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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第7章 炎と雷
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【14】 王都へ

港町コートブルクを目指して馬車を急がせる魔王軍とエギュピタスのキャラバン隊。

今ゲルン、エルゼベルト、セルペンティーナの三人が、キャラバン隊のいちばん小型の客車に招かれて相談していた。

「するとこのキャラバン隊は、すぐに南方へ向かうのではなく、王都サリガンへ向かうということですか?」

ゲルンがこれからの予定を打ち明けてくれたラーベフラムに確認する。


「さようでございます。我々としても戦争はできるだけ避けたい。もし王都が我々の帰還・独立を認めて頂けるのならそれに越したことはありませぬゆえ」

「もし戦争になっても、今の王都ならやっつけることもできますけどね」

エレオノーラがラーベフラムの意見に付け足す。

だがゲルンの表情が少し曇ったのを見て、

「剣士殿、まったく成算のない理想論ではありません」

ブルーノが説明した。


まず第一に、王都はエギュピタスを滅ぼした後、管理するでもなく、軍を引きあげたこと。

戦争狂で拡張戦争を周囲に展開していた前代の王は既に病没し、当時の好戦的な中枢は既に崩壊していること。

かつて自治権を奪われていたコートブルクや魔法都市レントゥックも今では自治権を受け、実質独立市に復帰していること。

今は軍事国家と言うより文化国家になっている王都にとって、遠い南方にはあまり価値を見出していないこと。

などを挙げて、

「相互不可侵条約を結び、我々に報復戦争の意図がないことを証明すれば、可能性は半分くらいはあるのではないか、と考えています」

もちろん楽観視はしていない。

万一の場合はエレオノーラの言うように戦争という手段も選択肢にはある、ということだ。


「なるほど、表向きは筋道が通っていますね。良い考えだと思います」

これを聞いて妙に含みのある言い方をしたのがセルペンティーナ。

ゲルンも少しひっかかるのを感じていた。

なぜなら、ギデオで戦った時には、ニレを手中に収めれば、すぐに開戦するべく取って故地へ返しそうな勢いだったからだ。


「表向き、ですか。魔王軍の参謀は、ずいぶんと切れるお方のようですね」

それまでじっと会話を聞いていたブレンダが、卓上の座布団の上でとぐろを巻く金色の蛇と向かい合うように座り、続けた。

「お察しの通り、あの『器の少女』たち、さらにその背後に何かいることも想定して、戦力を割きたくない、というのが本音です」


「あなた方はこれから戻られるのでしょう?」

今度は魔王軍の予定をブレンダに尋ねられたが、これにはエルゼベルトが応える。

「ゲレス隊は帰投させます。思った以上に被害が出たので」

「ということは、あなた方は別行動なのですか?」

「いえ、それは...」

ブレンダの問いかけに、エルゼベルトが答に詰まる。

「実はまだ未定なのです」

変わってゲルンが応える。

「少しお話しましたが、向こうに空間跳躍者と千里眼がいることが気になっているのです」

ここでしばらく間を置くと、ラーベフラムがポツリと言う。

「空間跳躍者...目の前で姫を攫われたのに、儂たちは何もできませんでしたからのう」

「千里眼も我々は見ていませんが、あの空間跳躍者と同レベルならば、警戒しくてはいけないでしょうね」

ブルーノも少し考えこむように言う。

「『宮殿』に戻って対策したいのだけど、ああいうタイプはこれまでに出会った経験に乏しいので、何か有効な策が立てられるかどうか」

エルゼベルトが悔しそうに言うのを聞いて、ラーベフラムがある提案をしてくれた。


「王都にいる魔法使いに頼まれてはいかがですか?」

「王都にいる魔法使い?」

セルペンティーナがその言葉を繰り返した。

「他人の秘密を盗み見たり、またはそれを阻害したり、というのは、ある術派の魔法使いが得意にしていたりするのですよ」

ラーベフラムが少し得意げに話し始める。

「姫、魔法使いエーデルヴォルフが今まだ王都に滞在しておりますのじゃ」

「エーデルヴォルフが!?」

その名を聞いて、ブレンダが少し大きな声を上げた。

「剣士ゲルン殿、もしよろしければ私たちと同行して、エーデルヴォルフに『疎外の術』についてあの大魔法使いご相談されてはいかがでしょう」


「姫、その大魔法使いと言うのも、エギュピタスの生き残りですか?」

とブルーノが尋ねた。

「何を言ってるんだ。お前も一度会ってるはずだぞ」

と、ここまで黙って聞いていたキャラバン隊の戦闘隊長フーゴがブルーノに言う。

「バドゥラ殿の元を訪れ、おまえを連れてきた時、一緒の馬車でやってきたじゃないか」

ブルーノはしばらく記憶を取り戻そうと、目を閉じて集中していたが

「ああ、あのご老人ですか」

と、思い出した。

「そうです。かのご仁がおととしから王都に滞在されておるのです」


このやり取りを聞きながら、ゲルンの心が動き始める。

連中が宝玉少女を狙っているとしても、少なくとも今の段階ではニレではない。

空間跳躍者と千里眼の有効範囲がわからぬ中、対策は急いだ方が良いだろう。

魔力勝負で遅れを取ったとはいえ、圧倒的な差ではない。

エギュピタスの魔女姫と同行した方が有利かも知れない。

問題は誰を同行させるか、ということか...。


「わかりました。その申し出、ありがたく受けさせていただきます。誰を連れていくか、については、もう少し時間をください」

それを聞いてエルゼベルトが目を輝かせる。

「私も興味があるわ、その魔法使いってのに」

と言うが、ゲルンは

「いや、エルゼはいったん『宮殿』に戻るべきだろう。同盟の報告もあるし、フリティベルンの智恵も借りたい」

ええー、と露骨に嫌な顏をして見せたエルゼベルトだったが、

「いいわ、それって私が兄の考えを聞いて、すぐにゲルンに追いついて同行するってことよね」

と考えを切り替えて前向きになってくる。

「いや、魔王様の御令嬢がそう何度も本国を離れるというのは...」

とゲルンが言葉を濁すが、ちゃんとフリティベルンの了承を得てくるなら、というあたりに落ち着いた。



夕闇迫る中、港町コートブルクに着いた一行は、そこで宿をとることにした。

空間跳躍者を警戒して各自の部屋に結界を貼ったが、はたしてそが有効かどうかはわからない。

そういうこともあり、ヒルペク麾下の女性妖精兵と、エギュピタスの女達が夜番につくことにした。

ブレンダとニレには、感知の指輪を渡して、万一の場合に備える。


警戒していたからか、それとも射程圏外に出ていたからか、その夜は無事に過ぎた。

ゲルンはゲレス隊の増援軍、セルペンティーナやエルゼベルト達としばしの別れをして、エギュピタスと同行する人選を行った。



魔王軍とエギュピタスのキャラバン隊が急速に戦いの現場から離脱したため、『器の少女』達は追撃ができなかった。

器の少女たちは千里眼のノクトゥルナを取り囲むように、馬車の中で魔王軍逃走の様子を聞いていた。

「追撃できなかったか...」

と、マレヴィーが悔しそうにもらす。

「連中の行き先がわかるか?」

パーヴィエがノクトゥルナに尋ねると、

「既にかなり遠くに行かれてしまったので、はっきりとはわからないけれど...」

その小柄な少女がいつものように弱々しい声で呟くように言った。

「二手に分かれるみたい。魔王軍は『山の魔王の宮殿』に帰るらしい」

「するとエギュピタスの魔女姫とは別行動なんだな?」

「そうだけど、あの黒い魔剣士もエギュピタスの連中に同行するようなことを言ってました」

「どこへ向かっているかわかるか? エギュピタスの故地か?」

パーヴィエが矢継ぎ早に質問を重ねてきたので、ノクトゥルナは少し間を置いて答える。

「これだけ離れていると、映像は見えるけど、声までは聞き取れない」

そう言って、瞼の上から目をマッサージして、深いため息をもらす。

「パーヴィエ、少し労わってやって頂戴。ノクトゥルナは昨日からずっと力を使い続けているのよ」

リーダー格であるミーヴァがそう言ったので、パーヴィエが謝罪する。

「そうだったな、ごめんよ、ノクトゥルナ」


この千里眼の報告を受けて上半身に包帯を巻き、治療中のポーシャが尋ねる。

「ではミーヴァ、どうするつもりだ? 追うとしたら魔女姫のいる方だな」

「ええ。今はまだ魔王軍と正面から事をかまえるのは得策じゃないわ。それにあの剣士が同行しているとなれば、魔焔の宝玉少女もそちらに同行しているでしょうし」

「どこへ向かっているにせよ、そちらを追っていればおのずとわかるだろう」

と粘液使いの器の6番ノーマが言う。


それぞれが意見を述べている間、ミーヴァがノクトゥルナを慰労のため別の馬車へ連れ出した。

「ノクトゥルナ、大丈夫? あなたのお陰で随分と攻めやすくなっているのは確かなんだけど」

「ありがとう、ミーヴァ。もう大丈夫です」

そう言って顔を伏せる少女。

体躯のみならず声も小さく弱々しいため、返って感情が読みにくいこの少女に、何かを言おうとしていたのに、ミーヴァは言葉が継げなかった。

「私を連れ出したのは、慰労のためだけではないのでしょう?」

それを察してか、ノクトゥルナの方からミーヴァに切り出した。


「レレカ様は大丈夫なのかな、と思って」

ミーヴァがこう尋ねて、言い出しにくかったことを少しずつ漏らし始めた。

「あなたとタイスは同郷だったわよね? だから少し聞きにくかったのだけど、タイスはレレカ様をどうするおつもりなのか、わかりますか?」

「同郷かどうか、はあまり関係ありません。私は孤児でしたから」

「私、見たのよ。タイスがレレカ様の口をふさいで押さえつけていたのを」

ミーヴァは周囲を伺い、ノクトゥルナ同様小声で話し始める。

それを見てノクトゥルナが顔を上げ

「ミーヴァ、私とタイスの間には何のつながりもありません。でも私には戦うすべがないので、タイス程度の魔力でも正面からは戦いたくないのです」

「私の命をかけて、あなたを守ることを誓うわ」

ミーヴァがすかさずそう言って、ノクトゥルナの目を見つめる。


ノクトゥルナがかすかに微笑んで、続けた。

「レレカ様が魔剣士の宝玉少女とコンタクトを取ろうとしたようです」

ミーヴァか驚いて目を見張らせる。

「それをタイスがやめさせようとした、ということ?」

「はい。背後でしたので、私には見られていない、と思っているかもしれませんが」

「ふふ。あなたの千里眼は、あまり方角は関係ないものね」

ミーヴァはノクトゥルナに礼を言って、あることを伝えた。

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