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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第7章 炎と雷
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【5】 白き者たち

決戦の場となったスヴォロ村西方。

魔術都市レントゥックへと抜ける街道筋の外れ、器の少女たちの後方部隊をなす馬車。

そこに前線を戦っていたミーヴァ達が帰投してきた。


一様に沈んだ暗い顔をしているのを見て、アニトラが声をかける。

「御苦労様。いろいろとたいへんだったみたいですけど、増援部隊の戦力はかなり削れたのですね」

だがミーヴァはそれには答えず、

「二人やられた。ポーラ・ヴィクとメレゲラ」

もちろんアニトラ達はノクトゥルナの千里眼で知ってはいたが、悔しそうに、また悲しそうにする一同の顔を見て、言葉が詰まってしまう。


「メレゲラもやられたのか」

魔王軍の後方馬車で戦っていたポーシャはこの馬車に戻ってきて、その知らせを聞いていた。

「魔王軍は本気のようだ」

「無理して戦うよりは撤退したいところだけど」

レモナがポーシャの言葉を受けてそう言うが、それができないこともわかっていた。

『山の魔王の宮殿』側から仕掛けてきたのだから。

「回避する方法がないではないが...」

とアニトラが言う。

「やつらの狙いはエギュピタスの魔女姫だ。だからあの娘を手放して逃げれば叶うだろう」

こう言いかけた時、

「何を言ってるんだ、そんなことは今更できない」

と、馬車から声が聞こえた。


馬車の客車から一人の女がおりてくる。

「我々がこの世俗の国を捨て、魔界の村々を支配しようとしたことを忘れたのか?」

そう言ってタイスが降りてきたのだ。

「ミーヴァ、それにポーシャ。お前たちは魔王軍に負けたわけではないのだろう?」

「そうよ、あの炎の宝玉少女にやられたのよ」

ミーヴァが答えると、タイスが続けて言う。

「ならば、宝玉少女は宝玉少女に任せて、我々は『山の魔王の宮殿』の戦力をたたけばいい」


「タイス、私は宝玉少女を前に出すのは気が進まなかったのだが」

アニトラがこう言うと、タイスが睨みつけるような視線を送り、

「それはレレカ様抜きで全滅したい、ということ?」

と吐き出すように言う。

「そうじゃない。我々にはもうレレカ様がいるのだから、あの魔女姫までは欲を張らずともいいだろう、と言ってるのよ」

『器の少女』ではない二人が言い争いになりかけた時、

「タイス、アニトラ、間諜が近くに来てるわ」

と、ノクトゥルナが小さな声で二人を止めた。


少女たちに緊張が走る。

皆の目がノクトゥルナに集まる中、彼女はゆっくりと右手を上げ、街道沿いの雑木林の中の一本を指さした。

オルガナがそれを見て詠唱を始める。

空気の流れが変わって行き、オルガナの掌の中に圧縮されていく。

次の瞬間、オルガナの掌中から風弾が連続で放たれた。

ノクトゥルナが指さした木陰に土煙が舞い、地面がえぐられる。

そしてそこに一人の白い衣服に白面の少年が立っていた。


「すごいね、こんなにあっさりと見破られたのは初めてだよ」

白い少年ラムゼは赤髪短髪を揺するようにして、自分を指さしている少女を見た。

だがノクトゥルナの方は既に少年を見ておらず、次は逆方向の街路樹の影を指さす。

間髪を入れずオルガナが風弾をその影に浴びせると、今度はそこから白面の女が立ち現れた。

そしてさらに今度はタイスたちが乗ってきた馬車の影の方を指さす。

そこにもオルガナの風弾が放たれて、白衣白面の黒髪男ウォリスが現われる。

「驚きました。私たち三人がこんなにも簡単に見破られるとは」


三人を指摘したノクトゥルナはささっとポーシャの背後に隠れる。

これで自分の仕事は終り、後は戦闘部隊にお任せする、とばかりに。

パーヴィエが錫杖を取り出し、前面に出て戦おう、とすると、ウォリスが

「お待ちください、正体を見破られた私たちにには、あなた達と戦うつもりはないのです」

「少しばかりお話を聞いていただけませんか」

と、短髪ブルネットの女、ディーダが続ける。

「だからと言って、私たちが見逃すとでも?」


だがパーヴィエの言葉を無視してウォリスが続ける。

「お話を少しばかり聞かせて頂きました。そこの舞姫が言われていたこと、私たちも帰って主に伝えても構いません」

「私たちはブレンダ様を返してほしいだけです」とディーダ。


「あの娘を返したら、お前たちが引きあげてくれるのかい? 信じられないね」

「それにおまえ達から仕掛けてきたんだよな」

オルガナとパーヴィエが交互に言って、戦闘態勢を整える。


闘志をむき出しにしている二人の後ろからも、ポーシャも戦闘準備を整えるが、取り囲むように立っている3人を見て、ぎょっとする。

影から現れたのでその影に隠れるのを得意にするのかと考えていた。

あの宝玉少女と戦ったときも、この白い衣服を着て顔色が白い男達何人かと戦い、そしてその影を縫った。

だが今ここに現れた3人は影に足をつけていない。

それどころか、この昼の陽の下、かれらには影がなかった。

まるで虚像か、幻であるかのように。

(これでは影縫いが使えない)

こう思いながら、3人を交互に注視していると、その視線に気づいたのか、最初に現れた赤髪の少年が口を開く。

「僕たちの馬車を襲ったお姉さんだね。あの術には正直驚きました」

ラムゼがポーシャの方を見てしゃべり始めたので、残りの二人もそちらを見る。

「でも僕達だってバカじゃない。あれを見せられて自分の影をさらすことなんかしませんよ」


「ラムゼ、交渉の最中なのに、おしゃべりが過ぎますよ」

ウォリスがこう言うが、彼の目もポーシャをしっかりととらえていた。

(間違いない、こいつらは幻でも虚像でもなく実体だ。影がないのはこいつらの魔法なんだろう)と。


「交渉だと? 元より私たちはそんなことをしているつもりはないね」

とタイスが絡んでくる。

「パーヴィエ、ポーシャ、オルガナ、頼むわ」

こう言うと、パーヴィエが錫杖を構えてウォリスに突っ込む。

オルガナがラムゼに風弾を放ち、ポーシャがディーダに毒塗り短剣、彼らの国ではクナイと呼ばれている投擲剣を投げつけた。

だがポーシャが錫杖で殴りつけた瞬間、ウォリスはぱしゃりという、紙がこすれるような音を立てて消える。

ディーダもオルガナの風弾を全身に食らうと、紙片に穴が浮いたように崩れ、消えていく。

そしてラムゼもポーシャのクナイを食らって地面に縫い付けられたかと思うと、溶け込むように地面に消えていった。


「逃げの術みたいね」

とミーヴァ。

肩口にゲルンと戦った時の傷が残っていたが、冷静にその場を目撃していた。

「レモナ、治癒をお願い」

と言って、レモナに体を預ける。

異空間跳躍者レモナの裏技はこの治癒魔法。

『器の少女』達は全員治癒術は使えるが、レモナのそれがいちばん強かった。


タイスがアニトラに言う。

「これで間違いなく魔王軍がここに押し寄せてくるわよ」

アニトラが肩をすくめて譲歩した。

「仕方ないわね。レレカ様にひと働きお願いね」

そう言って、馬車の方を見ると、客車の緞帳を上げて、一人の少女がゆっくりと降りて来た。


「ミーヴァ、それに他の者たちも、よく戦ってくれました。向こうの宝玉少女は火焔系統なのですね?」

「はい、メレゲラもポーラ・ヴィクもその炎で焼かれました」

ふふ、と不敵な笑みを漏らしたその少女は、その年齢以上の不気味な美しさ、妖しい可憐さを顔に乗せて、微笑んだ。

何かの呪文を唱えたかと思うと、少女の周りを青い光が取り囲む。

やがてその光は光球となり、ゆっくりと浮き上がり始めた。



『山の魔王の宮殿』側の魔王軍も、ニレのいた後方馬車隊へ戻っていた。

こちらも負傷した者もいて、すぐには動けない様子だったが、ゲルンとゲレスが対抗策を考えているところにヴィルトシュネーがやってきて報告する。

「剣士様、斥候に出した者が戻ってきました。後方本陣の場所がわかりました」

ゲルンは獣人部隊のモーリー、妖精兵団ヒルペクの方を向いて

「モーリー、ヒルペク、仕掛けられるか?」

と尋ねた。

ほぼ全滅させられたゲレスの魔物隊と異なり、モーリー、ヒルペクもまだ負傷していない者が半数近くいたので、頷く。


だがその時、

「お待ちください、剣士様」

と、ゲルンに声をかけたのは、参謀格の金色の小蛇セルペンティーナ。

「少し提案をさせていただきたいのですが」

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