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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第7章 炎と雷
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【4】 空間陥穽術と再戦

「魔王軍の増援と聞いていましたが、この程度ですか?」

前線で陽動部隊の指揮を執る器の1番ミーヴァが不敵な声をもらす。

ゲレス配下の魔物達、そしてトロル隊、モーリー配下の獣人兵、そのほとんどがミーヴァの空間陥穽に引きずり込まれ、その存在を消されていった。

比較的後詰めできたモーリー隊こそある程度の数が残っていたが、ミーヴァの空間陥穽術になすすべもない、という点では戦力にならない。


ゲレスは次々と吸い込まれて行った庶弟達を目の当たりにして、頭に血が上ってしまい、魔物隊の指揮も忘れて、突っ込んでいった。

それを見てミーヴァ。

「あなたがこの増援隊の指揮官みたいですわね」

にっこり笑って、その進路中空と、地面に黒い穴を現出させた。

ゲレスに何か策があったわけでなく、怒りにまかせて突っ込んでいっただけなので、ついに増援部隊の長もこの陥穽術の餌食となるのか、と思えた瞬間。

下半身を中空の空間陥穽にとらえかけられていたそのカラダ、その首根っこを黒衣の剣士がつかみ、陥穽から引きずり戻した。

引き戻されたゲレスがゴロンと地面に転がる。

ゲレスをつかみ戻したゲルンは街道沿いの雑木林の幹に綱をかけ、それを頼りにゲレスを引きずり戻したのだ。


「あなたでしたか」

それを見てミーヴァが言う。

一度ミーヴァの空間陥穽術を見ているゲルンは、その陥穽術の間合いを見切っていた。

通常の陥穽とは違い、地面や床など、下にのみ出現するのではなく、頭上、中空の空間にもぽっかりと穴が開く。

その空間に足を踏み入れるや強い力で吸い込まれ、真空世界の中で分解される。

だが、その空間から多少の引力は出ているにせよ、陥穽そのものが襲い掛かってくるのではなく、あくまで動くものに対して開かれるのだ。

そして吸い込むその間合い。

陥穽が開いた瞬間、その間合いを見切ればよけられる。

そう判断して、吸い込まれかけたゲレスを救い出したのだが、瞬時の反応になるため、いつでも有効とはならない甚だやっかいな術だ、と認識していた。


「ゲルン、助かった」

のろのろとからだを起こすゲレス。

「つまり近接戦だと思って近づくと、その瞬間引きずり込まれるってわけだな」

それを聞いて背後に残っていたトロル隊や獣人部隊は動けなくなってしまった。

だがもう一つ、ゲルンは口には出さなかったが、あることに気づいていた。

それは現在いる場所に陥穽が開くことがない、ということだ。

あくまで足を一歩踏み出したときに、陥穽が開く。

それに何か意味があるのか、それともこの女の術の限界なのか。

そこまではわからなかったが、少なくとも位置を変えなければあの陥穽にはまることがないのではないか、と考えていた。


「おやおや、ピタリと動かなくなりましたね」

そう言ってミーヴァは細身の剣をスラリと引き抜いた。

傍らで見ていた器の8番ライラは

(見事なものだわ)

と少しばかり他人事のように、ミーヴァの落ち着きように関心していた。

(でも剣士さん、ミーヴァの技はそれだけじゃないのよ)

と思い、戦に注視する。


ライラも、そしてゲルンの背後にいるゲレス隊の面々も、身動きがとれぬまま二人の戦いを見ていた。

だがその横で、地面から体を起こしたゲレスが蹲るように座り、体をミーヴァの方に向けた。

ゲルンはそれを見て、ゲレスがやろうとしていることを理解し、少し横に動いた。


ゲレスの全身の体毛が、髪が、顔一面を覆う髭が、立ち上がる。

そして次の瞬間、そのうちの剛毛が目前の少女目掛けて放たれた。

体毛はゲレスの体を離れるや、針のようにミーヴァに向けて突進していく。


無数の毛針が殺到してきたが、ミーヴァはそれに動ずるでもなく自身の近くに空間陥穽を開け、そこに毛針を全て吸い込ませる。

これを後方で見ていたトロル隊もゲレスにならって、遠隔からの攻撃を仕掛けるべく、弓を取り出し弦を引き絞った。

一斉に飛んでくる矢。

しかしこれも途中でミーヴァの空間陥穽に飲み込まれる。


「あらあら、一歩も動かず、遠隔からの攻撃だとなんとかなるとお考えでしたの?」

ミーヴァが何食わぬ涼しい顔で、ゲレス隊の面々を眺めた。

「それでは今度はわたくしから」

そう言って、ミーヴァが弓矢を打ち出してきたトロル隊の方に顔を向けた。


明らかに空間陥穽術とは違う構え方だったので

(何をするつもりだ?)

とゲルンは身構えていると、ミーヴァが口笛を吹くように口をすぼめた。

すると人の耳に感知できるかどうかの、高い音が発せられる。

その瞬間、ミーヴァが顔を向けたトル兵達の何人かが音もなく真っ二つになっていく。

さらにその背後にあっ雑木林のいくつかもきれいに寸断され、メキメキと倒れていく。

「な、何がおこった?」

ゲレスが驚いてゲルンの方を見ると、

「音だ。超音波メスで、トロルたちを切り裂いたんだ」

とゲルン。

「あなた達と同じように、わたくしにだって遠隔攻撃はできますのよ」

とミーヴァは言うが、その速さ、正確さにおいて、毛針や弓矢をはるかにしのぐものだった。


「そうみたいだな」

ゲレスと同じように地面に伏せていたゲルンが立ち上がる。

「やれるのか?」

傍らでゲレスがこっそりと尋ねる。

さきほどは頭に血が上って無策の突進をしてしまったが、相手が強烈な技を持っていること、それが今の自分には躱せそうにないことをようやく悟った。

同様にゲルンも小声でゲレスに応える。

「あいつと前に戦った時に気づいたんだ。あいつはあの陥穽術を『目で見た相手』にしか使えない。そこで...」

ちらりと背後で防戦一方になっているヒルペクに目で合図を送り、剣を構える。


「作戦会議はすんだのかしら」

こう言ってミーヴァがゲルンの方に顔を向ける。美しく愛らしい顔だ。

この顔であの技を繰り出してくる、そのギャップも相当だがな、と思いつつゲルンはその魔剣に魔力をこめる。


ミーヴァが口をすぼめて超音波メスの発射体制に入る。

同時にゲルンの身体が宙を舞う。

口腔を使った技だ。

だとすると呼吸や口唇の筋肉とも関係しているだろう、というのがゲルンの読みだった。

超音波メスそのものは高速かつ精度が高く、一度狙いをつけられたら避けるのは不可能だろう。

だが口唇を使っているので、その顔の筋肉の動きで発射するタイミングが測れるのではないか。

その読みだったが、まさに的中で、発射前のタイミングならよけることができる。

しかも背後からは、ゲレスに頼んで毛針放射を、ヒルペクに合図して妖精弓の射出を同時にしてもらう。

超音波メスを躱されたと知ったミーヴァはその瞬間次の技、空間陥穽をゲルンの進路前に展開。

だがゲルンの背後から来る毛針に対しても同時に対応する。

ミーヴァは自身とゲルンの間に空間陥穽を作り、毛針と妖精弓から打ち出された矢を吸収した。

その一瞬、大きく宙に跳ねたゲルンの姿を見失った。


「ミーヴァ、上よ」

上空からメレゲラの声に気づいて、ハッとして上を見るが、遅い!

毛針を吸い込む空間陥穽を上に避けたゲルンが、ミーヴァ目掛けて魔剣を振り下ろす。

ミーヴァが咄嗟に細身の毒剣を出して受けようとするが、剣の強さに関してはゲルンの魔剣が上回る。

パリン、と硝子が壊れるような音を立ててミーヴァの剣が砕かれる。

同時にゲルンの剣がミーヴァの肩口から襲い掛かった。


「あぶない!」

ミーヴァの身体が一瞬宙に浮いた。

空中浮遊術で上空に待機していたメレゲラが綱を投げてミーヴァのからだを後方上空へ引きあげたのだ。

ゲルンの剣は確かにミーヴァを捕らえていたが、肩口の衣装と肌をいくばくか切り裂いただけで、致命傷には至らなかった。


ゲルンが剣を抱えて着地すると、上空を見上げた。

ミーヴァの両肩を腋から抱え上げているもう一人の『器の少女』を目撃した。

器の11番メレゲラ。

毒塗り短剣も得意とはするが、その最大の術は浮遊術。

鳥が飛ぶというより、昆虫、それも羽虫などがゆらゆらと空中に浮遊しているかのような飛行術である。

「助かったわ、メレゲラ」

「ミーヴァの空間陥穽を二度にわたって躱したやつなんて初めて見たよ」

と、空中で一息つく二人。


なんとか空中に逃げ出せたものの、一瞬で優劣が逆転したこの様子を、地上に残っていたライラも見ていた。

だが、地上に立ったゲルンが攻撃をするでもなく、ただ二人をじっと見ているだけなのに気が付いた。

ライラは、ゲルンに対空攻撃の手段がないのだろうか、と思いながら見ていたが、やがてあることに気が付いた。


「メレゲラ、だめ! 早く降りてきて!」

ライラの声が届いたのかどうか、一瞬メレゲラが後ろを振り向いたときには、もう遅かった。

西方から伸びて来た高温の熱線がメレゲラを捕らえた。

炎に包まれて、メレゲラが落ちていく。


後方からニレの火炎放射を食らった瞬間、メレゲラが腕を緩めたためミーヴァの方は空中に投げ出され、雑木林の一本に落下する。

はるか西方に輝いていた火球がゆっくりと近づいてきて、やがて地上に降りる。

球形に自身を覆っていた火焔を解き、中から幼げな少女が現われた。

「今度ハ上手ク、イッタワネ」

遠距離からの火炎放射。

以前ミーヴァに放ったこの技。

空中でそのミーヴァを抱えながら揺れるように浮いていた少女達を見つけて敵と判断し、放射。

距離があったため、布使いの女の時のように全て焼き尽くすことはできなかったが、それでも浮遊術者はしとめられた。

樹間に逃れたミーヴァを探しキョロキョロしていると、ゲルンが近寄ってくる。

「ニレ、助けてくれたのはありがたいが、どうして出てきた」

「御主人様、向こうにも宝玉少女が到着したようなの」

瞳の色が黒く戻っており、魔焔公の力を止めていることがわかった。


(あれが宝玉少女? まだ幼女じゃないの)

一部始終を見ながら、樹間に身を潜めていたライラは火球の中から現れたニレの姿に目を見張っていた。

(レモナ、宝玉少女が現われたわ。私たちでは対抗できない。回収して)

念話でノクトゥルナを経由して、レモナに意志を伝える。

見ていると、まず雑木林の一本にしがみついているミーヴァが回収されていくのが見えた。

そして間もなく、自分のところにも表れて、レモナがライラを抱え、異空間跳躍を行った。


同様に戦場に残っていたオルガナとパーヴィエも撤退していく。

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