【6】 遊撃隊
ニレが光球を発見する少し前。
魔王軍後方馬車、及びその周辺。
フリーダが生き残った魔王軍魔物、妖精兵らの治療をしていた中でのこと。
客車の中で、セルペンティーナがゲルンとトルカにある提案をしていた。
「予想以上の被害です。先行したゲルン様の戦士たちに死者が出ていなかったのがとんでもないことのようにさえ思えてきます」
「フリーダが霧をはってくれたおかげかな。あれで1対1の魔力勝負にもっていけたからな」
「それでも負傷者は出てしまいました」
トルカが残念そうにポツンと話す。
「そうしょげるな。おまえは十分良くやってくれたよ」
ゲルンの労いの言葉に、はい、とは答えたものの、それでも俯きがちになてしまうトルカ。
金色の小蛇セルペンティーナが本題に入っていく。
「剣士様、恐らく彼らは退いたわけではなく...」
「そうだな、恐らく体制を整えてすぐに再戦となるだろう」
「ニレ様も、相手宝玉少女が敵の拠点地に到着したと感知されているようです」
「次は敵方の宝玉少女が来るわけか」
ポツリともらしたゲルンに、セルペンティーナがヴィルトシュネーの報告を繰り返したのち、
「ヴィルトシュネー様のご報告では、まさに新手の馬車が着いた、ということでした、つまり、そこには相手の宝玉少女が来ていたのでしょう」
と告げて、近くに忍び寄ってきた白き者たちに語り掛ける。
「ヴィルトシュネー様、その場所、及び馬車がやってきた方角を特定できますか?」
いつの間に側にいたのか、セルペンティーナの左後方に、白き者の王ヴィルトシュネーがウォリスを従えて控えていた。
「ウォリス、賢者様にそのあたりのことをご報告しろ」
「はい、私共が敵後方部隊を発見したとき、まさに新手の馬車が着いたばかりのようで、宝玉少女は最初から戦闘部隊に同行していたわけではないようでした」
それを聞いてセルペンティーナ。
「剣士様。これは私の推測なのですが...その後から来た馬車は、器の少女たちの拠点ではなく、宝玉少女が控えていた場所から来たのではないでしょうか?」
「うん? それはどういうことだ?」
「つまり、宝玉少女たちがいる拠点は、器の少女たちの拠点とは別の位置ではないか、と思えるのです」
この言葉が意味するところを理解するのに少しばかり時間がかかった。
しかしやがてゲルンも気が付く。
「つまり宝玉少女を連れてきた馬車は、ブレンダも捕えてある場所から来た、と?」
「ウォリス達が戻られる前、天の意志と運行を占っていました。すると大きな太陽が二つ西方にあり、そこから一つが分かたれた、と出ました」
こう言ってヴィルトシュネーの方に鎌首をもたげる。
「根拠はありません。単なる予感です。しかし卦の結果と一致するように思えるのです」
今度はゲルンの方を向いて
「どうでしょう、相手宝玉少女が攻めてきたスキに、私たちも魔女姫奪還に遊撃隊を出されては」
「いいな、それは。敵の攻撃を待っているのは良くないわ。攻撃こそ最大の防御って言うしね」
いつのまにか話に割り込んできた魔王の娘エルゼベルト。
見るといつの間にか、モーリーやヒルペクもこの話に耳を傾けている。
だが、セルペンティーナはエルゼベルトを制した。
「いえ、エルゼベルト姫はここでゲルン様とともに迎撃の指揮を執ってください。モーリー様も」
これにはエルゼベルトが強い不満を示す。
「なんでよ」
「おそらく敵は剣士様と姫の参戦は気づいているはずです。それにまだ十分戦力として健在なことも」
「つまり俺たちの姿が見えないと、遊撃が露見するということか」
「その通りです。遊撃ではありますが、戦闘よりもエギュピタスの魔女姫を奪還することの方が主目的だからです。それに...」
「そういうこなら仕方ないわね、それで?」
エルゼベルトが意外に簡単に引き下がった。
これもセルペンティーナに対して相当の信頼があったからだろう。
「相手の宝玉少女が出てくるというのに、剣士様と姫がこの場を離れると、戦力低下が著しく、全滅しかねません」
「俺が離れられないのも同じ理由だな?」とモーリー。
「はい。モーリー様には獣人兵の、ヒルペク様にはトロル兵達の指揮を執ってもらわなくてはいけません」
「それでは人選はどうするんだ?」とヒルペク。
「まず相手方に、ここにいなくても不思議に思われない人。そして轍の後を追跡できる人」
「つまり、誰だ?」
セルペンティーナが集まってきた魔人達を一通り見渡して。トルカの上に視線を落とす。
「先の戦いで負傷していれば戦場に出てこなくても不思議はありません。しかも全快していることまでは知られていないでしょうし」
「私だけ?」
トルカがの質問に、セルペンティーナが何人か名前を挙げていった。
モーリーが立ち上がって、
「わかった。呼んでこよう」
と言っていったん席を外す。
「しかし懸念が一つある。セルペンティーナ、おまえも同行するのなら、少し危険ではないか?」
ゲルンは参謀であるセルペンティーナも自ら同行する、と言ったので心配になっていた。
戦闘力がまったくないこの愛らしい小蛇には、荷が重すぎたように感じたのだ。
「いえ、ヒルペク様に人形を一体お借りしますので」
これを聞いてヒルペクが頷いた。
「わかった。で、もう一つ懸念がある」
とゲルン。
「はい、敵方の千里眼のことですね」
恐らく敵方に千里眼がいて、こちらの同行は視られているのではないか、とセルペンティーナは到着の時に話していた。
「それに関しては敵方の千里眼能力がどの程度の高さか、にもよりますが」
こう言うと、ヴィルトシュネーが答える。
「そうとうやっかいな千里眼のようだぞ。ウォリス達3人が簡単に見破られた、と言っていたからな」
ウォリスもこれに頷いて
「少なくとも隠形滅心程度の隠れ方では『視』られてしまうのではないか、と思います」
「では妖精の雨合羽も提供しよう」
こう言ったのはヒルペクだった。
「少なくとも視覚的な情報は遮断できるぞ」
これには
セルペンティーナも喜んだ。
「あれをお貸し頂けるのでしたら心強いです、ヒルペク様」
人選、装備も決まり、セルペンティーナがトルカに言う。
「それではトルカ、これを被ってください」
トルカがヒルペクから提供された妖精の雨合羽を頭からかぶっていくと、その姿が消えてしまった。
次いでセルペンティーナに選ばれた者たちも次々にそれを纏い、姿を消す。
セルペンティーナ自身もヒルペクの妖精人形に入り込み、装着。
まったく姿が消えてしまった空間から声が聞こえてくる。
「それでは、私たちは魔女姫奪還に向かいます」
「剣士様、私たちが戻ってきたときに、ちゃんといてくださいね」
トルカが明るさを取り戻した声音で言う。
重要な任務を与えられ、気分が回復してきたようだった。
それから数分後。
セルペンティーナの遊撃プランを聞いていたニレがゲルンに告げる。
「剣士様、得体の知れない魔力が近づいてきます」
ニレが西方の空を指さして、青い光球の接近を告げる。
ニレの言葉に驚いて西方上空を見上げると、青く点滅するような点が見えた。
その点がどんどん大きくなっていく。
その青く光るものが近づいてきているのだ。
エルゼベルトがそれを見て言った。
「ニレちゃんとよく似てるわね、色が違うけど」
その青い光球がさらにと近づいくると、何やら光る光線を出しているように見えた。
だがそれがゲルン達の馬車真上近くに来ると、光線ではなく、稲妻を放っているのだ、とわかった。
「あれがアルマリアの宝玉少女なのか?」
近くに現れると、それがニレの光球とは異質の強さ、恐ろしさを秘めた光球だとわかる。
呆然と見ていると、その青い光球から雷撃が放たれた。
それはさながら落雷のよう。
獣人兵達が集まっていたところ目掛けて光球から放たれた雷撃は、大きな音を立てて獣人兵たちを吹き飛ばした。
まさに落雷。
その下にいる獣人兵達は一瞬で黒焦げになってしまった。
光球が少し浮き上がり、まるで新たに力を蓄えようとしているのを見て、獣人隊の指揮を執るモーリーが
「散開しろ! 固まるな!」
と叫ぶ。
それを聞いて馬車付近にいた熊型、狼型の獣人兵がすばやく街道並木の外、雑木林の中へ逃げ込んでいく。
その雑木林の茂みの中から、妖精弓で射られて矢も飛んでくるが、光球に届く前に雷撃で撃ち落とされる。
逆にその発射地点目掛けて雷撃が放たれ、矢を射たトロル兵もまた黒焦げにされてしまった。
青い光球はゲルン達の馬車近くにゆっくりと降りてきて、地面に着く。
光の層が解き放たれて、中から少女の姿が現れる。
「ナイラーガの子よ、そこにいるのね」
と、ゲレス隊が乗ってきた客車付馬車を指さした。
光の球を解いたとは言え、まだ少女のからだ自身は青い光を放っており、妖精兵達は攻撃をすることもできず、遠巻きに見ているだけ。
ほどなくして客車から、フリーダに付き添われて、ゆっくりとニレが降りてくる。
「ふりーだ、離レテイテクダサイ」
ニレに言われてフリーダが向き合う二人から離れ、距離を取る。
二人の魔神級の力を秘めた宝玉を身に宿らせた少女が対峙する。
片方は青い稲妻をほとばしらせて。
片方は赤い炎を漏らしながら。




