【12】 爆裂弾
ドーン!
土煙とともに、大きな音が立った。
魔王軍最西方に詰めていた馬車が吹き飛ばされて空中に舞い上がり、落下。
その土煙の向こうに、何人か人影を見た魔物軍頭目モーリーが声を上げる。
「敵だ!」
東側に詰めていたゲルン、ゲレス、ヴィルトシュネーらがその声を聞いて、武器をとり、音のした方へ向かう。
土煙の中から、銅色の肌をした短髪少女が、右手を前に差し出して進んでくる。
音のした方にやってきたゲルンがモーリーに
「なにごとだ?」
と声をかけながら、その土煙の方を見る。
「ようやくあたしの出番だな」
その銅色の肌をした少女が口元に笑みを浮かべながらゆっくりと歩いてくる。
ゲルンは初めて見る顔だったが、その少女のうしろにいる錫杖を持った大柄の女と、令嬢然としたセミロングの金髪娘には見覚えがあった。
二人とはついさきほど戦ったばかりだった。
「剣士殿、敵か?」
傍らに来たモーリーが尋ねると、
「先頭の女は初見だが、その後ろにいる二人とはついさっき剣を交えた。強敵だ」
と答え、仲間の集結を促した。
モーリーとヒルペクが残存兵士をまとめ、配置させようとする中、銅色の肌の娘が、ニヤリ、と笑う。
銅色の娘が差し出す右手、その先端から肩口、そして肩に至る部分が赤黒く発光する。
そして右先から何か強いエネルギーが発射された。
集結しつつあった妖精兵の弓兵たちの元へそのエネルギーが放たれ、地面が爆発する。
ドーン!
再び大きな音がして、今度は魔物、妖精兵が吹き飛ばされる。
まるで地面が爆発し、その爆風に吹き上げられるように。
モーリー配下の魔物軍、ヒルペク配下の妖精兵がこの爆発に仰天して右往左往する。
ゲレス、モーリー、ヒルペクが必死に押しとどめてまとめようとするが、どこからともなく襲ってくる爆発に魔王軍は混乱した。
「ヒルペク、だめだ。あの女を倒さないと、どうにもならない」
ゲルンが近くで妖精兵をまとめようとしていたヒルペクに声をかける。
「わかった。モーリー、俺の妖精兵も落ち着かせておいてくれ」
と言ってゲルンとともに、その爆裂娘の方に向きを変える。
「おい、ちょっと待て。魔軍の調整だけで混乱してるのに、そんなこと」
と背後でモーリーの悲鳴が聞こえる。
ゲルンはもう一人、ヴィルトシュネーを呼んで
「あの爆弾女の後ろに控えている二人が気になる。あいつらがちょっかいを出してきた時の護衛を頼む」
と言って同行させる。
「私たちも!」
とさらに後ろからトルカも飛び出し、エルゼベルト、ルルも追いかけてくる。
「そこにいたのか、黒衣の剣士様よう」
群れから離れて向かってくるゲルン達を見てその銅色の肌を持つ少女・器の5番マレヴィーが三度爆裂弾の準備をする。
そして背後で器の1番ミーヴァが器の7番パーヴィエや同行してた他の3人に合図する。
「私たちはマレヴィーがやりやすいように護衛するわよ」
パーヴィエから遅れて少し後ろにいたライラ、ノーマ、オルガナにも指示を出す。
「ハッ」
マレヴィーの爆裂弾が今度はゲルン目掛けて放たれる。
だがすでに視界の中にマレヴィーを捕らえていたゲルンは咄嗟に体を躱して南側に飛びのく。
三度轟音が立ち、ゲルンが走ってきていた道が爆発する。
土煙が舞い、土壌が焼け焦げて、その地点を中心にして熱風が吹く。
なんとか躱せたが、ゲルンもその爆風を少し食らっていた。
後からゲルンを追っていたヒルペクやトルカも身をかわそうとしたが、熱風の衝撃を受けている。
躱されたと判断したマレヴィーは続けざまに爆裂弾を放つ。
これもゲルンは躱したが、紙一重の差。
マレヴィーの放つ爆裂弾は、ただの爆弾攻撃よりは連射が素早く、しかも威力が大きい。
近付けないどころか、どんどん距離をとらざるをえなくなる状況になる。
「ヴィルトシュネー、私をあそこまで運べるか?」
爆発攻撃をかわしながら、「白き者たちの王」にそう言って、マレヴィーの影を指さした。
「できますが、危険です」
「いや、むしろ安全だ。あいつの技は強力すぎる。自分の周辺では使えないんじゃないかな」
「わかりました。やってみます」
そう言って立ち上がったゲルンの背後に重なるよう、ピッタリとつけた。
「跳んだのがバレないようにヤツが放った瞬間に頼む」
「難しい注文ですな」
と言って、ヴィルトシュネーはニヤリと笑った。
「しかしおまえなら簡単にできるんだろ?」とゲルン。
「ちっ、ちょこまかと」
改めて狙いを定めるべく、マレヴィーは少し間をおく。
爆裂弾の範囲を拡大し、よけきれぬくらい巨大なのを放とうという考えだ。
だがこの間を縫って、トルカとエルゼベルトが飛び込んできた。
エルゼベルトもゲルンと同じく、この砲撃少女が遠距離型で、近接戦闘には適応できないのではないか、という判断だった。
トルカもその意図を察知して、突っ込んできたのだ。
だが二人の前に、パーヴィエが立ちふさがる。
マレヴィー目がけて跳びあがり、上から切りかかろうとしたトルカの湾曲刀がパーヴィエの錫杖に防がれる。
湾曲刀が止められたのを見て、トルカが後ろに飛びのくと、今度はエルゼベルトが剣を突き立て進んでくる。
だがそれもパーヴィエが身を変えて、錫杖で受け止める。
「しつこいねぇ、小娘ども」
パーヴィエがそう言って二人の進路上に立ち、マレヴィーに近寄らせない。
それを見てヒルペクが妖精弓を構え、発射。
だがその矢はパーヴィエのからだの手前で弾き落とされた。
後方からオルガナが空気弾を放って撃ち落としたのだ。
「あなた達とは決着をつけたかったのよ」
魔王の娘エルゼベルトがミーヴァの前に立って剣を抜く。
「奇遇ね、私もでしてよ、魔王の娘」
エルゼベルトが詠唱を開始する。
ゲルンから聞いていた空間陥穽術。
しかし動かない限りは発生させられないと聞いており、その時間を利用して、それに対する予見詠唱だ。
罠ではないので、罠感知の魔術は意味がない。
しかし相手が意思を持って空間のどこかに穴をあけようとしているのなら、部分的な予見で回避できるかも知れない。
予知、予見は高等魔術で、それに特化した術師が生涯をかけて研鑽しても習得できる者は限られている。
だが部分予知はその限りではない。
魔王の血を色濃く引くエルゼベルトは、今その高等術を詠唱し、自身の目に対陥穽に特化した視点を植え付けていた。
剣を顔の前面に立てて据え、攻撃準備。
これを見てミーヴァも陥穽術及び超音波メスの体勢を取る。
剣を前に立て、空間ジャンプを交えながら突っ込むエルゼベルト。
待ってましたとばかりにミーヴァがその進路に陥穽をぽっかりと広げるが、エルゼベルトは難なく回避していく。
ミーヴァの真正面から剣を振り下ろすエルゼベルト。
既に毒剣をゲルンとの戦いで壊されていたミーヴァは、その上段からの唐竹割りをよけるべく後方へと飛びのく。
だがその攻撃をかわしてもエルゼベルトの攻撃がやむことはなく、どんどん後ろに追い詰められていく。
その時、微弱な、それでいて鋭い回転音を上に感じたエルゼベルトが上方へ注意を向けると、3個の独楽が落下してきた。
ライラの殺人独楽だったが、瞬時に身をかわすエルゼベルト。
「見事な反射神経ね、お姫様」
ライラが躱された殺人独楽を回収して身構える。
「あなたもね、小さいのに見事な状況判断だわ」
エルゼベルトは剣をミーヴァに向けたまま、ライラの方にも注意を向ける。
そのわずかな時間を得て、ミーヴァがもう一つの芸、超音波メスを発射する。
この技も聞いていたため、エルゼベルトはかろうじてそれをよけたが、エルゼベルトの影が邪魔になって背後のヒルペクには肩口に当たってしまい、弓を落とす。
「やるわね。これでこちらの戦場を1対2ってことにしたのかしら」
エルゼベルトが再び剣を構え直した。
一方こちらはゲルンとマレヴィーの戦場。
マレヴィーが広範囲の爆裂弾を発射する。
ゲルンのいた場所に、今までよりも広く大きな爆発が襲う。
その瞬間、ゲルンを抱えてヴィルトシュネーが影移動。
「白き者たち」の中で、人を抱えて移動できるのはこのヴィルトシュネーのみ。
魔術の原理や体系はまったく異なるものの、器の3番レモナの術に酷似している。
相手の姿が視界から消えたと思うと、同時に背後から現れて、驚愕のマレヴィー。
「え?」
と振り返った時には、ゲルンの魔剣が頭上にあり、
(やられた!)
と覚悟を決めた。
しかしその瞬間、ゲルンの魔剣は打ち下ろされることはなく、ゲルンもろとも横へ飛びのいていく。
ミーヴァの合図で詰めてきていたオルガナが、マレヴィーの背後にいきなり剣士が出現したのを見て、空気弾を放ったのだ。
オルガナの空気弾を躱したゲルンの方は、この撃ち手も排除しようと剣をふるう。
近接先頭では得意の砲撃を封じられてしまうため、影から現れた剣士と距離を取ろうとしたマレヴィー。
しかし彼女は影から飛び込んできたのがゲルンだけだと勘違いしていた。
影に潜ってゲルンを運んできたヴィルトシュネーは再びマレヴィーの影に黙りこみ、彼女がゲルンと距離を取ろうとしたとき、再びその背後に現れた。
「なに?」
マレヴィーが気づいた時には、その口が薄い紙でふさがれていた。
気が付くと、マレヴィーの周囲に紙片が舞っている。
次々にマレヴィーの顔面を塞ぐ白い紙片。
「ヴィルトシュネー、でかした!」
と叫んでゲルンはマレヴィーのいた場所に立ち戻るが、その時またもや空間が開く。
中から大柄な空間跳躍者が飛び出し、マレヴィーを抱えてその空間の割れ目へと戻っていく。
一瞬の出来事だった。
「引け!」
それを見ていたオルガナが合図をすると、エルゼベルトと対峙していたミーヴァ達も一斉に退却し始める。
「逃がさないわよ」
そう言ってエルゼベルトとトルカが追撃しようとしたが、
オルガナが地面に空気弾を無数に打ち込み、あたり一面に土煙を立てさせる。
あと一歩、というところまで追いつめたが、とり逃がしてしまったことに気づいたゲルンは、
「あの空間跳躍者をなんとかしないといけないな」
と呟く。
近くに寄ってきたヴィルトシュネーに
「お前の術に似ているように思うんだが、なんとかできないか?」
と尋ねてみるが
「私の術は影を媒介としますが、あの女は空間そのものを移動できるみたいですので、原理がよくわかりません」
と返す。
ゲルンは相手の空間移動を目に焼き付けながら、ニレの元へと戻っていった。




