれます。千里眼はかなり古い魔術ですから、古来よりいろんな対策が考えられてきましたから。たとえば...」

そう言ってエーデルヴォルフは立ち上がり、書棚の中にある一冊の本を取り出した。

「この植物から作った草香は、千里眼の視覚方向性を歪ませることができます」

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